堕ちる犬

四ノ瀬 了

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これがお前たちに偉そうな口を叩いていた男の本性だ。

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繁華街の外れにある高級中華料理店「富華」の前で車が止まる。
店は組の息のかかった店のひとつであり、会談や宴会の場として利用されていた。中堅以上の組員であれば一度ならず出入りしたことがある店だ。大広間や個室で区切られており、密室を作ることができ使い勝手もいい。

店に着く頃には日は沈みすっかり夜になっていた。
繁華街の中心部はネオンライトに照らされ、賑わう声がしていたが、店の周りには殆ど街灯がなく、店の前に釣り下がった球形のランプがうっすらとあたりを照らしてるだけで、静かだ。

店のドアが内側から開かれ、中堅組員のひとり新島が顔を出した。
車が到着するのを待っていたようだ。
美里以外の全員が車から降りると、「車止めてきますね」と美里がそのまま車を出す。霧野が去っていく車のテールランプを眺めていると、身体に冷たいものが当たるのを感じた。雨が降り始めた。

新島は川名、二条、似鳥、霧野に向かって「おまちしていました」と頭を下げ、店の中を先導した。
新島の後ろに川名と似鳥が並びながら何かを話しており、霧野は二人の背中を見ながら二条の横に付きついていく。
同じ光景を何度も見たことがある。初めてここに連れてこられたとき以上の緊張が身体に張り付いているが、その時と同じようにそれを見せないように自分の呼吸を意識しながら無心になっていた。

「随分、涼しい顔をしているな。本当に飯食わされるだけだと思っているのか?」

二条の言葉を無視してそのまま前を見ていた。そんなことは思っていない。思っていないが、勝手に想像して惨めに泣きわめいて何になるというんだろう。彼らを愉しませるだけだ。
霧野はそう思っていたが、二条は既にその霧野の様子を愉しんでいた。どこまで人の嗜虐心をくすぐる男なのだろうかと。

「その顔がいつまでもつか見ものだな。」

店の中は黒色で統一され磨き抜かれた床や柱が室内灯に照らされ、ぬめるように光っている。
店の入口のに近い席は別の団体客や、個人客が訪れ賑わっていたが、奥に行けば行くほど静かになる。

店の長い廊下の突き当り大広間、新島の手で金色の蝶の飾りがあしらわれた黒塗りのふすまが開かれると、ガタガタと物音がし、先に来て長テーブルに座っていた者たちが全員が立ち上がって頭を下げた。新島も入れると全部で8名、霧野が知っている顔も見たことがあるがよく知らない顔もいた。
テーブルの上には既に前菜と大皿料理がいくらか並んで湯気を立てている。

部屋の奥には広い空間があり、赤いマットレスの上に大きめの革張りのソファが余裕をもって二つ設置され、そこにはきらびやかな服装をした似鳥の商売女が座っていた。彼女らもゆっくり立ち上がって頭を下げた。ソファのサイドテーブルには長テーブルの上と同じような前菜料理と大皿がのせられていた。ソファの向こう側の壁には小さなバースペースが設けられ、カウンター席が設置されている。

ソファのある方とは反対側が上座であり、四つ席があけられていた。似鳥はソファの方に行くと女の腰に手を回しソファに座った。

川名が最も上座である入口から最も遠いテーブルの角席に座り、その向かいに二条、必然的に川名の左隣に霧野が座る形になる。霧野の目の前の空席が美里の席である。
「みんな、楽にしていいぞ。今日は気楽な親交の場。好きなだけ飲んでいい。」
川名がそういうと全員が席に座り、身体を楽な姿勢に崩した。

ここまでは普段と変わらない流れであった。しかし、普段と違うことには、霧野の席にだけ何も置かれていなかった。箸、食器はもちろん水ひとつ置かれておらず、それについて誰も何も言わない。

霧野は場の異常さに思わず笑ってしまいそうになった。飯を食わせてやると言っておいて最初からこの仕打ちだ。
ここにいる全員がグルで、自分の正体を知っている。気楽な親交の場なんかじゃない。見せしめの場だ。

左側に座っているのは、幹部の一人の久瀬だった。久瀬とは仕事の領域が異なり行動が一緒になることは少ないが、立場上集まりの場で席が近くなる率が高く、情報共有としての会話や愚痴を話すことがあり親交があった。
久瀬は霧野の右に座る川名と川名の向かいに座る二条の方を見て、霧野の存在を完全に無視しながら「飲み物どうします?」と言った。

「俺はとりあえずいつもと同じでいいかな。」
「白酒だな。」

久瀬が下座の方に目配せすると、久瀬の配下の組員と思われる男が席を立ち、部屋から出ていった。
出て行ってすぐ、彼が手に酒をもって戻ってき、川名と二条の前にそれを置いた。
川名はテーブルの上で指を組んで、こちらを見ていた。

「何もなくて驚いただろう。お前には特別メニューを用意させてるから安心しろ。そのうちくる。」
「……そうですか。」
「しかし、俺たちが先に食ってる間お前は暇だろう。」

川名は視線をゆっくりと霧野から外し、卓全体の方に向けた。
「こいつに飯を食わせてやりたいやつがいたら挙手しろ。」
霧野より下座に座る男達八人のうち久瀬を含めた七人が手を上げた。
「今手を上げた人間を覚えたな。」

川名はそう言って立ち上がると、部屋の隅に置かれていた黒のショルダーバックから何かを手に持ち戻ってきてそれを何も置かれていなかった霧野の目の前に置き、立ったままもう一度卓全体を見据えた。

「いいか、お前たちの知っている通りこいつは警察の手先、犬だ。本来なら即処刑扱いだが、俺はこいつの有能さを買っている。お前たちの中にもこいつに恩義のある奴がいるだろう。きっと余計に腹が立ったはずだ。素行が良ければもう少し生かして、警察とは真の意味で手を切らせ俺たちの犬として心身共に生涯貢献してもらうつもりだ。三日半程”軽い”制裁を加えて多少は曲がった性根を矯正させ自分の立場をわきまえさせたが、まだまだ狂犬もいいところ。自分のご主人様が誰なのか全くわかっていない馬鹿犬だ。お前たちにも憂さを晴らさせてやる。」

川名は霧野の目の前に置かれていた遠隔操作式のバイブレーターのリモコンを指で軽くはじき、リモコンは回転しながらテーブルの上を滑り久瀬の目の前で止まった。

「霧野、お前には組織に貢献するチャンスをやろう。存分に尽くして誠意を見せてみろ。多少は大目に見るがあまりにもひどい態度をとるようなら、この場にいる誰かにお前が殺されそうになっても俺はかばわないからな。みんながお前に苛立ち殺気立っているんだ。そいつを尻に突っ込んで、さっき手を上げていた人間に順番に丁寧に口で奉仕してさしあげろ。うまくできたら、お前のご主人様たちが上の口か下の口かにご褒美をくれるそうだ。良かったな。鞭ばっかりじゃ学習効果がないからたまには飴もやらないとな。がんばれよ。手始めにまずは七本だ。できるな?……わかったら「はい、悦んでやらせていただきます。」と返事をしないか。」

「……。はい、悦んでやらせていただきます……。」
霧野は川名と目をあわせず、俯いたままゆっくりと返事をした。
言葉の節々に煽るような怒気が含まれていた。

「なんだ?何か言いたげだな。口を開いてもいいぞ。その分痛ぶりがいがあるからな。」
「……。お前だけでなくお前の部下までこんな変態ぞろいだったとは、終わってるよこの組は。」
「……。言いたいことはそれだけか?久瀬、こいつの薄汚い口を後からたっぷりと塞いでやれ。こんな大口叩いているが、いつものことだ。どうせすぐに泣きを見る。霧野、お前は立って壁の方を向き、皆に見えるようにして自分でそれを尻にいれてみせろ。自分がどれだけ調教されているのか成果を見てもらうんだよ。普通の人間はこんなものすぐに入らないからな。」
「……本当にいい趣味してるな。」

目の前にあるにはふさわしくないローションボトルを手に取って中身をバイブレーターの上にぶちまけた。
ローションに濡れたそれは一層グロテスクだ。それを手に持って立ち上がると部屋にあるすべての視線がこちらを向いており、視線を避けるように、壁の方を向き手をついた。

「もっとこちらに尻を向けないか。」
背後で川名がそういって霧野の方に歩み寄ると、足を大きく開かせ、尻を突きだすような姿勢にさせた。
「手伝ってやる。ほら、ここにいれるんだよ。」

川名の手がパンツの裂け目を押し広げ、空いた方の手の人差し指と中指が穴を押し広げて他の者たちの面前にピンク色をした排泄筒を晒しあげた。

「ほお、精液ぶちまけられた後でぐちゃぐちゃじゃないか。ん?なんだ人前に晒されてひくついてるぞ、淫乱め。」

川名はくちゃくちゃとわざと音を立てるようにして何度か指で霧野の穴を押し広げたり緩めたりした。

「急に体が熱くなったな。わかりやすい奴だ。せっかくだから、もう少しこのまま凌辱されつくし、男根をむさぼり咥えた淫乱穴を見てもらえ。お前たち、近くに来て見てやりたければ席を立っていいぞ。こいつは見られるだけで感じるマゾの変態警官だからな。感じさせてやれ。早速息を荒げてはじめて、しょうがないやつだ。」

川名の指がさらにきつく霧野の穴を押し広げ、羞恥に身体が震えた。
何人かの立ち上がる音が聞こえ、壁に複数の男のシルエットが浮かび上がり、ねめつようような視線と、複数の気持ちの悪い息使いがすぐ近くで聞こえた。誰かのごつい手が遠慮なく尻を触り始め、外気に晒された穴が嫌悪と緊張と興奮で脈打ってしまう。

「赤く腫れて濡れそぼってるじゃないか。こりゃあ立派な性器だな。」
「開くと奥の肉が見えているぞ、普通の排泄器官はそんな動きしないぜ。」
背後にたつ者たちに好き勝手に拡げられた尻穴を品評され、あまりの羞恥に頭の奥がキリキリし、さらに顔が熱くなった。

「もういれていいぞ。みんなの見ている前でそれを咥え込んで見せろ。」

霧野は淫らな機械の先端を押し広げられた穴に押し当て、機械の底を指で押すようにしながらゆっくりそれを中に押しいれていく。機械の凹凸が肉壁を刺激しながらつっかえることなく咥え込んでいく。

奥の秘所まで到達すると思わず軽く声が出てしまい、下半身に渦巻いていた興奮が軽く跳ねた。羞恥心に顔を俯かせながら、奥までしっかり押し込んでから手を放す。と同時に誰かの手がそれを勢いよく引き、それから再度勢いよく押し入れる。

「あ゛あっ!あ……!」
「へえ、いい声で鳴くじゃないか。」

久瀬の声だった。久瀬は再び勢いよくバイブを肛門の出口付近まで引き、押し入れることを繰り返した。そのたびにぐちゃぐちゃと粘着質な激しい音が立ち、精液とローションで泡立った白い液体が穴からこぼれ出ていく。
霧野は両手を壁に付き、必死になって耐えていたが、息が上がり開いた口から連続する刺激に合わせて声が出てしまう。

「うわ、ケツをこんなグロいもので雑に抉られて勃起してるじゃないすか。信じられねぇ。幻滅だ。」
「そうだ、これがお前たちに偉そうな口を叩いていた男の本性だ。」

バイブがより一層深く埋め込まれるように突き入れられ、声と共に深く息を吐き出すと手が離された。
壁に手をついたまま肩で息をしていると川名に身体を壁から引きはがされ、顔をのぞき込まれた。
霧野は眉を顰め歯を食いしばったまま目を伏せて川名の首のあたりを見た。

「ああ、いい。とても良い顔をしているな。お前のような奴にはそういう顔が一番お似合いだ。お前に休んでいい権利などないぜ。すぐに久瀬への奉仕にとりかかれよ。久瀬も今ならすぐにお前の口の中にお前の大好物の餌を吐き出してくれるぞ。お前の前菜は七人分の男のスペルマだ。」
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