死人は行く道を未来へと誘う ~ただ一人生き残った青年の役目は、裏切り者の作った異界を消すこと。だけど~

杵島 灯

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第1章 欠け行く月の影の中

願い

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 他と隔絶されたこの小さな世界にはたった一人だけ血肉を持つ者がいる。
 肩の下までの白い髪に黄金の瞳、狐の耳と三本の狐の尾を持つ、幼い娘だ。

 彼女はほんの短い間だけ目を閉じていたが、すぐハッとしたかのように瞼を開いて辺りを見回す。
 周りに誰もいないことに気づき、焦りと共に名を呼ぼうと口を開いた。

「――――――っ!」

 しかし、呼ぶ名が分からない。
 さかんに瞬きをしながら一つ、二つと呼吸をするうち、彼女はそもそも自分が呼ぶ名を持たないことに気が付いた。
 数百年のあいだずっと居続けた灰色の世界は何も変化がないまま彼女を取り囲んでいる。
 そうか、と胸の中でだけ呟いて彼女は再び居住まいを正した。

 ――どうやら眠っていたようだ。

 妖の血を引く彼女は寝食を必要としない。この数百年で眠ったことなどついぞないのに妙なことだ。
 ただ、その夢の中で彼女は誰かと一緒にいたような気がした。ずっと待っていた誰かと。
 ようやく会えた相手と過ごす時間は寂しいことも多かったが最後には幸せに変わった。
 だからいつもと変わらないこの状況が今は殊更に寂しくて、彼女は姿勢を崩して膝を抱える。

「早く。早く来い、『約束の者』……」

 そう願い続けてどれほどの時が過ぎたのか、彼女はもう覚えていない。
 しかしいつか必ず来るはずの相手を待って、彼女は今日も願い続ける。

「私が必ずお前を助ける。お前の願いを叶えてやる。だから、だから。早く来い」

 世界はまだ、沈黙を続けている。
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