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ディノル
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「何してるの。はやく行こう」
「ん……? はい!?」
声のした方を見れば、瓦礫の隙間の外でラ矢が鵺トの手を握って隙間の中を覗いている。小さめの黒いショルダーバックを、カーキ色のファーフードコートの上から斜めに掛けて、準備万端と言いたげに、空いている方の手で楽ドの手を引っ張って外に連れ出そうとする。
「おいおい引っ張るな。「何してるの」はこっちのセリフだ! 俺は外に出てもいいとは言ってないぞ!」
「お留守番はもういや。寒いだけ。お腹空くだけ。鵺ト以外誰もいないし、あるのは暇だらけ。瓦礫だらけ。今日は一緒に行く。明日も一緒に行く」
「ちょっと待て待て」
楽ドが頭を瓦礫にぶつけそうになって慌ててかがめば、それを見計らったように思い切り引っ張られて外に出される。そして転んで地面に顔面ゴッチンした。
「いたたたたたた……鼻血出てない? イケメン崩れてない?」
「元から崩れてる」
「あーもう、お兄ちゃん傷付いた。ラ矢ちゃんもっと可愛げと言うモノを学びなさい。ほら、大人しく中にお戻り」
「あなたの財布は私のバックに入れた。連れて行かない限り買い物は出来ない」
「何い!?」
楽ドが服の中を確かめてもどこからも出て来ない。
「何でパンツの中なんて見てるの……まさか、そこに仕舞ったことがあるの……」
「いやもしかしたらするんと乗車したかもしれないと思って!?」
真っ青になって手を震わせるラ矢を見て、「変な誤解するな! 冗談だから! いつものお兄ちゃんのおちゃめなおふざけだから!」と楽ドは手をバタバタさせて必死に弁解する。
「そ、それよりいったいいつの間に――っ!」
「あなたがボーっとしてる間に。……その人のことがそんなに気になるの? それってやっぱり、好きなんじゃないの?」
楽ドは、何のことだ……? と一瞬呆けてから、顔をカッと赤く染めて叫ぶ。
「違う!! 別のこと考えてたんだよ!」
「あなたの頭じゃ理解できないだろうから諦めて」
「酷い……!! お兄ちゃん泣きそうだ。どうしてこんな子に育ってしまったんだろうか! お兄ちゃんの教育は完璧な筈なのに!」
「お世話が足りない。……ご飯もっと寄越せ」
ご飯あげれば懐くのか!? なんて単純な妹! 心配!
「うざいからその顔やめて。もう三回ゴッチンしたいの?」
「わかったわかった……。連れていくから懐いて? 慕って甘やかして楽させて働きアリのように働いて?」
「鵺ト、こいつだけ置いて行こう……」
「おねーちゃ、ねむい……」
「かわいい鵺トくん、お姉ちゃんがおんぶしてくれるってさ。良かったねー」
「おいバカ兄」
「ばかーに、おんぶ」
「さっさとしろバカ楽ド」
「ふふ。お兄ちゃんを指名してくれてありがとう☆ 快適なひと時をご提供するぜ☆ さあ俺に乗車してお客さぁん☆」
楽ドが鵺トをおんぶすれば、もうすやすやと寝息を立て始める。
「あれ? もしかして寝てる?」
「寝てる」
「え。はや」
朝早いから仕方ないか。ラ矢のせいだ、ラ矢が悪い。
「その顔もやめて。はやく行こう」
妙にうきうきしてるな。そんなに外に出たかったのか? 何か欲しいものでもあるんだろうか? もうローストペーパーはなくなって、ローストコインも底をつきそうだから、今からでもできるだけ多くおねだり対策をしておかねば。
そんなことを考えながら、ラ矢の行きたい方向へ行かせて後ろから着いていっていれば、時々ちゃんと着いて来ているか確かめるようにラ矢が振り返ってくる。
「何か話しといた方がいい?」
「鵺トが寝てるから静かにして」
「そんなにお兄ちゃんと離れるのが嫌なら隣を歩けば~」
「いや。くさい」
「え!? 毎日服も身体もお洗濯してるぞ! 日向ぼっこさせて乾かしてるぞ!?」
「ドブの匂いがする」
「それはお前もだ。綺麗なお風呂は諦めなさい。小鳥がじゃれ合う穏やかな小川で充分」
「あなたからは血の匂いもする」
「…………んー……洗ったんだけどなぁ」
妙に敏感なんだよなぁ。子供らしく気楽にいればいいのに。鵺トと違って、ラ矢は生まれた頃から全然笑わないし……。そうだそうだ、赤ちゃんの頃からずっとむすっとしてて可愛くなかったんだよ。生理的微笑以外に笑ったことがあるのかこいつは。
「楽ド、あそこで何か売ってる」
ラヤの指さした方向には、壁の残っている――建物と呼べるかも怪しい――建物の前に、平らな瓦礫の上にシーツを被せただけの簡易テーブルがあり、その奥に武装した大人と、手前にこのあたりに住んでいる大人子供が集まっていた。
誰かの歌声まで聞こえてくる、脳にまで入ってくるようなとても綺麗な歌声だ。
「あれって軍の配給じゃないか? 南栄軍だな。…………おむすびたちが鎮座してる……。お金は取ってないみたい……。結構偉い子だな、南栄軍。武軍とは大違い。武軍じゃないなら大丈夫だ。貰いに行こう」
「いっぱい貰える?」
「うん。結構余ってるみたいだから貰えるかも。いい匂いがする……。んー……おむすびにしては匂いが良すぎる……うわ、あったかいスープまで配ってるぞ!?」
そうか、あの時の美味しそうな匂いはこれだったのか。
比較的食べ物や物が手に入りやすいわけだ、お金がなくてもご飯が食べられるんだから。他の町に比べてご飯も物も安く売られてるから変だなとは思ってたけど。なんかすっきりした。
楽ドたちもご飯を貰いに行き、弟で両手が塞がっている楽ドではなく、ラ矢が話す。
「あの……食べ物、ください」
並んでいるようでもなかったので一番近くにいた若い女の人に話しかける。すると女の人はにっこりと笑って「いくつ欲しい?」と尋ねた。
「貰えるだけたくさん……」
「この袋に入れて下さい」
楽ドがズボンのポケットから端を覗かせているビニール袋を見せるように腰を揺らすと、ラ矢が楽ドを見上げてくる。楽ドが頷けば、ラ矢がビニール袋を引き出して女の人に差し出した。
「わかったわ。スープも飲んでいって。あったまるわよ」
女の人は袋を受け取ると、おむすびをどんどん入れていく。そんなに貰っていいのか、と楽ドが呆けていれば、目が合って、にこっと微笑まれる。
「ありがとうございます……」
怪しい宗教団体ではないよな? 新手の詐欺集団でもないよな……? 食ってから金を取られたりしないよな…………。
「ん……? はい!?」
声のした方を見れば、瓦礫の隙間の外でラ矢が鵺トの手を握って隙間の中を覗いている。小さめの黒いショルダーバックを、カーキ色のファーフードコートの上から斜めに掛けて、準備万端と言いたげに、空いている方の手で楽ドの手を引っ張って外に連れ出そうとする。
「おいおい引っ張るな。「何してるの」はこっちのセリフだ! 俺は外に出てもいいとは言ってないぞ!」
「お留守番はもういや。寒いだけ。お腹空くだけ。鵺ト以外誰もいないし、あるのは暇だらけ。瓦礫だらけ。今日は一緒に行く。明日も一緒に行く」
「ちょっと待て待て」
楽ドが頭を瓦礫にぶつけそうになって慌ててかがめば、それを見計らったように思い切り引っ張られて外に出される。そして転んで地面に顔面ゴッチンした。
「いたたたたたた……鼻血出てない? イケメン崩れてない?」
「元から崩れてる」
「あーもう、お兄ちゃん傷付いた。ラ矢ちゃんもっと可愛げと言うモノを学びなさい。ほら、大人しく中にお戻り」
「あなたの財布は私のバックに入れた。連れて行かない限り買い物は出来ない」
「何い!?」
楽ドが服の中を確かめてもどこからも出て来ない。
「何でパンツの中なんて見てるの……まさか、そこに仕舞ったことがあるの……」
「いやもしかしたらするんと乗車したかもしれないと思って!?」
真っ青になって手を震わせるラ矢を見て、「変な誤解するな! 冗談だから! いつものお兄ちゃんのおちゃめなおふざけだから!」と楽ドは手をバタバタさせて必死に弁解する。
「そ、それよりいったいいつの間に――っ!」
「あなたがボーっとしてる間に。……その人のことがそんなに気になるの? それってやっぱり、好きなんじゃないの?」
楽ドは、何のことだ……? と一瞬呆けてから、顔をカッと赤く染めて叫ぶ。
「違う!! 別のこと考えてたんだよ!」
「あなたの頭じゃ理解できないだろうから諦めて」
「酷い……!! お兄ちゃん泣きそうだ。どうしてこんな子に育ってしまったんだろうか! お兄ちゃんの教育は完璧な筈なのに!」
「お世話が足りない。……ご飯もっと寄越せ」
ご飯あげれば懐くのか!? なんて単純な妹! 心配!
「うざいからその顔やめて。もう三回ゴッチンしたいの?」
「わかったわかった……。連れていくから懐いて? 慕って甘やかして楽させて働きアリのように働いて?」
「鵺ト、こいつだけ置いて行こう……」
「おねーちゃ、ねむい……」
「かわいい鵺トくん、お姉ちゃんがおんぶしてくれるってさ。良かったねー」
「おいバカ兄」
「ばかーに、おんぶ」
「さっさとしろバカ楽ド」
「ふふ。お兄ちゃんを指名してくれてありがとう☆ 快適なひと時をご提供するぜ☆ さあ俺に乗車してお客さぁん☆」
楽ドが鵺トをおんぶすれば、もうすやすやと寝息を立て始める。
「あれ? もしかして寝てる?」
「寝てる」
「え。はや」
朝早いから仕方ないか。ラ矢のせいだ、ラ矢が悪い。
「その顔もやめて。はやく行こう」
妙にうきうきしてるな。そんなに外に出たかったのか? 何か欲しいものでもあるんだろうか? もうローストペーパーはなくなって、ローストコインも底をつきそうだから、今からでもできるだけ多くおねだり対策をしておかねば。
そんなことを考えながら、ラ矢の行きたい方向へ行かせて後ろから着いていっていれば、時々ちゃんと着いて来ているか確かめるようにラ矢が振り返ってくる。
「何か話しといた方がいい?」
「鵺トが寝てるから静かにして」
「そんなにお兄ちゃんと離れるのが嫌なら隣を歩けば~」
「いや。くさい」
「え!? 毎日服も身体もお洗濯してるぞ! 日向ぼっこさせて乾かしてるぞ!?」
「ドブの匂いがする」
「それはお前もだ。綺麗なお風呂は諦めなさい。小鳥がじゃれ合う穏やかな小川で充分」
「あなたからは血の匂いもする」
「…………んー……洗ったんだけどなぁ」
妙に敏感なんだよなぁ。子供らしく気楽にいればいいのに。鵺トと違って、ラ矢は生まれた頃から全然笑わないし……。そうだそうだ、赤ちゃんの頃からずっとむすっとしてて可愛くなかったんだよ。生理的微笑以外に笑ったことがあるのかこいつは。
「楽ド、あそこで何か売ってる」
ラヤの指さした方向には、壁の残っている――建物と呼べるかも怪しい――建物の前に、平らな瓦礫の上にシーツを被せただけの簡易テーブルがあり、その奥に武装した大人と、手前にこのあたりに住んでいる大人子供が集まっていた。
誰かの歌声まで聞こえてくる、脳にまで入ってくるようなとても綺麗な歌声だ。
「あれって軍の配給じゃないか? 南栄軍だな。…………おむすびたちが鎮座してる……。お金は取ってないみたい……。結構偉い子だな、南栄軍。武軍とは大違い。武軍じゃないなら大丈夫だ。貰いに行こう」
「いっぱい貰える?」
「うん。結構余ってるみたいだから貰えるかも。いい匂いがする……。んー……おむすびにしては匂いが良すぎる……うわ、あったかいスープまで配ってるぞ!?」
そうか、あの時の美味しそうな匂いはこれだったのか。
比較的食べ物や物が手に入りやすいわけだ、お金がなくてもご飯が食べられるんだから。他の町に比べてご飯も物も安く売られてるから変だなとは思ってたけど。なんかすっきりした。
楽ドたちもご飯を貰いに行き、弟で両手が塞がっている楽ドではなく、ラ矢が話す。
「あの……食べ物、ください」
並んでいるようでもなかったので一番近くにいた若い女の人に話しかける。すると女の人はにっこりと笑って「いくつ欲しい?」と尋ねた。
「貰えるだけたくさん……」
「この袋に入れて下さい」
楽ドがズボンのポケットから端を覗かせているビニール袋を見せるように腰を揺らすと、ラ矢が楽ドを見上げてくる。楽ドが頷けば、ラ矢がビニール袋を引き出して女の人に差し出した。
「わかったわ。スープも飲んでいって。あったまるわよ」
女の人は袋を受け取ると、おむすびをどんどん入れていく。そんなに貰っていいのか、と楽ドが呆けていれば、目が合って、にこっと微笑まれる。
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