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第一章 片思いの相手から、ツキアッテ…そう言われたら、どんな気持がするんだろう…。

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 どう言う関係なんだろう?

 彼の本命が帰国するまでの期間限定の付き合い。一応10ヶ月間は俺がコイビトなのか…?
 
 リナは桂が作ったほうれん草の白和えを口に運びながら、追求を続ける。

「10ヶ月だけの恋愛ごっこって訳?変よ。そんなの。かっちゃんの事バカにしてるとしか思えない。」

 桂は味噌汁をよそってリナに渡すと溜息を吐いて答えた。

「彼にとって俺の感情は問題じゃないと思うよ。多分俺は手っ取り早かったから候補に上がったんだ。」

 リナがガチャンと乱暴に茶碗と箸をテーブルに叩きつける。
その乱暴な仕草にテーブルがガタガタと揺れた。

 幾ら普段そこらへんの美女と比べ物にならないほどの美人でも、こう言う怒りに駆られた時は素が出るので恐ろしい。

 力は桂以上あって、高校生の頃から腕力、握力、背筋力ではリナに勝った事など無いのだ。

 桂は乱暴なリナの行為に肩を竦めると、今度はお茶を入れて彼女の前に置くと言った。

「頼むから…家の家財道具を乱暴に扱わないでくれよ。お前んとこと違って俺のは全部安物だから…。お前の力じゃ壊れちまう…。」

 リナは桂を睨むと、それでも一応言葉をグッと飲み込むと、気持を落ちつかせるように桂が煎れたほうじ茶を啜った。

「どうして…そんな理不尽な申し出断らなかったの?まるで『都合が良い男』扱いじゃない。」

 リナがどうにか気持を押さえながら、桂を真剣な瞳で見詰めた。

 自分の事を心配して怒ってくれているのが分かるだけに、桂は胸が痛むのを感じていた。

「…断ったよ…。」

 最初はね…その言葉は後ろめたさで情けなく消えて行ってしまう。

 リナはいまいましげに、一向に埒のあかない桂を見ると更に突っ込む。

「でも、OKしちゃったんでしょ。結局は。相手に…その亮とかって男に丸め込まれちゃったんでしょ?」

 いや…丸め込まれた…訳じゃ…桂はか細い声でボソボソ言い訳をすると、決まり悪げに視線をリナの前に置かれたご飯茶碗に落とした。
 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



「お断りします…」
 
 多少の勇気とプライドを持って試みたささやかな抵抗。

「ようは愛人って事ですよね。そんなのはお断りです。」

 桂のその言葉を冷ややかな面持ちで受けとめる亮。

「イヤ…違うよ。愛人じゃない。愛人は愛が介在して成立するだろ。俺と君の間に愛は存在しないから。俺の愛は健志のモノだから。」

 平気で人の気持ちを傷つけるようなセリフが口に出来る。その亮の無神経さに桂は一瞬ショックを受ける。

 自分の存在を軽んじるような残酷な言葉。

―俺は…愛人にもなれないって訳か…。
 
 苦くて悲しい想いだけが胸を駆け巡る。そんな桂の心中にお構いなしに亮は捲くし立てていた。

「そんな気難しい顔しないでよ。もっと軽く考えて欲しいんだ。お互い軽いノリの恋愛を楽しむ。ドライでライトな関係。都会的でお洒落じゃない?」

―それだけ、俺の存在も軽いって訳か…。

 桂は情けない思いを胸に押し込めて訊ねた。

「貴方の恋人はこんな事許すんですか?普通だったらイヤなはずじゃ…。」

 桂の問いに亮は「あぁそんな事…。」という様に肩を竦めて見せた。そんな仕草すらも様になる。

「健志は大丈夫。了解済みだから。俺の恋人は理解があるから。俺が寂しい思いをしてヤバイ事に走るぐらいだったらお遊びは許すからってさ…。」

―お遊びね…。そして契約か…。

 桂は諦めたような気持で確認するように訊ねた。

「良く分かりました。ようはセックスフレンドって事ですよね。」

―セックスフレンド…体の欲求が手っ取りばやく満たせればOKってことか…。

 それを聞いて亮が僅かに眉を顰めた。桂の下品な言い方が気に入らなかったらしい。
 腕を膝の上で組むと、桂を見据えて少し威圧するような声音で言った。

「イヤ…違う。そんな言い方しないでくれないかな。俺は会ってセックスするだけって言うのは嫌なんだ。あんた相手にそんな事するぐらいだったら、どこかで男娼でも買ったほうがましさ。」

 少し怒りを孕んだような亮の口調に桂は戸惑っていた。どこがどう違うのかちっとも理解できない。

「でも…どう違うのか…俺には分かりかねるんですが。」

 桂に理解出来る言葉を探すように、亮の視線が一瞬宙をさ迷った。

「だから…もちろんセックスもするけど…それだじゃ、つまらないだろ。気持が落ち着かないし。俺は会ったら食事もしたいし、どこかにも行きたい、それに色々話したいんだ。」

「あぁ…。なるほどね。」

…精神安定剤代わりも兼ねるわけか…。

 やっと亮の言いたい事が理解できて桂は納得したような表情を浮かべた。それと同時に自分の理不尽な申し出に、色々と理由をつけて正当化しようとしている亮が可笑しくなってしまう。

―全然違わないのに…同じ事なのに…。

 自分の要求が下世話でない事を証明しようとして色々と説明する亮に桂は笑みを浮かべた。やけに子供っぽくて…そんな彼が微笑ましい…。

 桂は一呼吸置くと、真っ直ぐに亮を見詰めた。
受け入れてしまえば、自分が苦しむのは分かっていた。それでも、桂は…甘い罠に飛び込む気になっていた。

「分かりました。お申し出お受けします。」
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