リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

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 三〇〇〇年十月――アレから一ヵ月ほど経った。その間。楽ドたちは桜ヶ丘で見つけた新しい隠れ家で暮らしていた。楽ドは町に住んでいた人々とも顔見知りになり、今まで暮らしてきた中で不自由がないので一番長く滞在している。
「じゃあ行ってくるな。大人しくしてろよ?」
「バカ楽ド、そろそろ私たちも町に連れて行ってほしい」
「え……。いやいやいや! だめだだめだ!」
「なぜなの? あなたも子供一人で歩き回るよりは大勢でいた方が安全でしょ?」
「えーだってお前ら足手まとい……」
「…………なんか、変。以前は偶に外を歩かせてくれたでしょ……?」
「それは……」
 もしラ矢と鵺トがあの子供に遭遇したら……と、どうしても考えてしまう……――あいつに一目惚れしちゃうかもしれない!!
「ダメだダメすぎる!」
「……ご飯は手に入るみたいだし、寒さ対策は充分行えている。けれどあなたの帰りはいつも遅い。町の人と話していたとしても、遅すぎる。そんなに話すこともない筈なのに。何を隠してるの?」
「うぐ。隠してなんか……」
 たまぁに、超高層ビル群のあたりに南栄軍の荷物を漁りに行っているだけだ。それ以外は何もしてない。探してなんかない。
「……関わっちゃいけないのは分かってるんだけどさ。身体が勝手に動いちゃって」
「何に関わっちゃいけないの?」
「え!? 何でもないから忘れなさい!」
 声に出しちゃってたのか……あーあダメだ。確かにこの町は他の町に比べたら物が手に入りやすいけど、特定の場所に長くいるのは嫌なんだよなぁ。前の町みたいに恨んでる奴らがしつこく追いかけてきてたら厄介だし、茶飯もまだうろついてるみたいだし。町の人から聞いた話だと俺たちを探してるらしいし。
「でもあいつは他の町には行かないだろうしなぁ……」
「あいつ? その人に会いに行ってるの?」
「げ、また声に出てたか。最近ずっとそうだ、あいつのことばっか考えてるせいでぽろぽろ出るんだ。隠しごとはよくないもんな。正直者だからな、俺は。うんうん」
「好きなの?」
「――――……………………男だ」
 楽ドが無心でそう言えば、ラ矢は胸を撫で下ろした。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「本当に良かった。バカ兄に好かれたら相手が可哀想」
「どう言う意味!? 酷くない!?」
 何だよ。俺はめちゃめちゃイケメンで優しくて素直で頼りになる優良物件の男だぞ。好かれたら喜ぶに決まって――……喜ぶ――……いやいやいや、相手は男だ。喜ばないか。あーあ、あいつ以上に可愛い女の子落ちてないかな。男の子なのが残念過ぎて考えちゃってるのかなぁ。それとも人殺しだからか? しかも大量虐殺の犯人だから? あの残酷な光景が目に焼き付いているからなのか?
 あの辺には武器や食べ物、その他の携帯できるモノ、それ以外には肉塊しか落ちていなかった。茶飯の言ったとおり、肉体のほとんどがミキサーにかけられた状態だったんだろう。内臓も肉も骨も皮膚も目玉も髪の毛も、人間の内側外側の、何もかもが混ざり合ってたんだ。
 子供に破壊された超高層ビルは粉みたいになって風に飛ばされていたから、人間の身体も同じだろう。鮮血にしては少しドロドロしていたし、道路の上にも粘土のようなものが敷き詰められていた……。きっとあれも人だ。
人で出来た砂が血を吸って出来た粘土状の人だ。今は虫がたかっているうえに、固まって腐臭を放っている。そろそろ軍隊が噂を聞いて清掃作業を開始する頃だろう。あれは大変そうだなぁ。
風に飛ばされた人の砂の方は、何処に行ったのか分からない。もしかしたらこの町のどこかで飛んでいるかもしれないし、踏まれているかもしれない。彼らは生きた人間の肺を出入りしているのかもしれない。
 風に飛んでしまうくらい軽い人の砂、つまり粉状になってしまった〝人〟だ。
血液の下に沈んでいたのは風に飛ばなかった人の砂だろう。粘土は液状の方が多かったから、飛ばされた人の粉の方が多かったんだろう。それほどまでに壊されてしまったんだ。
 ミキサーより、製粉機に掛けたと例えた方が的確な気がする。
「そうか……」
「…………?」
 茶飯は、破裂後の肉片にも力が停滞してそれが中を破壊し、その砕けた肉片内にも力が残り破壊する、それをずっと繰り返して最終的に消えてしまったのだと言っていた。
だけど、まだ何かある。例えるなら、お風呂の水を拳で思いっきり叩いた時の、力の伝わり方とか。そう、地震のような……。
 膨大なエネルギーが加えられた場所を震源に、身体中へ波紋のように広がり、全体にまんべんなく行き渡ってから、内部で破裂が起こる。いや、内部破壊を起こしながら身体中に行き渡る。それはエネルギーの伝わり方が速すぎて、瞬きしているうちに終わってしまう。
 その後、空気を入れ過ぎた風船のように、エネルギーを入れ過ぎた人間が破裂する。これもまた一瞬で起こる。
 エネルギーは停滞しているんじゃない。既に破壊されてから崩れた……。崩れた? そうだ、破裂したとは決まっていないじゃないか。じゃあどうやって……。
 砂像のように、水分が抜けて――乾燥して崩れた……。
 空気に伝わったエネルギーで周辺一帯に抵抗が起きて、体内でも全方向からの空気抵抗が置き、液体は一方向へと集められ、他の部位は乾いた砂のように形を保てずに崩れる。
 ああ、いや、分からない。血は多少粘性があったけれど液状であったし、もしかしたら肉体と言う核が熱を持たずに連鎖反応を起こして――いや、これも違う。そもそも茶飯の言った凄まじい力と言う言葉に縛られてはいけないんだ。あいつは瞬きした後にはもう血の雨だったと言っていたし、あれは彼が一秒でも早く状況を理解するために、脳を絞り出す勢いで導き出した彼なりの答えだ。だがそれは証明されていない。彼の仮定は結論までにはいたっていない。膨大なエネルギーが発生していたなら、なぜ周囲の超高層ビル群や道路は無事だったんだ。武器や水筒なんかの手荷物だって形が残っているモノがあった。
 エネルギーなんかとは違う、そしてコントロールが不可能と断言できるような何かではない。……何なんだ。何かあるんだ、ある筈だ。
 もっと別の何かが――…………未知の、何か――……
 ――――…………ユヤ……
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