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設楽原
第22話
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馬場信春「高坂。先程から黙り込んでいるが、何か気になる事でもあるのか?」
高坂昌信「いえ。長坂様の考察。御尤もであります。ただ……。」
長坂釣閑斎「別に反論していただいて構わない。いくさの場は何が発生しても不思議な事では無い。可能性のある事はここで出しておく必要がある。」
高坂昌信「ありがとうございます。山県。」
山県昌景「どうした?」
高坂昌信「聞きたくない名前を出して申し訳無いのだが。」
山県昌景「奥平の事か?構わん。」
高坂昌信「ありがとうございます。確か奥平貞能は家康の所に居ると聞いているがそれは確かか?」
山県昌景「これは私の責任であるのだが、うちの軍律から長篠城の拡張に至るまで、奴の発言が考慮されていると見て間違いない。」
高坂昌信「今は何処に居る?」
山県昌景「大岡からの情報によると、酒井の所に居ると。」
高坂昌信「酒井は今行方知れずのハズであるが?家康の陣中に今、奥平は居るのか?」
山県昌景「ん!?」
長坂釣閑斎「なるほど。そう言う事か……。」
馬場信春「何かお気付きになられた事でも?」
長坂釣閑斎「そうだよな……。ただの八つ当たりのためだけに、信長の家臣並びに主君である家康。そしてその同僚が居並ぶ中、信長が他家の重鎮である酒井忠次を罵倒するような真似をするはずは無い。
織田徳川陣営で長篠周辺の事を最も知っているのは奥平貞能。その案を受けた酒井が提示したわけであるのだから、駄目な案では勿論無い。局面を打開するに足る提案が為されたに決まっている。それは信長も理解している。」
跡部勝資「では何故酒井を罵ったのでありますか?」
長坂釣閑斎「酒井の提案を実行しない事を軍議に参加している者全てに知らしめるためである。」
山県昌景「何故であります?」
長坂釣閑斎「大岡のような事。我らに情報を売る奴が居るかも知れないから。もし酒井が罵倒された軍議の場で、酒井の提案が採用されたとしよう。その中に我らと通じている者が居た場合、間違い無く我らの反撃に遭う事になってしまう。それを防ぐため、敢えてあの場で酒井を罵った。」
馬場信春「では酒井が居ないのは?」
長坂釣閑斎「酒井は既に動き出している。奥平貞能も同陣していると見て間違いない。目的は兵糧の乏しくなった長篠城の救援並びに我らを撤退させる事。もしくは信長が仕掛けた罠に向かって我らを突っ込ませる事。これらを実現させるべく我らの何処かを狙っていると見て間違いありません。」
馬場信春「高坂。相違ないか?」
高坂昌信「長坂様。ありがとうございます。」
軍議は一時休憩。外の空気を吸いに出た高坂昌信の所に
「お見事でした。」
の声……。
高坂昌信「おぉ何だ。喜兵衛か……。別に私が何をしたわけでは無い。全ては長坂様のおかげである。」
武藤喜兵衛「長坂様が『酒井の動きに注意せよ。』仰るとは思いもよりませんでした。」
高坂昌信「『織田徳川が揉めている隙に正面突破を図れ!!』と言いそうな方だからな……。」
武藤喜兵衛「正直な話。信長と激突するのは……。」
高坂昌信「高天神の時もそうであったが、大きな危険を伴ういくさは避けたいのが本音である。これは山県も同じ。ただ彼は奥平の件があるから無理をしてしまっている節が見られる。」
武藤喜兵衛「あと跡部様。」
高坂昌信「上杉北条との折衝は跡部の力が無ければ叶わなかった。それだけの事をしたのだから成果を上げてもらわねば。の思いは良くわかる。ただいくさは不確定要素が多過ぎる。状況によっては回避するのも立派な選択肢。それをわかって欲しい所はある。まぁそれも長坂の発言で跡部も落ち着くであろう。」
武藤喜兵衛「殿も変わりましたし。」
高坂昌信「あそこまで無茶しなくても我らが殿を見限らない事に気付いていただく事は難しいのかな?と正直思っていた。相当痛い目にでも遭わない限り、聞く耳を持つ事は無いのだろうな。と半ば諦めていたのだが……。」
武藤喜兵衛「今は気持ち悪くなるぐらい聞いて来る?」
高坂昌信「……まぁそうだな……。ただ酒井の件を聞いて安堵した事がある。」
武藤喜兵衛「何でありましょうか?」
高坂昌信「馬場や内藤。そして山県と話していて此度のいくさで最も恐れていたのは、信長が正面からいくさを挑んで来ることであった。個々の力は我らに分があるかもしれないが、数は如何ともし難い。装備も同様。もし信長が鉄砲を使った攻めに特化した策を持っていたら、恐らく勝つ事は出来なかった。
加えて最初に信長と戦う事になるのは有海村に居る山県。何かあったら退却の報せを出す。と言っているが、恐らく彼自身は留まると見ている。長篠攻略が出来なかった事の責任を取って。その山県の動きを見た他の者が山県救援に回る可能性も十分にある。悪戯に被害を増やしてしまう危険性があった。しかしその心配は無くなった。何故なら酒井の策を信長が一蹴したからである。
武藤喜兵衛「織田軍全体で動く策では無いものが採用されたから?」
高坂昌信「そう。ただ問題は酒井が我らを何処から狙って来るかである。」
武田勝頼「喜兵衛。ちょっと良いか?」
武藤喜兵衛「御館様が呼んでいますので私はこれで。」
高坂昌信「また後で。」
武藤喜兵衛「お願いします。」
高坂昌信独りになり…。
高坂昌信「酒井忠次はうちの何処を狙って来るのか……。信長は自分の家臣にその事を伝えていない。大岡からの情報が正しいのであれば、徳川家中でその事を知る人物も限られている。恐らく知っているのは信長と家康。実働部隊の酒井と奥平貞能。それに彼らについている者共のみ。
心配していた川向うの山県の居る有海や同じく穴山の居る篠場野が狙われる心配は無くなった。あそこを狙うためには、酒井は我らが優位となる乾いた大地で戦わなければならない。加えてこれまで出していた囮にうちが乗らない事を知っている。やるのであれば我らを討ち果たさなければならない。そのために必要なのは兵の数を家康の部隊だけで用意する事は不可能であり、家康家中の者共がこの作戦に参加していない事がわかっている。実現させるためには信長の部隊も加えなければならない。となればあそこで信長が酒井を罵倒する事はあり得ない。
あったとするならば、酒井がこの提案をした時のみ。もしそうであるならば良いのであるが、そのような事はあり得ない。
長坂が言っていた事は何であったか……。長篠城を救援する事が第一。そして我らを退却させるもしくは連吾川へ引き入れる事を狙っている。と言っていたな。そうなると船を使って入城すると言う選択肢は採らない。一時的に兵糧を満たす事は可能ではあるが、包囲されている事実に変わりは無い。そうなると何処かの部隊を狙って来る事になる。手っ取り早いのは殿の居るここ医王寺の本陣であるが、そこに辿り着くためには寒狭川を越えなければならない。仮に越える事が出来たとしても内藤の居る岩代。更には真田の居る天神山。これらを避け背後に回る事が出来たとしても跡部や小山田が控えている。
寒狭川では無く、城東岸を流れる大野川を遡る可能性もあるが、そこも大通寺山で馬場が控えている。酒井が用意している兵だけでは殿の命を狙うのは難しい。それに……。」
最も到達困難な鳶ヶ巣山から全ての様子を伺い知る事が出来る。
高坂昌信「たとえ酒井が奇襲を仕掛けようとしても、長篠城の奥平貞昌が打って出ようとしたとしても、それらの動きを即座に察知する事が出来る体制が整っている。その鳶ヶ巣山に到達するためには川を遡らなければならない。穴山や馬場が捕捉すれば済む話である……。ん!?まてよ?」
高坂昌信「あっ!殿!!」
武田勝頼「どうした?」
翌日。
「放て!!」
の合図と共に戦闘開始。その場所となったのは……。
前日に戻り武田勝頼本陣。
山県昌景「酒井忠次は鳶ヶ巣山を狙っているのか?」
高坂昌信「はい。」
馬場信春「ならば問題あるまい。あそこに到達するためには川を上らねばならぬ。管轄は(大通寺山に陣取る)私である。怠りなく見張り、発見次第即座に討ち果たして見せようでは無いか。」
高坂昌信「いえ。酒井はそこを通る事はありません。」
内藤昌豊「ほかに道があるとでも言うのか?」
更に戻って小諸。
菅沼正貞「地元の者しか知らない道についてでありますか?」
高坂昌信「はい。徳川家康の所に奥平貞能が居ます。その奥平の指示の下、長篠城は拡張され我らの攻撃に備えています。」
菅沼正貞「もしそれらの仕掛けの全てを御館様に打破される。もしくは見破られる事により、城に居る息子貞昌が危機に陥った時のための手立てを貞能が講じる可能性がある?と。」
高坂昌信「はい。その危険性のある場所と、そこに至る道を教えていただきたいと。」
菅沼正貞「……そうですね。長篠城は東を流れる大野川の対岸にある鳶ヶ巣山から全てを把握される弱点を抱えています。川を隔てているため鳶ヶ巣から直接狙われても問題ありませんが、城側からしますと気持ちの良いものではありません。一方、鳶ヶ巣の動きは城からも把握する事が出来ます。味方と分かれば船を用い、一気に城内に引き入れる事が出来ます。その動きを遮る事は難しい。援軍と籠城軍が合流し、城にある備え。大量の弾薬を利用すれば……。」
武田勝頼本陣。
高坂昌信「ここ殿が居る本陣目掛け突進。我らは窮地に立たされることになります。」
内藤昌豊「信長とのいくさどころでは無くなった我らは、何を得る事も出来ず退却するか……。」
山県昌景「織田信長が待ち構える連吾川目掛け大勝負に打って出るか……。」
馬場信春「どちらにせよ。我らは甚大な被害を被る事を覚悟しなければならない状況に追い込まれる事になる?」
高坂昌信「その通りであります。」
山県昌景「しかし鳶ヶ巣に辿り着くためには川を使わなければならぬ。そのような場所にどうやって?」
内藤昌豊「そこに至る我らが知らない道があるとでも言うのか?」
高坂昌信「忍びの者に調べさせた所、見つける事が出来ました。今、その道を酒井が動いている最中である事もわかりました。」
山県昌景「ん!?即座に鳶ヶ巣山に増援の部隊を派遣。迎え撃ってやりましょう。そうすれば織田は全ての手立てを失う事になります。」
高坂昌信「それも宜しいのでありますが……。」
馬場信春「何か策でもあるのか?」
高坂昌信「いえ。長坂様の考察。御尤もであります。ただ……。」
長坂釣閑斎「別に反論していただいて構わない。いくさの場は何が発生しても不思議な事では無い。可能性のある事はここで出しておく必要がある。」
高坂昌信「ありがとうございます。山県。」
山県昌景「どうした?」
高坂昌信「聞きたくない名前を出して申し訳無いのだが。」
山県昌景「奥平の事か?構わん。」
高坂昌信「ありがとうございます。確か奥平貞能は家康の所に居ると聞いているがそれは確かか?」
山県昌景「これは私の責任であるのだが、うちの軍律から長篠城の拡張に至るまで、奴の発言が考慮されていると見て間違いない。」
高坂昌信「今は何処に居る?」
山県昌景「大岡からの情報によると、酒井の所に居ると。」
高坂昌信「酒井は今行方知れずのハズであるが?家康の陣中に今、奥平は居るのか?」
山県昌景「ん!?」
長坂釣閑斎「なるほど。そう言う事か……。」
馬場信春「何かお気付きになられた事でも?」
長坂釣閑斎「そうだよな……。ただの八つ当たりのためだけに、信長の家臣並びに主君である家康。そしてその同僚が居並ぶ中、信長が他家の重鎮である酒井忠次を罵倒するような真似をするはずは無い。
織田徳川陣営で長篠周辺の事を最も知っているのは奥平貞能。その案を受けた酒井が提示したわけであるのだから、駄目な案では勿論無い。局面を打開するに足る提案が為されたに決まっている。それは信長も理解している。」
跡部勝資「では何故酒井を罵ったのでありますか?」
長坂釣閑斎「酒井の提案を実行しない事を軍議に参加している者全てに知らしめるためである。」
山県昌景「何故であります?」
長坂釣閑斎「大岡のような事。我らに情報を売る奴が居るかも知れないから。もし酒井が罵倒された軍議の場で、酒井の提案が採用されたとしよう。その中に我らと通じている者が居た場合、間違い無く我らの反撃に遭う事になってしまう。それを防ぐため、敢えてあの場で酒井を罵った。」
馬場信春「では酒井が居ないのは?」
長坂釣閑斎「酒井は既に動き出している。奥平貞能も同陣していると見て間違いない。目的は兵糧の乏しくなった長篠城の救援並びに我らを撤退させる事。もしくは信長が仕掛けた罠に向かって我らを突っ込ませる事。これらを実現させるべく我らの何処かを狙っていると見て間違いありません。」
馬場信春「高坂。相違ないか?」
高坂昌信「長坂様。ありがとうございます。」
軍議は一時休憩。外の空気を吸いに出た高坂昌信の所に
「お見事でした。」
の声……。
高坂昌信「おぉ何だ。喜兵衛か……。別に私が何をしたわけでは無い。全ては長坂様のおかげである。」
武藤喜兵衛「長坂様が『酒井の動きに注意せよ。』仰るとは思いもよりませんでした。」
高坂昌信「『織田徳川が揉めている隙に正面突破を図れ!!』と言いそうな方だからな……。」
武藤喜兵衛「正直な話。信長と激突するのは……。」
高坂昌信「高天神の時もそうであったが、大きな危険を伴ういくさは避けたいのが本音である。これは山県も同じ。ただ彼は奥平の件があるから無理をしてしまっている節が見られる。」
武藤喜兵衛「あと跡部様。」
高坂昌信「上杉北条との折衝は跡部の力が無ければ叶わなかった。それだけの事をしたのだから成果を上げてもらわねば。の思いは良くわかる。ただいくさは不確定要素が多過ぎる。状況によっては回避するのも立派な選択肢。それをわかって欲しい所はある。まぁそれも長坂の発言で跡部も落ち着くであろう。」
武藤喜兵衛「殿も変わりましたし。」
高坂昌信「あそこまで無茶しなくても我らが殿を見限らない事に気付いていただく事は難しいのかな?と正直思っていた。相当痛い目にでも遭わない限り、聞く耳を持つ事は無いのだろうな。と半ば諦めていたのだが……。」
武藤喜兵衛「今は気持ち悪くなるぐらい聞いて来る?」
高坂昌信「……まぁそうだな……。ただ酒井の件を聞いて安堵した事がある。」
武藤喜兵衛「何でありましょうか?」
高坂昌信「馬場や内藤。そして山県と話していて此度のいくさで最も恐れていたのは、信長が正面からいくさを挑んで来ることであった。個々の力は我らに分があるかもしれないが、数は如何ともし難い。装備も同様。もし信長が鉄砲を使った攻めに特化した策を持っていたら、恐らく勝つ事は出来なかった。
加えて最初に信長と戦う事になるのは有海村に居る山県。何かあったら退却の報せを出す。と言っているが、恐らく彼自身は留まると見ている。長篠攻略が出来なかった事の責任を取って。その山県の動きを見た他の者が山県救援に回る可能性も十分にある。悪戯に被害を増やしてしまう危険性があった。しかしその心配は無くなった。何故なら酒井の策を信長が一蹴したからである。
武藤喜兵衛「織田軍全体で動く策では無いものが採用されたから?」
高坂昌信「そう。ただ問題は酒井が我らを何処から狙って来るかである。」
武田勝頼「喜兵衛。ちょっと良いか?」
武藤喜兵衛「御館様が呼んでいますので私はこれで。」
高坂昌信「また後で。」
武藤喜兵衛「お願いします。」
高坂昌信独りになり…。
高坂昌信「酒井忠次はうちの何処を狙って来るのか……。信長は自分の家臣にその事を伝えていない。大岡からの情報が正しいのであれば、徳川家中でその事を知る人物も限られている。恐らく知っているのは信長と家康。実働部隊の酒井と奥平貞能。それに彼らについている者共のみ。
心配していた川向うの山県の居る有海や同じく穴山の居る篠場野が狙われる心配は無くなった。あそこを狙うためには、酒井は我らが優位となる乾いた大地で戦わなければならない。加えてこれまで出していた囮にうちが乗らない事を知っている。やるのであれば我らを討ち果たさなければならない。そのために必要なのは兵の数を家康の部隊だけで用意する事は不可能であり、家康家中の者共がこの作戦に参加していない事がわかっている。実現させるためには信長の部隊も加えなければならない。となればあそこで信長が酒井を罵倒する事はあり得ない。
あったとするならば、酒井がこの提案をした時のみ。もしそうであるならば良いのであるが、そのような事はあり得ない。
長坂が言っていた事は何であったか……。長篠城を救援する事が第一。そして我らを退却させるもしくは連吾川へ引き入れる事を狙っている。と言っていたな。そうなると船を使って入城すると言う選択肢は採らない。一時的に兵糧を満たす事は可能ではあるが、包囲されている事実に変わりは無い。そうなると何処かの部隊を狙って来る事になる。手っ取り早いのは殿の居るここ医王寺の本陣であるが、そこに辿り着くためには寒狭川を越えなければならない。仮に越える事が出来たとしても内藤の居る岩代。更には真田の居る天神山。これらを避け背後に回る事が出来たとしても跡部や小山田が控えている。
寒狭川では無く、城東岸を流れる大野川を遡る可能性もあるが、そこも大通寺山で馬場が控えている。酒井が用意している兵だけでは殿の命を狙うのは難しい。それに……。」
最も到達困難な鳶ヶ巣山から全ての様子を伺い知る事が出来る。
高坂昌信「たとえ酒井が奇襲を仕掛けようとしても、長篠城の奥平貞昌が打って出ようとしたとしても、それらの動きを即座に察知する事が出来る体制が整っている。その鳶ヶ巣山に到達するためには川を遡らなければならない。穴山や馬場が捕捉すれば済む話である……。ん!?まてよ?」
高坂昌信「あっ!殿!!」
武田勝頼「どうした?」
翌日。
「放て!!」
の合図と共に戦闘開始。その場所となったのは……。
前日に戻り武田勝頼本陣。
山県昌景「酒井忠次は鳶ヶ巣山を狙っているのか?」
高坂昌信「はい。」
馬場信春「ならば問題あるまい。あそこに到達するためには川を上らねばならぬ。管轄は(大通寺山に陣取る)私である。怠りなく見張り、発見次第即座に討ち果たして見せようでは無いか。」
高坂昌信「いえ。酒井はそこを通る事はありません。」
内藤昌豊「ほかに道があるとでも言うのか?」
更に戻って小諸。
菅沼正貞「地元の者しか知らない道についてでありますか?」
高坂昌信「はい。徳川家康の所に奥平貞能が居ます。その奥平の指示の下、長篠城は拡張され我らの攻撃に備えています。」
菅沼正貞「もしそれらの仕掛けの全てを御館様に打破される。もしくは見破られる事により、城に居る息子貞昌が危機に陥った時のための手立てを貞能が講じる可能性がある?と。」
高坂昌信「はい。その危険性のある場所と、そこに至る道を教えていただきたいと。」
菅沼正貞「……そうですね。長篠城は東を流れる大野川の対岸にある鳶ヶ巣山から全てを把握される弱点を抱えています。川を隔てているため鳶ヶ巣から直接狙われても問題ありませんが、城側からしますと気持ちの良いものではありません。一方、鳶ヶ巣の動きは城からも把握する事が出来ます。味方と分かれば船を用い、一気に城内に引き入れる事が出来ます。その動きを遮る事は難しい。援軍と籠城軍が合流し、城にある備え。大量の弾薬を利用すれば……。」
武田勝頼本陣。
高坂昌信「ここ殿が居る本陣目掛け突進。我らは窮地に立たされることになります。」
内藤昌豊「信長とのいくさどころでは無くなった我らは、何を得る事も出来ず退却するか……。」
山県昌景「織田信長が待ち構える連吾川目掛け大勝負に打って出るか……。」
馬場信春「どちらにせよ。我らは甚大な被害を被る事を覚悟しなければならない状況に追い込まれる事になる?」
高坂昌信「その通りであります。」
山県昌景「しかし鳶ヶ巣に辿り着くためには川を使わなければならぬ。そのような場所にどうやって?」
内藤昌豊「そこに至る我らが知らない道があるとでも言うのか?」
高坂昌信「忍びの者に調べさせた所、見つける事が出来ました。今、その道を酒井が動いている最中である事もわかりました。」
山県昌景「ん!?即座に鳶ヶ巣山に増援の部隊を派遣。迎え撃ってやりましょう。そうすれば織田は全ての手立てを失う事になります。」
高坂昌信「それも宜しいのでありますが……。」
馬場信春「何か策でもあるのか?」
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