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ディノル
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他の人達もそれぞれ適当な瓦礫に座っているようなので、楽ドたちもまず自分達の椅子石を探す。ラ矢と鵺トを座らせて、楽ドがスープを受け取りに行く。今度はガタイの良い顔に傷のある男だ。
「スープはまだ貰えますか?」
「ん?」
「他に二人いるので三つ欲しいんですけど」
男は楽ドをジロジロと眺めた後、背景にどす黒いオーラが似合いそうな低い声で言う。
「……お前ひとりで運べるのか?」
「大丈夫です」
「……………………」
男はいっとき楽ドを観察した後、器三つ分のスープを零れそうになるギリギリまで注いだ。
男は無言で、スープの入った器を机の上で滑らせて差し出してくる。
「ありがとうございます」
楽ドは辺りを見渡した後、器の一つを掴み、その場で具まで丸ごとごくごくと飲み干す。
「はーっ、うまー……っ」
楽ドはすぐ隣に設置されていた返却口に空になった器を返して、あと二つのスープの入った器を両手に片方ずつ持って運んだ。
楽ドが去った後、奥にいた40代くらいの女性が傷のある男に近付く。
「ちょっと……子ども相手に何意地悪してるのよ?」
「……子供だったから多めに注いでやったんだ」
「だからってあんなに……可哀想に。器も一緒に運んであげれば良かったじゃない」
「……ひとりで大丈夫だと言ったんだ」
「ああもう! ああ言えばこう言うんだから! あなたが怖い顔で睨んでるからそう言ったのよ!」
「元々だ……それに。一滴も零していないみたいだ」
「え……」
女性が楽ドの姿を探して振り向けば、確かに、楽ドは軽やかな足取りで歩いたり、瓦礫を飛び越えたりしているのに、一滴もスープを零さない。
「な、何あれ? 魔術?」
「俺は《運べるのか》とは聞いたが、《三つ運べるのか》とは聞いていない。あの子供は最初から二つ運ぶつもりで話していたんだろう。頭のいい子だ」
「考え過ぎよ。単にお腹が空いていただけじゃない?」
「それにあの動き――無意識だったとしても、有能だぞ。将来が楽しみだな。敵になっても味方になっても、強い奴がいるとお前も楽しくなるだろう?」
「……考え過ぎよ」
楽ドはラ矢にスープを渡して、鵺トの隣に座る。ラ矢に寄りかかって寝ていた鵺トを起こし、スプンでスープを掬って食べさせる。ラ矢は自分の分のスープを見つめながら言った。
「…………飲んだの?」
「ああ、向こうで食ってきた。いい匂いのせいでお腹が空き過ぎてさ~我慢できなかった!」
……――――――傷の男の、考え過ぎであった。
ラ矢は楽ドをキッと睨んで、スープの入った器を見せつけるように楽ドの顔の前に突き出す。
「違う。ここに飲んだような跡が残ってる。……私たちの分、飲んだでしょ?」
――ふ。察しの良い奴はこれだから困る……。
……――――――傷の男と40代女性の、考え過ぎであった。
「零れそうだったからな☆」
「そう。許してあげる。今の内に丸々太らせておこう……」
「え、今なんて。なんか意味深な言葉が聞こえたような……」
ラ矢はプンプンしてそっぽを向いてしまった。楽ドは完全に覚醒しつつある鵺トにスプンを握らせる。
「だっておじさんがなみなみ注いじゃうんだもんよ~。南栄軍超親切。めちゃめちゃ美味しいぞ、身体の内側から温まる。たくさんお食べ」
「うるさいバカ兄。その場で減らして貰えば良かった話でしょ」
「お前たちにたくさん食べさせてあげたかったんだ☆」
「……もう結構肉ついてるんじゃない?」
「え。急にこっち見ないで怖い」
ラ矢はスープをおかわりしに行ったり、同い年くらいの女の子と知り合って仲良くなったりと、この場だけで充分楽しんでいるらしい。
「ラ矢、ちょっとお兄ちゃん軍の人にお話聞いたり、その辺探検したりしてくるから鵺トのことよろしくな。迎えに来るからここにいろよ?」
ラ矢は隣にいる仲良くなった女の子にちらりと視線を向けてから、再び楽ドに視線を戻して、遠慮がちに首を振る。
「どうした?」
「…………私も一緒に行く」
「ダメだ危ない。鵺トもいるし、大人たちがいるここの方が安全だ」
「あなたは危なくないの? ここが安全ならあなたもここにいるべき」
「やだよ。俺イケメンすぎて皆の目に毒みたいだし。じゃ、できるだけすぐ帰ってくるからな」
「…………分かった。……いってらっしゃい」
「おお! ラ矢がついに言葉を覚えた! 行ってきます!」
楽ドはまず、南栄軍の所へ向かった。
ご飯は食べに来ている皆に行き渡ったらしく、ちらほらおかわりに来る人がいるくらいだ。まあ余っているようだし、軍の人達も休憩時間に入ったのか、何組か奥の方で固まって座り、談笑しながら食事をしている。
そこには、おむすびを渡してくれた若い女性と、傷の男がいた。
「こんにちは」
「こんにちは。スープは飲めた?」
「はい。いっぱい飲んで温まれました。教えて下さってありがとうどざいます。おむすびもたくさんくださってありがとうございました」
「あはは、ごめんね。少し入れ過ぎちゃったかなって思ってたの。町の人にはほとんど配り終わっちゃってて。余らせたら腐っちゃうし捨てることになるから勿体なくてさ」
「いえ。助かりました。13個も入ってましたよ。最近は気温が低いから日陰に置いておけば結構持つでしょうし、塩も掛けてあったし、梅干しも入ってたから腐りにくいと思うし…………チビたちにお腹いっぱい食べさせてあげられます」
「あら? あなたは食べないの?」
「いつもは俺が食べてるからチビたちに回らないんですよ」
おむすびの人との話を静かに聞いていた周りの人からくすくすと笑い声が上がる。
……こんな冗談で笑うなんて。変なの。同年代の子には面倒臭がられるんだけどなぁ……。
「スープはまだ貰えますか?」
「ん?」
「他に二人いるので三つ欲しいんですけど」
男は楽ドをジロジロと眺めた後、背景にどす黒いオーラが似合いそうな低い声で言う。
「……お前ひとりで運べるのか?」
「大丈夫です」
「……………………」
男はいっとき楽ドを観察した後、器三つ分のスープを零れそうになるギリギリまで注いだ。
男は無言で、スープの入った器を机の上で滑らせて差し出してくる。
「ありがとうございます」
楽ドは辺りを見渡した後、器の一つを掴み、その場で具まで丸ごとごくごくと飲み干す。
「はーっ、うまー……っ」
楽ドはすぐ隣に設置されていた返却口に空になった器を返して、あと二つのスープの入った器を両手に片方ずつ持って運んだ。
楽ドが去った後、奥にいた40代くらいの女性が傷のある男に近付く。
「ちょっと……子ども相手に何意地悪してるのよ?」
「……子供だったから多めに注いでやったんだ」
「だからってあんなに……可哀想に。器も一緒に運んであげれば良かったじゃない」
「……ひとりで大丈夫だと言ったんだ」
「ああもう! ああ言えばこう言うんだから! あなたが怖い顔で睨んでるからそう言ったのよ!」
「元々だ……それに。一滴も零していないみたいだ」
「え……」
女性が楽ドの姿を探して振り向けば、確かに、楽ドは軽やかな足取りで歩いたり、瓦礫を飛び越えたりしているのに、一滴もスープを零さない。
「な、何あれ? 魔術?」
「俺は《運べるのか》とは聞いたが、《三つ運べるのか》とは聞いていない。あの子供は最初から二つ運ぶつもりで話していたんだろう。頭のいい子だ」
「考え過ぎよ。単にお腹が空いていただけじゃない?」
「それにあの動き――無意識だったとしても、有能だぞ。将来が楽しみだな。敵になっても味方になっても、強い奴がいるとお前も楽しくなるだろう?」
「……考え過ぎよ」
楽ドはラ矢にスープを渡して、鵺トの隣に座る。ラ矢に寄りかかって寝ていた鵺トを起こし、スプンでスープを掬って食べさせる。ラ矢は自分の分のスープを見つめながら言った。
「…………飲んだの?」
「ああ、向こうで食ってきた。いい匂いのせいでお腹が空き過ぎてさ~我慢できなかった!」
……――――――傷の男の、考え過ぎであった。
ラ矢は楽ドをキッと睨んで、スープの入った器を見せつけるように楽ドの顔の前に突き出す。
「違う。ここに飲んだような跡が残ってる。……私たちの分、飲んだでしょ?」
――ふ。察しの良い奴はこれだから困る……。
……――――――傷の男と40代女性の、考え過ぎであった。
「零れそうだったからな☆」
「そう。許してあげる。今の内に丸々太らせておこう……」
「え、今なんて。なんか意味深な言葉が聞こえたような……」
ラ矢はプンプンしてそっぽを向いてしまった。楽ドは完全に覚醒しつつある鵺トにスプンを握らせる。
「だっておじさんがなみなみ注いじゃうんだもんよ~。南栄軍超親切。めちゃめちゃ美味しいぞ、身体の内側から温まる。たくさんお食べ」
「うるさいバカ兄。その場で減らして貰えば良かった話でしょ」
「お前たちにたくさん食べさせてあげたかったんだ☆」
「……もう結構肉ついてるんじゃない?」
「え。急にこっち見ないで怖い」
ラ矢はスープをおかわりしに行ったり、同い年くらいの女の子と知り合って仲良くなったりと、この場だけで充分楽しんでいるらしい。
「ラ矢、ちょっとお兄ちゃん軍の人にお話聞いたり、その辺探検したりしてくるから鵺トのことよろしくな。迎えに来るからここにいろよ?」
ラ矢は隣にいる仲良くなった女の子にちらりと視線を向けてから、再び楽ドに視線を戻して、遠慮がちに首を振る。
「どうした?」
「…………私も一緒に行く」
「ダメだ危ない。鵺トもいるし、大人たちがいるここの方が安全だ」
「あなたは危なくないの? ここが安全ならあなたもここにいるべき」
「やだよ。俺イケメンすぎて皆の目に毒みたいだし。じゃ、できるだけすぐ帰ってくるからな」
「…………分かった。……いってらっしゃい」
「おお! ラ矢がついに言葉を覚えた! 行ってきます!」
楽ドはまず、南栄軍の所へ向かった。
ご飯は食べに来ている皆に行き渡ったらしく、ちらほらおかわりに来る人がいるくらいだ。まあ余っているようだし、軍の人達も休憩時間に入ったのか、何組か奥の方で固まって座り、談笑しながら食事をしている。
そこには、おむすびを渡してくれた若い女性と、傷の男がいた。
「こんにちは」
「こんにちは。スープは飲めた?」
「はい。いっぱい飲んで温まれました。教えて下さってありがとうどざいます。おむすびもたくさんくださってありがとうございました」
「あはは、ごめんね。少し入れ過ぎちゃったかなって思ってたの。町の人にはほとんど配り終わっちゃってて。余らせたら腐っちゃうし捨てることになるから勿体なくてさ」
「いえ。助かりました。13個も入ってましたよ。最近は気温が低いから日陰に置いておけば結構持つでしょうし、塩も掛けてあったし、梅干しも入ってたから腐りにくいと思うし…………チビたちにお腹いっぱい食べさせてあげられます」
「あら? あなたは食べないの?」
「いつもは俺が食べてるからチビたちに回らないんですよ」
おむすびの人との話を静かに聞いていた周りの人からくすくすと笑い声が上がる。
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