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第七章 カミサマ…お願い…今だけ…俺を彼の本当の恋人でいさせて…
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しおりを挟む桂の部屋を物珍しそうにきょろきょろと亮は見渡した。具合が悪いくせに、はしゃいだ様に部屋を眺める亮に桂は苦笑する。同時に少しだけやるせないような痛みが胸に走る。
絶対彼をこの部屋に入れないと決めていた。この部屋に彼が居る事に慣れてしまう事が怖かった。
彼がいなくなった時…俺はどうしたら良いんだろう…。
隣で亮がコホンとまた咳きをして、桂は慌てて意識を亮に戻した。
「山本、ベッドこっちだから」
桂はダルそうな亮の腕を引っ張って自分のベッドに座らせる。亮はユルユルと動くと桂のベッドに座った。その姿を見て桂はホッと安堵の息を吐く。
「ほら、これに着替えて…」
桂は自分のクローゼットからTシャツとスェットパンツを取り出すと亮に渡した。体は亮の方が一回り大きい。目一杯大きめのサイズを選んだが、小さかったのだろう。着替えた亮を見て、桂がプッと吹き出した。
「なんだよ?桂」
亮がふてくされたように聞く。いつもの亮の姿からは想像できない姿。
だぶだぶのよれたTシャツに丈が短いつんつるてんのスェットパンツ。きちんとセットされている筈の髪の毛は乱れてクシャクシャ。
良い男が台無しだな…。桂はそう思って、もう一度笑みを浮かべた。亮も照れくさそうに笑うと、髪の毛をかきあげる。
「山本、もう横になって…」
桂は亮の肩に手をやり、ゆっくりと寝かせてやる。亮は桂に体を預けたままベッドの中にもぐり込んだ。
アイス・ノンを手に戻ってくると桂は彼の頭にあてがってやった。冷たさに気持良さそうに亮が目を瞑る。無防備な亮の表情に桂がフッと笑みを零した。
自然に指が亮の額に伸びる。一瞬だけの躊躇いだった。スッと指を額に触れさせると柔らかく前髪をかきあげてやる。
何度も何度もかきあげる。亮は心地よさそうに桂の行為を受けとめていた。
そんな亮の姿を見て桂の胸にいいようも無い幸せが込み上げてくる。湧きあがる感情が押さえきれなくて…気持ばかり募って…。
…どうして…こんなに胸が震えるんだろう…。
亮の姿を見る度、甘くて…切なくて…やるせない感情が綯交ぜになって…胸を締めつける…。
2週間ぶりに逢えて…今…無防備に俺の側にいてくれる…。二度と無い奇跡かもしれない…。
桂は躊躇いもせずに、前髪をかきあげた所為で表われた亮の形の良い額に唇を落としていった。
桂の唇の感触に亮が驚いて目を開いた。ビックリしたように自分を擬視する亮の瞳に、桂は照れて視線を亮の胸元に落とす。
「…おやすみなさいの…挨拶だよ…。ほら…もう寝て…。後でお粥でも作るから…。」
亮の自分をジッと見つめる瞳に、急に恥ずかしさが出てきて桂は急いで亮の毛布を直してやると立ちあがる。
亮の車の事を思い出して、先程預かったキーを掴むと桂は慌てて外に行こうとした。
「桂!どこに行くんだよ!」
玄関口に向かった桂の様子に亮が不安そうに呼びとめる。
桂が振り返ると不安そうに自分を見つめる亮の視線とぶつかった。桂は安心させるように微笑むと、手の中のキーを見せる。
「山本の車。駐車場に入れてくるから。あのままだと駐禁切られる。すぐ、戻ってくるから」
言って、ベッド脇に戻ると、起きあがりかけた亮の体をベッドに押し込む。亮が熱っぽい手で桂の手首を掴んだ。
桂の瞳をジッと見つめながら、掠れた低い声で囁く。その甘い声音に桂の鼓動がトクンと鳴った。
「…なら…桂…行って来ますの…挨拶して…。さっきみたいに…」
「あ…」
あからさまな亮のおねだりに桂の頬がみるみる朱に染まる。
これって…まずいかも…そう思って視線をためらうように揺らす。その視線の先に、ベッドに横たわり熱で呼吸を荒くしながらも、ヒタと自分を見つめる亮の真剣な視線があった。
「…桂…」
亮がもう一度甘い声で桂を急かす。
その声に誘われるように桂はフッと肺から息を吐出すとゆっくりベッドに腰掛けた。
桂の重みでベッドのスプリングがギシッと鳴る。
亮の桂の手首を掴む力がぐっと強くなるのを感じると同時に、桂は身を屈めてもう一度亮の額にキスを柔らかく落とした。亮が瞳を閉じて、桂の行為を受けとめる。
桂は優しく亮のこめかみに口付けながら、言い聞かせるように囁いた。
「俺…すぐ戻ってくるから。ちゃんと、眠れよ」
亮がコクンと素直に頷くのを見ると、桂はもう一度微笑みを静かに零した。
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