リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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リョウゲ

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 黄泉は砂金や矢地のことを思って3日寝込んだ。
 自分の右腕に痛みが生じていることに気が付き、再びメンテナンスをしてもらわないといけないことに気が付いた。黄泉は本堂の廊下を歩き青海を探していた。
「あいつ……どこにもいないじゃないか」
 右腕のメンテナンスは亡き砂金に頼んでいたので、青海に相談してみようと思っていたのだ。
 屋敷を一つ一つ見ていき、面倒だと千里眼の術を使った時、本堂の横にある屋敷に赤鳥の姿が見えて、青海について聞こうと考える。
 黄泉は隣の屋敷に行くと、赤鳥のいた部屋へ向かおうとする、だがその奥まった部屋へ向かう足が止まって立ちすくむ。
 千里眼の術は継続中だ。
 姉の手にある玉がなんなのかも分かる。それを口に運ぶ姉も、おいしそうに食べていく目や口などの表情も。
 黄泉はそこで術を使うのを中止して、何とかしてやめさせなければと、対策を考えることを決めた。
 まず、当主候補者を募る会議の時、すれ違った矢地が出てきた蔵に向かってみることにした。本堂の屋敷の少し下、川の音がより一層うるさく、霧のように水分が空気中に含まれる。
 少し視界が悪いので、つり橋を踏み外したらアトラクションへいざ出発である。背後にGOGOの文字が浮かんだ気がする……。
 古い蔵の扉は四方にあり、全部開かれている。大きなのれん――幕ですべて隠されていた。大きなのれんを左手で開いて中に入ると、木箱と黒い壺がたくさん並んでおり、黄泉はその黒い壺が姉の銀杏の部屋にあったものと類似していると気づく。
 黄泉は壺の中身を確認した。
 あのタピオカガエルのような小さな虫がビー玉みたいなガラスの容器の中でペタペタと足を動かしている。黄泉はそれらを掬ってみようとしたが、ぞっとして手を腹の位置に戻した。
 その目玉全てがこちらを見て、身体を翻して、ペタペタと足を黄泉の方へ動かしたからだ。そうしなくても気持ちが悪い見た目をしている。
 そして、周囲を見渡して思った。
 ――このすべての壺が、タフィリィなのか!?
 ……と。
 黄泉は木箱まですべて覗く、すべてがそうだった。
「………………」
 声もなく最後の壺を眺めていると、少しの違和感を持つ。その壺を入れて3つ、全く動いていない虫たちの壺があるのだ。黄泉は今度こそ掬い上げて千里眼の術を使ってよく観察する。内臓さえ動いていない……と言うより、つなぎ目が見える。これは良く出来ている偽物だ。極たまにところどころ欠けているものもある、飴細工のように見えなくもない。実際には分からないが、生きてはいないだろう。これだけは確かだった。
 千里眼の術を使っていて良かったことがあった。人が近づいてくるのが見え、木箱の裏に隠れることが出来たからだ。
 黄泉はその近づいてきた人物が、青海であることを確認してショックを受けた。
 ――どうして青海が。いや、彼ならここの存在を知っていてもおかしくはないが、それでも。

 まさか、タフィリィを使用しているのか。

 効かないと言うのは嘘か? いや砂金姉さんも知ってたんだ、本当だろう。だとしたら何故ここに彼が? 私と同じ目的か?
 黄泉は青海の前に出て行こうか迷ったが、再び誰かが蔵に近づいてくるのが見えてそのまま隠れることにした。
 そう言えば。千里眼の術を使わずともギシギシと吊り橋の音が鳴っていたな。
 と、黄泉は千里眼の術を解く。
「青王。いるか? いるな。失礼するぞ」
 やはり青海だったらしい。黄泉はため息を堪え、青海の相手の顔を木箱の裏から覗き込んだ。
 國哦伐銀河。亡き姉・銀杏の父だった。彼も三人の長の一人だ。
「TRは入っているか?」
「はい。昨日届いたばかりです」
 TR?
「壺で持っていきますか?」
「ああ。頼む」
 青海が手を差し出す。
 銀河はそれに手を重ねる。
チャリンチャリンと金の音が鳴った。
 青海は銭と札を床に並べて数え、それが終わるとすぐ後ろにあったツヤのある黒い壺の底を転がして銀河の前に移動させる。
「ではな」
「はい」
 銀河は壺を片手で肩に担ぎ、反対側の手でのれんを開いて出て行く。
 また若い男がやってきて、壺ごとくれと申す。
「そろそろTSも欲しい」
「どちらも君にはまだ早い。許しが出ていない」
「……っ、そんな」
「文句があるならそれも渡せない」
 青海が麻袋を指し示す。
「わ、分かりました! 分かりましたとも!」
 若い男は貰った麻袋を背に隠そうとしながら、片手で懐に手を突っ込み、金を払う準備をした。
 チャリンチャリンと音がして、バタバタと足音が鳴る。若い男は慌てて出ていったようだった。
 これで、黄泉は青海がタフィリィを売っていると知る。だから銀杏や他のキョウダイもその親も彼に逆らえないのだと。
 黄泉は悔しくてたまらなかった。何かあるとは思っていたが、彼がタフィリィをばら撒いていた張本人だった。
 しかし。あの違和感もあった。
 だから黄泉は青海の前に姿を現したのだ。
「黄泉。どうしてここに?」
 何もなかったかのように微笑む青海。それに黄泉はサッと血の気を引き、慌てふためいて青海の真似をして座り、彼の手を握った。
「何をしているのか聞きたいのは私だ! 分かるだろう!?」
「大声を出さないで」
「……青海!」
 彼を信じたい、そう思えるのはあの違和感があったからだった。
「私がばら撒いていたんだよ。ずっと。物心ついた頃からね」
「どうして、何故」
「知らなかったからさ。あんな化け物になるのは普通のことだと思ってた。みんなで食事をして、成長したらああなる種族だから化け物扱いされてこんな深い森の中に隠れてるんだってね」
「知ったのはいつだ?」
「砂金姉さんに会った時。彼女は食べなかったし、化け物にもならなかった。化け物を恐れて、私の配るモノを恐れ、私を恐れた」
 あの砂金姉さんが青海を恐れた?
「昔は怖がってたんだよ。でもいつからか恐れを共有して、それに立ち向かおうとしたんだ。でも結局隠れることしかできなかった。姉さんは頑張ってたよ、熱がタフィリィにとって最大の敵だとすれば、姉さんはそれをつくる兵器だったからね。でも私はこうして閉じこもって大勢殺してしまった」
「そうだ、お前のせいでみんなが……」
 笑顔で言ってくる青海に、責めてしまおうと思ったが、黄泉は黙り込んで拳を震わせてそれを抑え込んだ。
「それで何故お前は物心ついた頃から配っていたんだ?」
「それは……私の父親が黒幕だからだ」
「碧王が?」
 砂金姉さんと青海が話していた時にも彼は重要人物らしかったがまさか黒幕とは思わなかった。黄泉の中では黒幕はずっとタフィリィだけだったからだ。
 それに碧王はみんなに慕われる性格だ。黄泉も慕っていた。
「私は彼の言いなりだ。彼の言うことを聞くロボットだった」
「だった?」
「今は反抗期だよ」
 黄泉は口角を上げる。青海の笑顔につられたからだ。
 黄泉は青海がタフィリィの偽物を作っていていて、酷いものにはそれを配っているのだと確信した。青海を信じても良いと判断したのだ。
「黄泉、君は何故ここに?」
「私は矢地さんがここから来たことが分かっていたから来てみたんだ」
 青海は少し俯いて口元に笑みを浮かべる。
「黄泉、矢地さんとキスしてたよね」
「そ、それが何だ!」
 お前には関係ないだろう! と真っ赤になって叫ぼうとしたとたん、黄泉の唇に青海の細く長い人差し指が触れた。
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