〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第七章 カミサマ…お願い…今だけ…俺を彼の本当の恋人でいさせて…

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 亮の車を駐車場に入れる。桂は車を持っていない。この駐車場はリナが契約しているものだった。

 リナは店に行くにも、どこに行くにも、もちろん桂の所へ来る時も愛車を操って来る。

 車は唯一の彼女の趣味だ。もちろん愛車が駐禁を切られるのは我慢がならず、桂のマンションの駐車場を桂の名前で契約し、代金は彼女が払っていた。

「かっちゃんも使って良いからね」

 彼女はたまに桂が車をレンタルしてドライブを楽しむのを知っていて、良くそう言ってくれたのだ。

「でもなぁ…」

 亮の車を手際良く駐車場に入れ、部屋に戻りながら桂はリナの事を思い出して苦笑いをした。

「山本の自動車、停めたなんて言ったら…あいつスゴイ怒りそう」

 リナは亮の事を毛嫌いしている。彼女にとって亮は桂を苦しめる諸悪の権現でしかないからだ。リナが顔を顰めるのを想像して桂はもう一度クスッと笑った。
 
 静かに部屋に入ると、亮の寝息が響いてくる。最近は馴染みになりつつある、その響きに桂はまた頬が緩むのを感じた。

 そっとドアを閉めると、亮を起こさないようベッドに静かに近寄る。

 亮はグッスリと眠っている。額に手を当てると、やはり熱は高いようだった。体温計ってから、眠らせれば良かった…と少し後悔しながら、肌蹴そうになる毛布を肩まで掛けなおしてやる。

 つい1時間前まで、亮と終ってしまったのかも知れない…その不安で胸が張り裂けそうだった。

 それが今は…。幸せな気分で、自分のベッドで眠る亮の姿を眺める。

 亮の顔色は悪く、体は更に痩せたようだった。眼の下に熱を帯びた朱とは別に疲労による隈が出来ている。

 それなのに…そんな体を押して、無理してまで自分に逢いに来てくれた…。そして、一緒にいたがってくれた。

 その事がとても嬉しくて…幸せで…。

 桂は、そっと自分の唇を亮の唇に重ね合わせる。

 亮の薄く開いた唇から熱っぽい吐息が零れるのを感じて…。

 少しだけ切なく…桂は祈っていた。

…俺は「ごっこ」の相手だけど…。そんな事充分過ぎるほど…分かっている…。

 でも…カミサマ…お願い。今だけ…俺を亮の本当の恋人でいさせて…。彼が風邪を引いている、今だけは…。

 唇を離して、もう一度桂は亮の髪の毛を梳きあげる。一瞬、クシャっと桂の表情が歪んだ。桂は慌てて目に滲んだモノを拭うと、台所へ向かった。

 亮の為に美味しいお粥を作ろう…張り切りながら桂は土鍋を棚から取り出した。
 
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