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9.新しい夫たちに会いました

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 館の門が開かれ、馬車はそのまま敷地内に入った。館自体の高さはそれほどないが、重厚な建物だと思った。
 やがて馬車が停まった。

「下りるぞ」
「はい」

 偉明ウェイミンに抱き上げられたまま馬車を下りる。こんな、ずっと抱かれて移動するなんて夢みたいだと思った。偉明はトラッシュよりも大きくて、僕と並んだらまるで大人と子どものようだけどとても丁寧に扱ってくれる。

「弟たちは揃っているか?」
「はい、皆さまお揃いでいらっしゃいます。奥さまにご挨拶をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「後にせよ」
「かしこまりました」

 年かさのいった者が先導して館の中に入る。

「これは侍従長だ。一応覚えておけ」
「はい」

 それなりの身分の人だろうと思ったら侍従長だったらしい。僕が直接声をかけることはないかもしれないけど、覚えておいた方がいいだろう。入った建物は館の入口の広間のようで(いわゆるエントランスに当たる場所らしい)、その建物を過ぎて渡り廊下を進み、次の広い建物に入ると、何人かの人が待っていた。

偉明哥ウェイミングァ(偉明兄さん)、お帰りなさいませ」
「偉明哥、その方が私たちの奥さんですか?」
「偉明哥……なんとかわいい人を……」

 そこでは三人の美丈夫が一斉に偉明に声をかけた。みな偉明と同じぐらい大きい。というより、この国の人々は全体的に大きいのだ。先導してくれた侍従長も、偉明より少し背が低い程度だった。抱き上げられているからよくわからなかったけど、武官も侍従もみんな大きかったと思う。みんなが大きいからどれぐらい大きいのか見当もつかない。

「順番に言え。何を言っているのかわからぬ。我らが妻のリューイだ。リューイ、紹介しよう」
「は、はい」

 さすがに下ろしてもらえるのかと思ったけど、偉明は僕を離さなかった。僕はずっとこの腕の中にいないといけないらしい。嬉しくて頬の熱が去らなくて困ってしまう。

「リューイ、次男の明輝ミンフイだ」
「明輝と申します。リューイ、大切にします」
「は、はい……リューイです」

 明輝と名乗った人物は、偉明より頭一つ分ぐらい背が低かった。そして偉明より線が細く見えた。顔は偉明に似通ってはいるが、より繊細な印象である。パッと見では兄弟と言われても気づかないのではないかと思った。
 明輝は僕が返事をしたら、そっと手を伸ばしてきて頬に触れた。

「……リューイ、なんと愛らしい。哥、こんなにかわいいのに彼は成人されているのですか?」
「ああ、29歳だそうだ。私たちより年上だな」
「そんな……たまりませんね」

 明輝は感極まったように呟いたが、はっとしたようだった。

「大変失礼しました」

 僕は首を振った。

「こんなことをしていては挨拶だけでどれだけ時間がかかるのかわからないだろう。リューイ、明輝の右にいるのが三男の浩明ハオミンで、その右にいるのが末の清明チンミンだ。今は特に名を覚える必要はないが、そなたの夫たちだということは覚えてほしい」

「はい……」

 三男の浩明は頭半分ぐらい明輝より背が高い。如何にも色男という風情だ。僕に向けられる流し目がとても色っぽい。ちょっとどぎまぎした。
 末の清明はおそらく偉明と背は同じぐらいだろう。その体躯は偉明よりも逞しく見えた。彼らはみな拱手した。みなの衣裳も布が多い。この国の衣裳はみなこういうものであるらしかった。

「偉明様、奥さまも長旅でお疲れでしょう」

 侍従長が侍従にお茶を運ばせてやってきた。

「そうだな。茶でも飲んで落ち着こう。その後は昼食だな」
「はい、ご用意いたします」

 部屋の奥に置かれた長椅子に偉明は僕を抱いたまま腰掛けた。

「あ、あの……偉明様……」
「如何か?」
「その……僕は重くないですか?」

 僕は背は低いけど、身体を鍛えていたりしたからけっこう筋肉がついていて重いのだ。偉明はククッと喉の奥で笑った。そして僕の尻を撫でる。

「そなたは羽のように軽いぞ。抱いていなければ飛んでいってしまいそうだ。こんな華奢な腰で、私のイチモツが受け入れられるのか本当に心配になってしまうな」
「あ……」

 カーッと顔に熱が上がった。

「そういうことについてものちほど話そう。私はそなたにつらい思いをさせたいわけではない。ただ、愛し合いたいのだ」

 顔を覗き込まれて熱が去らない。

「は、はい……」
「名前を覚えるのは難しかろう。私たちのことは基本的に”旦那さま”と呼んでほしい」

 そう言われて胸がきゅーんとした。僕は夫のことを”旦那さま”と呼びたかった。”旦那さま”という言葉は僕の憧れであったのだ。

「は、はい……”旦那さま”」

 偉明は目を閉じた。

「なんと……リューイ、そなたはなんてかわいらしいのだ……!」
「あっ……」

 きつく抱きしめられて、唇が重なった。こんな、みなに見られながら口づけされるのは恥ずかしかったけど、ここにいるのはみな僕の夫たちだからかまわないのかもしれない。

「ああっ、偉明哥ずるいですっ!」
「偉明哥!」
「抜け駆けですっ!」

 外野がうるさいけれど、僕は偉明に舌を舐められてうっとりしてしまった。やっぱり僕は気が多いのかもしれない。
 トラッシュのことも、赤子のことも忘れたくて、僕は偉明の舌を舐め返したのだった。
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