リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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コノカ

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 アリシアの発狂は突然だった。いや、今までも様子が可笑しかったのを無理に我慢して平然を装っていたなら突然ではないのかもしれない。
 彼女の声は施設中に響いた、そして彼女は自ら発生させた炎を操り、蓮の山火事事件より強大な力で大暴れしていく。
 他の教育係が集まってきて、彼女を取り押さえて睡眠薬を注射で打たれ、彼女はぐったりとして運ばれて行った。
 彼らがいなくなり、静まった時だった。

『おとうさま?』
『私はお父様ではないよ。』
『おとうさまはどこ?』

「なんだ?」
 と皆が思った。それは教団の左上、天井から下がるように設置されたテレビから流れていた。しかも映像付きだ。
「ルビーの瞳……シティアと同じだ」
彼女に脅されていた教育係だろう、彼女を貶める為に集めた過去の映像を流すと半狂乱に放送があった。止めに行く者はいなかった、みんなが彼女のことを知りたがった。映像は静かに皆の前で流される。
『お父様は奥の部屋で君を待っているよ』
『おとうさまがありしあをまっているの?』
『そうだよ』
『わあい! おとうさまあそんでくれるかな』
『さあね、其れは入ってからのお楽しみだ』
 幼いアリシアは可愛らしく、今より少し長い髪を下ろしている。カメラに向かって指を指して言った。
『ねえそれはなあに?』
『記録だよ。思い出や成長を残して置かないとね。大きくなってから見返す為に、ね』
『わあ、よくわからないけれどすごぉい』
『あはは、社交的だね。さ、お父様が待っているよ』
『はあい』
 真っ白な施設の中に一際目立つ赤い扉があり、そこへ彼らは入っていく。扉を開けた先には、見たこともないような美しい男性が立っていた。真っ白な髪と真っ白な服、瞳は青い。
『遅かったねアリシア』
『おとうさま……! おとうさま~!』
 ここまで映像を見ていて、生徒の半数が気付かなかったことを串間が言う。
「アリシアなのか!? さっすが幼少期はエンジェルしてんな~」
「可愛いな。流石は俺の花嫁だ」
「まだイってんの兄上」
「何だか微笑ましいですわね」
「そうダナ」
 父親のところに駆けていき抱き付いたらすぐに離され、父親は傍のベットに視線を向ける。
『此処に寝てごらん』
『わあ、おっきいね~』
 きぃ、とアリシア達の入ってきた扉が開き、誰かが覗いた。
『おとーちゃ?』
『おやおや、シティア、此処に来ては行けないよ。また今度連れてきてあげよう。お姉ちゃんの邪魔を来ては行けない』
 シティアと聞いて、教室にいるシティアは「え……」と声を出すことしかできない、何が起こっているのか全く理解できていないのだ。
「シティアさん愛らしいですわ~」
「瞳の色が違う。シティアの赤い瞳じゃナイ。何故ダ」
「日本人と外人のハーフなんかは成長していく過程で変化する奴もいるらしいぞ」
 と串間が言う。
「ダガ――」
「お前変な処に頑固だなぁ」
 頭伎がそう言うと、蘭は黙って映像を眺めることに専念した。つまり無視だ。
『おとうさま? してぃあといっしょにあそんじゃだめなの?』
『シティアと遊んでくれる人はいるんだよ』
『してぃあとあそぶのはありしあとおとうさまじゃなくちゃだめだよ』
『わかった。私がシティアと遊ぼう。だが君は此処で皆と遊びなさい』
『え? おとうさまいっちゃうの?』
『そうだね。少しだけ遊んであげよう』
 そう言ってヒグナルがし出したのは、寝転んだ彼女の身体を拘束することだ。幼いアリシアは何をされているのか解らないのか嬉しそうに笑っている。
「おいおい、雲行きが怪しくなってきたぜ。やっぱ目には目を、ヒグナルにはヒグナルをってか……」
「シティア……?」
 シティアはその頃のことを思い出してきていた、ぶるぶると身体が震え、自分も拘束されたことを、自分の腕で確かめていた。
『では、私は外でシティアと遊んでくるよ』
『はい。お任せを。記録もバッチリ録っときますんで』
『やんちゃしないようにね、アリシア』
『はあい』
 ヒグナルが出ていってからふんふんと鼻唄を歌っていたアリシアの前に、怪しげな器具を持った男が立つ。
『いまからなにをするの?』
『実はね、シティア嬢は危険な病気に掛かっているんだ。彼女を助ける為には君の力が必要だ。だから手伝ってくれないかな?』
『ありしあがしてぃあをたすける?』
『そう。君にしか出来ないことだ。』
『わかったわ。してぃあをたすけたいの』
『そう。そりゃあよかった』
 男はアリシアの頭を側面から固定し、全くの身動きが出来なくすると、器具を彼女の目の上で止めた。
『あ、の』
『すぐ終わる……いや、その逆かもね』
『こわい、こわいよ、こわいよおとうさま、なんかこわいの、こわい』
『大丈夫』
 にこり、と優しい微笑みを浮かべる男。それでもアリシアは震えていた。
『お父様は終わった後に来る』
 ぐちゃっと音がして、男はアリシアの目に器具を差し込んだ。
『ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! いたい、いたい、いたいよおお』
 鋭利なカーブのある器具だ。それで目をたこ焼きのようにかき混ぜて、掬い出そうとしている。
「嘘だろ……」
「貴様が……目の話をするからダ……」
「……バカ言うな。お前が言ったんだろ。目を逸らすなよ」
 頭伎と蘭の掛け合いも聞かずに、シティアが俯きがちに自分の目元を抑える。
『掴みづらいな』
『だから言ったろ。そこの落ちてるペンチじゃ駄目なのか』
『おお、ナイスだ』
『あああ、ああああ、おと、おとうさ、おとうさま、とうさま』
「……アリシア、おトウさんのコトキラいってイってたんだ。こんなコトがあったなんてシらなくて、オレ、アリシアにヒドいコト」
「嘘でしょ。嘘って言ってよ……、だって、だって、私の、私の目って」
「シティア、しっかりしロ」
『つうか其様な乱暴で好いのか? 目玉は無事だが、その周りがぐちゃぐちゃじゃねえか』
『あ? いいんだよ。何てったってあの緑粒子が手に入ったんだ。後で入れときゃキレイさっぱり元通りだ』
『おーべんり』
『よし終わった』
 くり貫かれた瞳をバットに乗せ、他の男へ渡す。男は違う部屋へと其れを持っていった。
『用意しておいた義眼は?』
『後ろだ。』
『おお、あったあった』
『それにしても如何して目をくり貫く? 売るのか?』
『いや。そうじゃねえ。君様きみさまはこの子を深く愛していたが、シティア嬢が成功してから気付いたんだろうよ。この子を作った時緑龍子りょくりゅうしを少ししか注入しなかったのに対して彼の子はたっぷりだったからな』
『成る程。だからアリシア嬢の髪に変化がないのか。この色はもしかして――』
『君様の昔の髪の色らしい。緑龍子を吸い過ぎる前はこの色だったんだ。それからアリシア嬢は緑龍子が効いても副作用は受けない体質だ』
『ならアリシア嬢の方が最高傑作なのでは?』
『残念ながらそれはない。今の君様でないとジェキシイン様に気付いて貰えないんだと』
「お父さん……私のお父さんの名前」
 シティアが呟くと、それぞれに皆がごくりと喉を鳴らした。
『髪色は君様。瞳の色はジェキシイン様。自分の娘にキューピット役になって貰うと言う訳か』
『その為にもアリシア嬢の瞳をシティア嬢に移植する……か。ん? 待てよ。緑龍子をアリシア嬢に吸わせれば早かったんじゃないか?』
『いくら効かない体質とはいえ、髪色を変えるまで使ったら瞳の色まで薄くなる可能性がある。シティア嬢の瞳に緑龍子が浸透していなければアリシア嬢と同じルビーの瞳だったんだがな』
『そうか。彼女らを作ったのはジェキシイン・ダーワーク様の記憶を戻す為だったな』
「そんな……」
 シティアが自分の目を掻きむしるのを見て、蘭はそれをやめさせる。
『気を失ったか。緑龍子を注入して、義眼を置いときゃ勝手に後はやってくれるさ』
『便利なもんだな。医者でもないお前でも出来るんだもんな』
『お前でも出来るさ』
『だな』
 緑龍子……聞いたことがある。昔は病気を一瞬で治す良薬とも寿命を伸ばす伝説の薬とも言われていた粒子。その異常性と絶対防壁の要塞をへて、1つの国家として独立を成功させた作り手。しかし〝ラナ〟は今や廃都市と化した。
 映像はそこで止まった。教育係の高笑いと、それを止めに入る他の教育係の声がして、彼が連行されたのだと分かる。
「アリシアとどう接したらいいの……」
「シティア……」
「ミンナでおミマイにイこう」
 蕁の言葉に皆が顔を合わせて頷いた。その頃アリシアは夢を見て魘されていた。
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