リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディーヴァ

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 KTB戦闘機内。
 司令部室から少し離れた位置にある少尉室。
 その端に堂々と存在する、〝お仕置き部屋〟。
 今現在、その中にカナタとミドノは正座させられている、のだが、怒る本人も正座する意味を解いたい。
「おまいたち2人が逃すとは……愚かな者たち()、日頃の行いの良さに感謝する日が来たよう堕増だぞ。お仕置きは無し
 彼女の名は亞来あくる
 実力は中の上程度だが武器の扱い方や仲間思いの激しいところが評価され、少尉としての地位を獲得した人物だ。
 彼女は明るく、KTBの中でもかなり年が低い方で、冗談が通じることもあって、みんなに慕われている。
 そんなアクル少尉に、ミドノがいつもと同じ調子で言う。
「少尉! カナタがお仕置きしてほしいって!!」
「いらないです……」
 カナタはミドノの隣でボキボキと指を鳴らす。
 あ、そうそう……。
 ──我らが少尉は女性…………間違えた……。
 少尉は子ども。
 貧乳で背が小さくてバカで頭が腐っててバカでバカ。
 そして変態。
「ミドノちゃんは相変わらずカナタちゃんをいじめる、我はぞくぞくす流増るぞ
「そうですか」
 変態。
「まるで子猫をレイプする大型犬のよう堕増だぞ。我はぶるぶるす流増るぞ
「そうですか」
 腐女子──……腐餓鬼。
「およ? ミドノちゃんがおらんくなっ他奈たな……」
「そうですか」
 鈍感で敏感。
「およ? カナタちゃんもおらんくなっ他奈たな……」
 バカ。
 少尉室から出てしばらくすると、背後から扉の開いた音がする。
たぶんアクル少尉がお仕置き部屋の扉を開けたのだろう。
 ──カナタはミドノを探した。
 似たような景色の通路を何度も行き来して、ミドノの姿を探す。
「あ、いた……」
 ミドノの後ろ姿は非常階段の中央にとんと置かれていた。
 孤独な奴……。
 ミドノはこちらを見ない。
 気付いていないのだろう。
 カナタはとんとんと肩を叩き振り向かせるが──……
「カナタ……。いたんだな……」
 ──相変わらず反応は薄い。
「あぁ、いた……」
「声かけてくれればいいのにぃ~……」
「肩叩いたろ……」
 ミドノは明るく振る舞っているが、どこかボーッとしているところがあった。
 ――だから言ってみる。
「奏も少尉も皆ここにはいない。俺と2人の時はキャラを作る必要はない」
「あ、あー……そりゃそだな」
 遠慮なしか……。
 ──実際、キャラの変わりようがおもしろいといつも思う。
 でも、それ以上に何を言われるかも怖い。
 ミドノは気怠げに話し始める。
「じゃ、俺は俺でしゃべるわ……だるかったな今回も……奏の苦しむ姿をうんと目に焼け付けたかったけど、苦しみなんてすっこしも与えられなかったからなぁー……もっと……もっと苦しめられる殺し方を考えないとなぁぁ……」
 ──ミドノは奏を殺したい。
 残虐な殺し方で奏の精神も体もギタギタに殺してやりたい。
 ミドノはどこか嬉しそうな顔をしながら、不気味な笑みを浮かべていた。
 そんな表情を見てカナタは思う──奏からのメッセージ、渡したくない。
 ムカつく……。
 こんな奴に渡す必要があるのか。
 カナタの睨みを無視して、ミドノはカナタに気になっているように装って質問する。まったくの無関心の癖に。
「何か用があんだろが、言えよカナタ」
「…………いや、ない」
「…………」
 録音機を渡しに来たのだが、今のミドノには特に、どうしても渡したくなかった。
 ミドノは冷たい目で周囲を見る。
 ミドノのその目は嫌いだ。
 いつからその冷たい目がミドノに染み付いたのだろうか。
 宙を見ていたミドノの目が、カナタに向けられた。
 じぃっと観察するように、カナタの心を読むかのように、色のない目でカナタを見る。
 そして。
「はは、そうかぁ……奏に関することかぁぁ……そうか……そうかぁ……」
 簡単に当ててしまう。
「…………」
 何年一緒にいると思ってんだ、と言いたげにミドノはにやにやと笑った。しかしそれは、冷たい笑顔。
 もしかしたらニヤニヤも、違うニヤニヤかもしれない。
 そう、こいつはいつも、奏に関してだけは有関心だ。
「俺の……奏……奏……奏、奏、奏奏奏、奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏奏──」
「…………」
「殺してやりたい……」
 まるで恋人を愛でるように甘い声で、ミドノは呟いた。いや、恋人だけど……ムカつくなおい。
 ミドノは頬を火照らせ、息をあげる。そんなミドノの顔を見て、カナタは顔をしかめる。
「……確かに奏のことではあるが、今のお前には関係のないことだ」
 ミドノはカナタの言葉に、ぴく、と眉を動かした。
 そしてまた冷たい目でこちらを見る。それも鋭い目付きで……。
「今の……か。昔には戻れねーよカナタ……? 俺はもう自覚しちまったんだよ……」
 これは初めて聞く話だな。
「何を」
 奏を守るためになるものかもしれない。聞き出しておこう。
「いつも言ってるだろぉぉ……?」
「…………」
 ミドノは演技の笑顔を作ったかと思うと、
「……奏を殺したいことだよ」
 あっさりとそう言った。
「…………そうか」
 冷めた反応をしたカナタに、ミドノはおもしろそうにニッと笑う。
 カナタから見たらつまらなそうな笑い方だが。
「何かあるんだろカナタ。これでも一応俺は俺だ。教えろ」
 こうなったらもう無理だ。
 笑いながらのその問いかけ、それは少し強引さが増す。
 これは……隠し通せない。
 ミドノは本当にしつこい奴だから。
 でも……渡したくない。
 奏……何であんなことを言ったんだ……ミドノに心をよまれないようにカナタは顔を無表情にしたままそう思う。
 ──そうだ……あいつを使おう。
「奏がコンクリートの遊具に入った後、出てきた男、誰だ」
 ミドノはハァと息を吐き、何だよそんなことかよ、とまた宙を見た。
「知らねー」
 何とかなったか。そう言えば……
「……あいつ、奏を見る目が変だった」
 そう言った瞬間、ミドノがぐりんと頭を回した。
 少し目を見開いて閉じて、動揺していて冷静で、何か変なことになっている。
「──……どんな目だった……」

 ──……。

 ミドノと奏が付き合ったのは、この計画を実行するための口実だったはずだけど、こいつは奏と付き合うことが決まった時、まるで嬉しそうで、悔しそうで。
 今は殺したいとか言ってる。
 カナタが言いたいのはつまり、何で特定のことに反応するんだと言うことだ。
 ある病にかかってるんじゃないか。

 ──そう、恋の☆病、とか。
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