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12.それは叫んだらアウトな気がする
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その日の夜、また小平たちと夕飯を共にした。
元の世界での顔見知りは小平だけということもあってか、前髪長男とロンゲはどうでもよさそうな顔をしていた。
小平の隣には変わらずおとなしそうな顔をした女性がいた。前髪長男は周りの女性が三人になっていた。ロリが二人なのは変わらないが、もう一人は楚々とした女性である。奴はそれが当り前のように装ってはいたが、お茶を淹れてもらったり、ごはんをよそってもらったりしている時に口元が緩むのを止められないようだった。そしてロンゲはというと、熟女だけでなく、ロリまで侍らせていた。処女を抱かせてもらったのだろうか。こちらも余裕そうな顔をしていたが、やはり世話をされるのがたまらないようでところどころで顔が緩んでいた。そう考えると小平は随分淡白なのだなという印象を受けた。
僕? 別に取り繕う必要もないのでできるだけ自然体でいたつもりだ。
「二日ぐらい会わなかった気がするけど、なんか変わったことある?」
試しに聞いてみると、前髪長男がふん、と鼻から息を吐き出した。
「み、見ればわかるだろ? ぼ、僕に是非お情けをとこうして美女たちが集まって……」
「るせーぞ、コラ。女の方が多いんだからてめーみたいな奴でも需要があるだけだろ?」
「旦那さま? そんなことをおっしゃると……」
「いやいやいやいや、せりなさんこれはスキンシップだよスキンシップ!」
熟女に袖を引かれたロンゲは慌てだし、熟女に弁明を始めた。熟女の名前はせりなさんというらしい。
「変わったことか……特にないな。そういう斉藤はどうなんだ?」
少し考えるような顔をした小平だったが、案の定特に変わったことはなかったらしい。そしてこちらにフッてきた。僕は自分が思ったより魔法のことを伝えたくてたまらなかったことに気づいて顔が熱くなるのを感じた。小平の目が一瞬見開かれる。なんだか余計に恥ずかしくなった。
「ええと、その……魔法を教えてもらって、覚えたぐらいかな」
「魔法?」
「は?」
「まままままままままま魔法ですとっっ!?」
そのまま流してほしいと思ってさらりと言ったのに、小平、ロンゲ、前髪長男が反応してしまった。僕は思わず助けを求めるようにゆかりさんを見た。
ゆかりさんは大丈夫ですよというようににっこりと笑んだ。情けなくてごめんなさい。僕は心の中で頭を下げた。
「はい。旦那さま……斉藤さまが魔法を覚えたいとおっしゃられたので簡単な魔法を継承しました。他にも使いたい魔法がございましたら遠慮なくおっしゃってください」
「うん、ありがとう」
「魔法とか……本当に?」
小平が信じられないという顔で口を開いた。
「はい。ただ使えるかどうかは体内の魔素の量や継承できるかどうかにかかってきますので、誰でも使えるとは限りませんが」
「そうなんですね」
小平は少し困ったような顔をした。
「マジで? なんつーかマンガの中の世界みたいじゃね?」
ロンゲは信じられないという顔をして首を振る。
「ま、魔法……魔素だって? もしやこれはきっとゲームの中の世界? ということは……」
前髪長男のぶつぶつと言っている内容に僕は苦笑した。元の世界で魔法なんてものは本当に夢物語だから、そういう考えになってしまうことも理解できないことはない。
だけど。
「そうだ。我々異世界転移者たちはこの世界を平和にする使命があるに違いない。それならばまずは自分の能力を把握しないと……そうだこんな時は」
この世界って平和じゃないのかな。そんなに殺伐としているようには感じないけど。
前髪長男がいきなり立ち上がり、
「ステータスオープン!」
と叫んだ。
ま じ か
しかしそのまま1分経っても5分経っても何も起こりはしなかった。もちろんステータスなんてものが出るなら本人の前だけだろうしそれを今読んでいると思いたかったけれど、前髪長男はそれから微動だにしなかった。
「……えーと、金本?」
さすがに前髪長男と呼ぶわけにもいかず、どうにか思い出した苗字で呼びかけると、彼はもう一度「ステータスオープン!」と叫んだ。
いや、きっともう何も起こらないから止めた方が……。
思ったよりも長いこと前髪長男はそのままでいたが、やがて上げていた手を下ろし、
「きっと、ステータスを見る方法は他にあるんだ。そうだそうに違いない」
ぶつぶつと呟き始めた。ステータスとやらはどうやら見られなかったようである。僕はある意味ほっとした。
「キモ……マジキモい……」
「旦那さま?」
「え? な、何も言ってないですよ?」
ロンゲがどん引きしたようで小声で呟いていたが、また熟女にたしなめられたらしくキョドっていた。尻にしっかり敷かれているようで何よりである。
確かに自分の能力が可視化できる方法があれば便利だなとは思う。でもせっかく僕が叫ぶのを自重したというのに前髪長男は当り前のように唱えてしまった。聞いてた僕の方が恥ずかしくていたたまれない。
「……自分の能力を数値とかで表せたりすることはありますか?」
こっそりゆかりさんに尋ねてみたが首を傾げられてしまった。ここは前髪長男が考えているようなゲームの世界ではないことに、僕は改めて安堵したのだった。
元の世界での顔見知りは小平だけということもあってか、前髪長男とロンゲはどうでもよさそうな顔をしていた。
小平の隣には変わらずおとなしそうな顔をした女性がいた。前髪長男は周りの女性が三人になっていた。ロリが二人なのは変わらないが、もう一人は楚々とした女性である。奴はそれが当り前のように装ってはいたが、お茶を淹れてもらったり、ごはんをよそってもらったりしている時に口元が緩むのを止められないようだった。そしてロンゲはというと、熟女だけでなく、ロリまで侍らせていた。処女を抱かせてもらったのだろうか。こちらも余裕そうな顔をしていたが、やはり世話をされるのがたまらないようでところどころで顔が緩んでいた。そう考えると小平は随分淡白なのだなという印象を受けた。
僕? 別に取り繕う必要もないのでできるだけ自然体でいたつもりだ。
「二日ぐらい会わなかった気がするけど、なんか変わったことある?」
試しに聞いてみると、前髪長男がふん、と鼻から息を吐き出した。
「み、見ればわかるだろ? ぼ、僕に是非お情けをとこうして美女たちが集まって……」
「るせーぞ、コラ。女の方が多いんだからてめーみたいな奴でも需要があるだけだろ?」
「旦那さま? そんなことをおっしゃると……」
「いやいやいやいや、せりなさんこれはスキンシップだよスキンシップ!」
熟女に袖を引かれたロンゲは慌てだし、熟女に弁明を始めた。熟女の名前はせりなさんというらしい。
「変わったことか……特にないな。そういう斉藤はどうなんだ?」
少し考えるような顔をした小平だったが、案の定特に変わったことはなかったらしい。そしてこちらにフッてきた。僕は自分が思ったより魔法のことを伝えたくてたまらなかったことに気づいて顔が熱くなるのを感じた。小平の目が一瞬見開かれる。なんだか余計に恥ずかしくなった。
「ええと、その……魔法を教えてもらって、覚えたぐらいかな」
「魔法?」
「は?」
「まままままままままま魔法ですとっっ!?」
そのまま流してほしいと思ってさらりと言ったのに、小平、ロンゲ、前髪長男が反応してしまった。僕は思わず助けを求めるようにゆかりさんを見た。
ゆかりさんは大丈夫ですよというようににっこりと笑んだ。情けなくてごめんなさい。僕は心の中で頭を下げた。
「はい。旦那さま……斉藤さまが魔法を覚えたいとおっしゃられたので簡単な魔法を継承しました。他にも使いたい魔法がございましたら遠慮なくおっしゃってください」
「うん、ありがとう」
「魔法とか……本当に?」
小平が信じられないという顔で口を開いた。
「はい。ただ使えるかどうかは体内の魔素の量や継承できるかどうかにかかってきますので、誰でも使えるとは限りませんが」
「そうなんですね」
小平は少し困ったような顔をした。
「マジで? なんつーかマンガの中の世界みたいじゃね?」
ロンゲは信じられないという顔をして首を振る。
「ま、魔法……魔素だって? もしやこれはきっとゲームの中の世界? ということは……」
前髪長男のぶつぶつと言っている内容に僕は苦笑した。元の世界で魔法なんてものは本当に夢物語だから、そういう考えになってしまうことも理解できないことはない。
だけど。
「そうだ。我々異世界転移者たちはこの世界を平和にする使命があるに違いない。それならばまずは自分の能力を把握しないと……そうだこんな時は」
この世界って平和じゃないのかな。そんなに殺伐としているようには感じないけど。
前髪長男がいきなり立ち上がり、
「ステータスオープン!」
と叫んだ。
ま じ か
しかしそのまま1分経っても5分経っても何も起こりはしなかった。もちろんステータスなんてものが出るなら本人の前だけだろうしそれを今読んでいると思いたかったけれど、前髪長男はそれから微動だにしなかった。
「……えーと、金本?」
さすがに前髪長男と呼ぶわけにもいかず、どうにか思い出した苗字で呼びかけると、彼はもう一度「ステータスオープン!」と叫んだ。
いや、きっともう何も起こらないから止めた方が……。
思ったよりも長いこと前髪長男はそのままでいたが、やがて上げていた手を下ろし、
「きっと、ステータスを見る方法は他にあるんだ。そうだそうに違いない」
ぶつぶつと呟き始めた。ステータスとやらはどうやら見られなかったようである。僕はある意味ほっとした。
「キモ……マジキモい……」
「旦那さま?」
「え? な、何も言ってないですよ?」
ロンゲがどん引きしたようで小声で呟いていたが、また熟女にたしなめられたらしくキョドっていた。尻にしっかり敷かれているようで何よりである。
確かに自分の能力が可視化できる方法があれば便利だなとは思う。でもせっかく僕が叫ぶのを自重したというのに前髪長男は当り前のように唱えてしまった。聞いてた僕の方が恥ずかしくていたたまれない。
「……自分の能力を数値とかで表せたりすることはありますか?」
こっそりゆかりさんに尋ねてみたが首を傾げられてしまった。ここは前髪長男が考えているようなゲームの世界ではないことに、僕は改めて安堵したのだった。
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