リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

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 タピオカガエルのようでその背中に大量の目玉がギョロギョロ蠢く姿はタピオカガエルじゃないようで……以前より一回り小さくなっている? ――とにかく矢地さんが数十本の触手を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。
 黄泉はさっそく砂金に取り付けてもらった義手の兵器で攻撃を仕掛けようとする。
 肘のあたりにあるボタンの一番左を押せば、肘から下に穴が4つある四角い箱のようなものが出てきてそこから煙が噴出する。肘下からガチッと輪切りに義手が外れて、勝手に離れ、追尾して自動的に拳が矢地を攻撃しだした。
「オイ腕がとれたぞ姉ええええええ!!」
「最っ高にかっこいいじゃ~ん!」
 砂金姉さんに義手つけてもらったの、絶対間違いだった、と黄泉は額に手を当ててため息をつく。
 そう思っている間に青海が砂金から刀を受け取り、矢地に切りかかった。
 複数の触手が伸びてきてそれを刀で切り刻んでいく青海。姉はと言うと。
 巨大な火炎放射器を洞窟の壁からもぎ取って運んできた。それを使って何をする気だ姉!
「黄泉、助けたいなら死なない程度に痛めつけるんだ! 弱らせないと襲われる!」
 矢地さんの身体――タピオカガエルのような化け物――タピ化けの中から虫が出入りして周囲を埋め尽くすほど飛び交っている。
「砂金姉さん! 腕を別の場所に避難させておいてくれ!」
「えぇ!? いいのぉ!? 何で戦う気!?」
「刀でいい!」
 國哦伐家の者たちは何があってもいいようにどこへいくにもいつも帯刀している。だが、青海は裸にされたので刀を洞窟の入口付近に忘れ、砂金から刀を借りたのだ。
 砂金は刀の扱いが下手で、いつも何かの機械をいじっては彼女の頭の中の新兵器を生み出していた。
 火炎放射器が大好きらしく、生み出されたのはほとんど火炎放射器だったが。
 黄泉は抜刀してからタピ化けに切りかかった。修行をさぼっては倍の修行をさせられていた黄泉は不本意ながら國哦伐家の中で最も刀の扱いに長けた人物になってしまっていた。
 相手の再生速度が追い付かないほど瞬時に触手を切り刻み、大量の目玉のある皮膚に刃を立てようとする。しかし、タピ化けの皮膚は固く、刀を弾き飛ばし、黄泉の力は自分に返ってきて弾かれた勢いのまま冷静に後退する。
「黄泉――足を狙うんだ! 私が外装を剥がす!」
「頼む!」
 黄泉が飛び出し刀を構えると、触手は嫌がるように震え、怯み、小さな悲鳴を上げる。恐らく一本一本に繋がっている虫がいるのだろう。黄泉は化け物の足を切り裂き、輪切りにした。タピ化けは動けなくなる。
 再生速度に追いつかれないように青海は黄泉が飛び出した時点で飛び出していた。切っ先を外装の切れ目と見える部分に入れ、一気にベリベリッと剥がすと青と赤のマーブル模様の血液が出てきて化け物が「ピエエエエエエエエエ」と悲鳴を上げた。
 その痛がる声に、これは矢地の声なのだと考えてしまい黄泉は一瞬動きが止まる。
 黄泉が顔を上げた時にはもう、転げまわるタピ化けの真上の空中に砂金がいた。彼女は彼女の作った機械の手袋で巨大な火炎放射器を軽々と持ち上げ、タピ化けめがけて振り回す。
 タピ化けの身体は半分に折れ、外装の剥がれた血まみれの表側が目玉もろとも飛び出す。それを逃がさないと言わんばかりに、砂金は火炎放射器の炎を噴出させ、彼の身体を焼き尽くす。
「姉さん殺すな!」
「殺すことが救うことだよ黄泉ちゃん! 唯一の救いだ!」
「姉さん!」
 既に炎を纏った触手が伸びて。砂金の身体に巻き付いた。
「うあああああああああああ」
 砂金の叫び声が空気を震わせる。砂金は触手から逃れようとするが、彼女の身体も燃え盛り、自分を燃やそうとする火傷の痛みで抵抗できない。
 黄泉はすぐに飛び出して、その触手の上で刀を振り下ろした。触手は気持ちの悪い断面を見せて転げ回る。黄泉は傍にあった水溜まりに砂金を転がし、火を消そうとした。
 火が消えた頃には彼女の服も肌もボロボロで……タピ化けも人の姿に戻って同じように傷付いていた。その体にも赤く焼けた皮膚が見える。
「砂金姉さんを頼む青海!」
「黄泉!」
「私は矢地さんを助ける!」
 青海は無駄だと思った。もう救える状態にないのだと。
 それは砂金も同じだ。
 黄泉は矢地の傍に座り込み、彼を抱き起こす。
「黄泉か……?」
「矢地さん、今助けるから」
「いいんだ。生きていても。苦しいだけだ」
「そんなこと言わないで」
「大丈夫、もうすぐ……死ぬから」
「何も大丈夫じゃない!」
「泣かないで黄泉」
 その言葉を聞いてやっと、黄泉は自分が泣いていたことに気が付いた。
「君は他の家族とは違う。君は当主になれると私も思う。私を平等に扱ってくれてありがとう」
「私にそんなつもりは……」
「愛してるよ」
「え……」
 後頭部に矢地の手が回り、黄泉の頭を導く。
 唇に熱い感触が触れ、黄泉は大きく目を見開いた。口の中に舌と思われる感触も入ってくる。
「矢地さん……」
 後頭部の手と唇が離される、矢地は絶命していた。
 青海はそれを見てしまったが、いじけて怒る暇もない。
「青海」
「話さないで姉さん」
「緑龍子が生かしてくれてるけど、私はもう死ぬよぉ」
「頼むから黙ってくれ」
「お前のおかげで、楽しかったよ。……ありがとぅ。黄泉を、よろしく……」
「姉さん……」
「お前、こんな時にも。泣かないのかよぉ……悔しいなぁ。黄泉だけは絶対に……守り抜けよぉ、バカ青海」
「姉さん……」
 そう言い残して砂金は死亡した。
 突然。本当に突然、2つの命がそこで終わった。
 黄泉は砂金の死を知り、少しの間涙を流した。青海は姉の形見の火炎放射器で矢地の死体を燃やした。
「何をするんだ!!」
 黄泉が涙ながらにそう言うと、青海は冷静な顔で言った。
「死んだ後タフィリィはすぐに宿主を探すために出てくる。その前に燃やし尽くす。君を守れと言われた。言われなくても守るのにね」
「青海……。矢地さん、砂金姉さんは救われたのか?」
「さあ、どうだろう」
 少なくとも姉だけは救われていないだろうと黄泉は思う。
 私たちは遺骨を埋葬することにした。と言っても棺桶に隠すだけだ。姉が自分のために準備していた棺桶と、追放者のために用意されている棺桶に二人の遺骨を保管した。
 砂金姉さんの死体は放っておくと虫が付くと言う。だからその場で火葬したのだ。それを行う青海は珍しくやつれた顔をしていた。
 私たちは逃亡生活を終えて、二人で屋敷に戻り、待っていたキョウダイや長達には二人で川に落ち滝からも落ちたと伝えた。
 私たちは自分達の部屋で療養するように言われ、自分達の部屋へ戻った。
 黄泉は部屋に戻ってから、滝を眺めて思った。
 当主にはならない。だが確かに誰かを、家族を救いたいのだと。必ず次こそは救うと。
 自分が既に、茶飯によって当主候補にされているとも知らずに。
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