〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第七章 カミサマ…お願い…今だけ…俺を彼の本当の恋人でいさせて…

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 強く抱きしめあって、お互いの温もりを感じあう。亮の胸の鼓動が桂の頬に伝わってきて桂は幸せな思いに包まれていた。亮が身体を離すと桂の顔を覗きこむ。

「どっか飯でも食いに行こう。それに本牧でこの間見ようって言ってた映画やっているから、食事の後観に行こうぜ。今夜はオールナイトでやっているからさ」

 嬉しそうに言って、その後またコホコホッと咳きをする亮に桂が眉をひそめた。

 さっきから詰まるような咳きを亮は我慢していた。顔は疲労が滲み出ているし、体も少し痩せたようだった。心配して桂は亮を見上げた。

「山本…どっか悪いんじゃないのか?咳きしているし。風邪でも引いたんじゃ…」

 亮は笑って大丈夫…と答えると桂の体を車に押し込める。乱暴に助手席に座らされた桂は慌てて亮の姿を追った。

 亮は自分もシートに座るとシートベルトを締める。ギアを握ろうとして、今度はゴホっと大きい咳きを亮は繰り返した。苦しそうに激しい咳きを立て続けに繰り返す亮の背中に桂は手を掛けて、少しでも苦しさが和らぐように擦ってやる。

「悪い…大丈夫…だから…」

 咳きが収まると、亮は顔を上げて桂を見た。その顔色はひどく悪い。青褪めているのに、目の回りだけ熱を帯びたように赤く染まっている。ハッと気付いて桂が亮の額に手を伸べて触れる。

「熱い…。山本…お前ひどい熱じゃないか。風邪引いてるんだろ?」

 煩そうに亮が手を振って遮る。

「大丈夫…ちょっと風邪引いただけだ。大した事じゃない」

 大した事あるよ…。
驚きのあまり呆然として桂は亮を見つめた。

 今触った額は燃えるように熱かった。恐らくかなりの高熱のはずだ。それに…今のひどい咳き。

 出かけるなんてとんでもない!思って、桂はギアを握る亮の手を押し止めた。

「駄目だ。今日は止めよう。帰って休んだ方が良い。俺、送るから帰って寝よう」

 心配して言う桂に亮は 

「やだ」

 不機嫌そうにプイッと顔を背けて、にべも無く桂の提案をはね付ける。

「やだじゃないだろ。そんな調子じゃ…ダメだ…。帰ろう。な…?」

 亮の顔を覗き込んで、宥めるように優しい口調で桂は言った。亮に無理させたくない…。

「イヤだ!」

 亮がカッとしたように大きな声で叫んだ。桂の瞳が驚きで大きく開いた。まじまじと亮を見つめる。

「どうして…?帰るの嫌なんだ…?」

 なぜ、出かける事に執着するのか訳がわからず桂が訊ねる。

 亮は少しバツが悪そうな顔をすると、ハンドルに手を掛けたまま呟くように言った。

「だって…マンション帰ったら…お前すぐ…帰りたがるだろ…?最近…桂…俺の部屋に泊りたがらない…」

 亮の答えを聞いて桂の頬が緩んだ。

 自分と一緒にいたがる亮が嬉しくて…。でも自分が帰ると思ってしまうほど…今までの自分の行動が彼を傷つけていたのかと思うと…それも切なかった。

「大丈夫。今夜は一緒にいるから…。俺を泊めて…」

 安心させるように桂が、亮の腕に手を触れたまま言う。それを聞いて亮が嫌々するように頭を左右に振った。

「やだ…お前…すぐ居なくなる…。俺…やだ…」

 子供のようにメチャクチャな事を言う亮。どんなに桂が言っても、亮は頑固に桂と映画に行くと言い張った。

 とうとう桂が諦めたように溜息を吐く。根負けしてしまった自分に苦笑しながら…それでも桂は亮の頬に優しく手を触れると、絶対言うまいと決めていたその言葉を亮に告げた。

「山本…車降りて。俺の部屋に行こう」

 亮が驚いたように桂を見つめた。少し照れたような、はにかんだ笑みを浮かべながら桂が続ける。

「俺の部屋で休んで。そうすれば、山本が帰らない限り、俺はどこにも行かないだろ。それだったら良いだろ。」

 亮が顔を綻ばせると…まるで少年のようにウンと頷いた。
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