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ディーヴァ
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奏はこの時、少しだけ残酷なことを問いかけた。
──まあ……。
「皆殺されてないの……?」
「言っただろ……? ディーヴァは屈強な種族、そう簡単に殺せない」
──ラドもそれを簡単にスルーしてしまうのだけれど。
「そっか……」
奏は安心した。
──ミドノやカナタが殺した人数もわりと少ないかもしれない。
しかし、そんな考えはすぐに打ち消されることになる。
「……KTBは除いてだけどな……」
そう、考えた以上に、多いかもしれない。
胸の奥がモヤモヤとして気持ちが悪かった。
色々なことを考える度に窮屈な心がもっと狭くなっていく気がする。
このままだと張り裂けてしまうのではないか、そう考えて、奏は心を落ち着かせようと胸を軽く撫でる。
──落ち着いてからまた、ラドの話に耳を傾けた。
「この頃のKTBは前より厄介なんだ。奴らは、種族の者を見つけたらすぐに殺す筈なんだが、拐っていく光景をよく見かけるらしい」
拐う?
「助けてあげないの……?」
──もし、種族なんかになりたくなかった人だったらどうするの……私みたいに、知らなかったら……?
ラドは少し辛そうな顔をした。そして、今にも枯れそうなかすれた声で、力強く告げる。
「人質にも出来るだろ。むやみに近づけなかった……」
──……そうか…………助けようとはしてるんだ……。
そうだよね、お兄ちゃんは昔から優しいもんね。
最っ低なことをしてきた極悪種族との共存を考えるなんて……優しすぎるんじゃないかしら。
「だから調べた。近づけはしないけど、拐われた者たちが無事なのかをな……」
「無事なの?」
どうせ──……殺されてたとか言うオチだろうけど……。
ダメダメ、なんてこと考えてるの私。さっきから変よ。心が病んでいると最低種族の本能が出て来るのかしら。あーやだやだ。
「無事……ではないか……」
やっぱり……。
「でも生きてはいる」
ラドはそう言いながら奏の目を見つめる。じぃっと。これが熱い眼差しと言う奴では? はっ、なんてな。
「綺麗になったよな……」
寂しそうな表情には合わない言葉に奏は驚愕する。
「は、はい……!?」
いきなりすぎない!?
「成長してお兄ちゃんは嬉し……い……。……………………」
ラドはいきなり黙り込むと、奏をじいっと見つめた。
さっきのセリフはきっと、嘘ではないのだろう──いや、ブスだけどさ!?
ラドにはそう思えることなんだろう、でもそれとは他に、ラドは別のことを考えていた筈だった。
たとえば──……絶望に染められた私の思考回路が、おかしな方向にいってしまったことについて。
そして──なぜか、ラドは奏との距離を近づけようと、だんだんとこちらに迫ってくる。
奏はラドの口から出された〝綺麗〟の文字に困惑していた。
けれど、それをまた増幅させることになる。
「え、あ、あの──……うわっ……!?」
ラドは奏をベッドに押し倒し、じぃっと奏の目に熱い眼差しとやらを送り続ける。
──な、何この状況……。
お兄ちゃんは美形さんだけど、そう言うの関係なく、その、押し倒されるって……どきどきが止まらないわ、うふ。────………………そこから退いてくだせぇぇえええ!?
「奏……お前綺麗になりすぎじゃないか……?」
「なななな、何を言ってるの……」
ラドは奏の首元ですんすんと鼻を鳴らしている。
ば、バカなんじゃないの。
そして、少しかすれた声で囁く。
「お前は変わらない……お前はお前だ……。この匂いは違う……これはお前の匂いだ。そうだろ?」
奏は、その寂しげな声の裏に隠れた真意をよんだ。
──あ……あぁ……そうか。
──この人は、耐えきれなかったんだ。私みたいな絶望に浸りそうな人たちを助けてきた。私がいっこうに、自分は自分だと認めなかったから、お兄ちゃんは、こんなことしたんだ。
──……たぶん……。
ラドはまだ首元に顔を近づけている。奏の耳には鼻呼吸の音が響く。
そう言えばお兄ちゃんって匂いフェチだったような……。
「…………ハァ……やばい……」
「な、何が─────ぴょぉっ……!?」
奏は昔から、肌が綺麗だ肌が綺麗だと言われてきた。
それもその筈、後から聞いた話、ディーヴァ族は不老らしい。
美男美女族、美しい容姿を持つ。
奏以外は……。
私の顔が足りないために肌の方に年期を入れてんじゃないかしら……? 顔を足りさせろや。てかまずこれほんとに肌いいのか?
何でいきなりそんな話をし出したかと言うと、ラドと言う美男の唇を、奏の肌が奪っているからである。
いや、私の肌を奪ってるよね……?
いや、そもそも関係ないのだろうけど、これは──……どう説明すればいいのか分からないのよ。
奏は我に帰ると、すぐに悲鳴に近い声でラドに助けを求めた。
「や、やや、やめてよ……!? そ、そんなとこ……!」
「すまん、お前の匂いが……」
ラドは真顔でそう告げる。真顔でも顔は赤いのだけれど。
瞬間、ラドはまたふにゅりと首筋に唇を付けた。
その音を鳴らし、奏に変な思いを抱かせる。
──あ、ぁあぁ……誰か助けて……超違和感……。
やっぱり男って力強いのねぇ………………何て言ってられない。
奏の足はラドの腹に入り込み、見事に蹴りを叩き込んだ。
刹那、奏の前方の壁にラドが激突する────奏がラドを蹴り飛ばしたのだ。
奏はその後、ふわりと宙を舞い床に降り立つのだが────……あれ?
これ、身体が軽いのって、ディーヴァだから……?
ひとつの疑問が浮かぶ。
力も一般の女性の方々とは結構差があるし。
そう言うことだったのね。
よくこれのせいでいじめに遭ったわ……。
それを助けてくれたのが……あぁ忘れなきゃ……。
奏は取り敢えず近所のお兄ちゃんを蹴り飛ばしたことで、自分がディーヴァなのだと確信した。
「いててて……」
ラドは唯一壁と接触した背中をさすり、痛みを和らげようとしていた。
奏はそれに呆れた目を向け一言。
「変なことするから……」
「助かった。ありがと。危険だな俺は」
「平気な顔で言うな……」
でも──……お兄ちゃんと話して楽になった。
2人のことを考えても心がヒリつくことがなくなったから。
──ミドノ、カナタ、今何してるかな……。
──まあ……。
「皆殺されてないの……?」
「言っただろ……? ディーヴァは屈強な種族、そう簡単に殺せない」
──ラドもそれを簡単にスルーしてしまうのだけれど。
「そっか……」
奏は安心した。
──ミドノやカナタが殺した人数もわりと少ないかもしれない。
しかし、そんな考えはすぐに打ち消されることになる。
「……KTBは除いてだけどな……」
そう、考えた以上に、多いかもしれない。
胸の奥がモヤモヤとして気持ちが悪かった。
色々なことを考える度に窮屈な心がもっと狭くなっていく気がする。
このままだと張り裂けてしまうのではないか、そう考えて、奏は心を落ち着かせようと胸を軽く撫でる。
──落ち着いてからまた、ラドの話に耳を傾けた。
「この頃のKTBは前より厄介なんだ。奴らは、種族の者を見つけたらすぐに殺す筈なんだが、拐っていく光景をよく見かけるらしい」
拐う?
「助けてあげないの……?」
──もし、種族なんかになりたくなかった人だったらどうするの……私みたいに、知らなかったら……?
ラドは少し辛そうな顔をした。そして、今にも枯れそうなかすれた声で、力強く告げる。
「人質にも出来るだろ。むやみに近づけなかった……」
──……そうか…………助けようとはしてるんだ……。
そうだよね、お兄ちゃんは昔から優しいもんね。
最っ低なことをしてきた極悪種族との共存を考えるなんて……優しすぎるんじゃないかしら。
「だから調べた。近づけはしないけど、拐われた者たちが無事なのかをな……」
「無事なの?」
どうせ──……殺されてたとか言うオチだろうけど……。
ダメダメ、なんてこと考えてるの私。さっきから変よ。心が病んでいると最低種族の本能が出て来るのかしら。あーやだやだ。
「無事……ではないか……」
やっぱり……。
「でも生きてはいる」
ラドはそう言いながら奏の目を見つめる。じぃっと。これが熱い眼差しと言う奴では? はっ、なんてな。
「綺麗になったよな……」
寂しそうな表情には合わない言葉に奏は驚愕する。
「は、はい……!?」
いきなりすぎない!?
「成長してお兄ちゃんは嬉し……い……。……………………」
ラドはいきなり黙り込むと、奏をじいっと見つめた。
さっきのセリフはきっと、嘘ではないのだろう──いや、ブスだけどさ!?
ラドにはそう思えることなんだろう、でもそれとは他に、ラドは別のことを考えていた筈だった。
たとえば──……絶望に染められた私の思考回路が、おかしな方向にいってしまったことについて。
そして──なぜか、ラドは奏との距離を近づけようと、だんだんとこちらに迫ってくる。
奏はラドの口から出された〝綺麗〟の文字に困惑していた。
けれど、それをまた増幅させることになる。
「え、あ、あの──……うわっ……!?」
ラドは奏をベッドに押し倒し、じぃっと奏の目に熱い眼差しとやらを送り続ける。
──な、何この状況……。
お兄ちゃんは美形さんだけど、そう言うの関係なく、その、押し倒されるって……どきどきが止まらないわ、うふ。────………………そこから退いてくだせぇぇえええ!?
「奏……お前綺麗になりすぎじゃないか……?」
「なななな、何を言ってるの……」
ラドは奏の首元ですんすんと鼻を鳴らしている。
ば、バカなんじゃないの。
そして、少しかすれた声で囁く。
「お前は変わらない……お前はお前だ……。この匂いは違う……これはお前の匂いだ。そうだろ?」
奏は、その寂しげな声の裏に隠れた真意をよんだ。
──あ……あぁ……そうか。
──この人は、耐えきれなかったんだ。私みたいな絶望に浸りそうな人たちを助けてきた。私がいっこうに、自分は自分だと認めなかったから、お兄ちゃんは、こんなことしたんだ。
──……たぶん……。
ラドはまだ首元に顔を近づけている。奏の耳には鼻呼吸の音が響く。
そう言えばお兄ちゃんって匂いフェチだったような……。
「…………ハァ……やばい……」
「な、何が─────ぴょぉっ……!?」
奏は昔から、肌が綺麗だ肌が綺麗だと言われてきた。
それもその筈、後から聞いた話、ディーヴァ族は不老らしい。
美男美女族、美しい容姿を持つ。
奏以外は……。
私の顔が足りないために肌の方に年期を入れてんじゃないかしら……? 顔を足りさせろや。てかまずこれほんとに肌いいのか?
何でいきなりそんな話をし出したかと言うと、ラドと言う美男の唇を、奏の肌が奪っているからである。
いや、私の肌を奪ってるよね……?
いや、そもそも関係ないのだろうけど、これは──……どう説明すればいいのか分からないのよ。
奏は我に帰ると、すぐに悲鳴に近い声でラドに助けを求めた。
「や、やや、やめてよ……!? そ、そんなとこ……!」
「すまん、お前の匂いが……」
ラドは真顔でそう告げる。真顔でも顔は赤いのだけれど。
瞬間、ラドはまたふにゅりと首筋に唇を付けた。
その音を鳴らし、奏に変な思いを抱かせる。
──あ、ぁあぁ……誰か助けて……超違和感……。
やっぱり男って力強いのねぇ………………何て言ってられない。
奏の足はラドの腹に入り込み、見事に蹴りを叩き込んだ。
刹那、奏の前方の壁にラドが激突する────奏がラドを蹴り飛ばしたのだ。
奏はその後、ふわりと宙を舞い床に降り立つのだが────……あれ?
これ、身体が軽いのって、ディーヴァだから……?
ひとつの疑問が浮かぶ。
力も一般の女性の方々とは結構差があるし。
そう言うことだったのね。
よくこれのせいでいじめに遭ったわ……。
それを助けてくれたのが……あぁ忘れなきゃ……。
奏は取り敢えず近所のお兄ちゃんを蹴り飛ばしたことで、自分がディーヴァなのだと確信した。
「いててて……」
ラドは唯一壁と接触した背中をさすり、痛みを和らげようとしていた。
奏はそれに呆れた目を向け一言。
「変なことするから……」
「助かった。ありがと。危険だな俺は」
「平気な顔で言うな……」
でも──……お兄ちゃんと話して楽になった。
2人のことを考えても心がヒリつくことがなくなったから。
──ミドノ、カナタ、今何してるかな……。
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