上 下
5 / 95
第一章 片思いの相手から、ツキアッテ…そう言われたら、どんな気持がするんだろう…。

しおりを挟む
―セックスフレンドに恋人ごっこのオプション付き。-

 桂は苦笑いを浮かべながらリナにそう言った。その笑みを複雑そうな表情を浮かべて、リナが見詰める。

 リナは立ち上がると、それまで威勢の良さが萎んでしまったように、黙って自分が食べた食器を片付け始めた。

「おい…リナ…どうしたんだよ…?」

 急に黙りこくってしまった親友に不安を感じ、桂は慌ててキッチンのシンクへ向ったリナの後を追った。

 リナは黙って食器類をシンクに入れると、コックをひねってお湯を出し、スポンジを取り上げて黙々と食器を洗い出す。

 普段マニュキアが剥がれるとか、手が荒れるとか理由をこじつけて絶対にそんな事をしないのに、急にらしくなく食器を洗い出したリナに桂は仰天して止めに入る。

「リナ…何やってんだよ…!止めろよ。俺がやるから。」

 桂がリナの肩に手を置いて、自分の方を振り向かせようと力を掛けた。

 その手をリナは振り向かずに濡れた手でなぎ払おうとする。その拍子にリナの手から茶碗が滑って床に転がり落ちていった。

 カシャンッ…乾いた音が床から響く。

「…ホラ…やりつけない事やるから…割れちまったじゃないか…。」

 あぁ…またお前用の茶碗買わなきゃ…そう言いながら桂は嘆息して床に屈み込み、砕け散った茶碗の破片を拾い集める。

 桂が何気なく視線をリナのスラリとした足に移すとそのリナの綺麗な足がなぜか不自然に震えていて、桂はそっと彼女の背中を見上げた。足も背中も、その華奢な肩も何かを耐えるように震えている。

「…リナ…どうしたんだ…?」

 普通じゃないリナの様子に立ちあがって桂はリナの体を強引に自分の方へ引っ張った。
 
 今度はリナも桂にされるままに振り返る。自分をやっと見たリナの顔を見て、反対に桂が一瞬言葉を押し殺した。

 リナは瞳に涙を一杯溜め、いつもは魅力的な笑みを浮かべるその唇は嗚咽を堪える様に戦慄いている。

「…なんで…お前が泣いてんだよ…リナ」

 桂は驚いた表情そのままに、リナを見詰めた。リナは桂の顔をジッと見詰めるとそのまま涙をボロボロ零し出す。

「…おい…リナ…」

 嗚咽を我慢する事も無く、オイオイと声を上げて泣き始めたリナに桂はどうしたら良いのか分からずオロオロするばかり。もとより泣くリナは苦手だったのだ。

「…リナ…頼むから…」

 事態が分からず、困惑したまま「なんで泣いてんだ?」ともう一度訊ねようとした桂の言葉をリナが手を振って遮った。

「…これが…泣かずに…いられる…わけ…?」
「…???」

 人の質問に疑問で答えるなよな…リナの常套手段に桂は天を仰ぎ見ながら、拾い集めた茶碗の欠片をダストに放り込んで、もう一度リナを見た。

 後で掃除機掛けないと…。泣きじゃくるリナにウンザリし始めながら、桂は別の事を考えた。

 桂の注意が自分から離れ始めたのを敏感に察知したリナは泣くのを止めると、今度は桂の耳をギュッと摘んで捻り上げた。

「いってっ!止めろっ!リナ…何すんだ…!」

 グイグイ桂の耳を引っ張りながらリナは、桂を居間に連れていくと乱暴に座布団の上に押しやった。

「…いってぇな!何すんだよ…リナ!」

 痛さで涙を目に浮かべながら、桂は床に座り込んだままリナを見上げる。その正面にリナは桂を威圧する様に腰に両手を当てて仁王立ちになると、殺気だったような顔で桂を鋭く見下ろした。

「…何…卑屈になってんのよ!」

 リナがヒステリックに叫ぶ。

「…え…?」

 リナの綺麗な瞳から、もう一度今度は静かな雫がハラハラと落ちていく。

「…だって…だって…そうじゃない…?セックス・フレンド…なんて…しかも…恋人ごっこ付き…なんて…。」

 ひどい…ひどすぎるわ…。最後のその言葉は掠れて聞き取れないほどだった。

「…あ…リナ…」

 やっとリナの、感情の起伏の原因に思い当たって、桂は表情を心持緩めた。

 リナはいつだって自分の気持を一番良く知っていて…自分の事を思いやって…そして心配してくれている…。
 
 桂は立ちあがると、リナをゆっくり抱きしめた。背が同じぐらいの為、胸に顔を抱き寄せる事は出来ないが彼女の頭を自分の肩に引き寄せてやる。耳元にリナのしゃくりあげるような声が響いた。

「お前って…本当に優しいな…。」

 同じように自分もリナの華奢な肩に顔を押し当てながら呟く。

ホント…いつだってお前だけは俺に優しい…。

「かっちゃん…良いの?…それで…本当に?…。」

 リナの言いたい事は分かっている…。リナが心配している理由もわかり過ぎる位…分かっていた。桂はリナの背中を宥めるように擦ってやる。その優しい行為そのままに桂は穏やかな声根で囁いた。

「良いんだ…。リナ…俺…今スゴイ幸せだから…。」

 それを聞いてリナがワッとまた激しく泣き始めた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...