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8.巨人族の国へ嫁ぎました

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「体調は如何か?」
「だ、大丈夫だと思います……」

 初めてのことだからと、移動した先で少し休ませてもらうことになった。
 偉明ウェイミンの膝に横抱きにされたまま、魔法陣があった隣の部屋の長椅子に腰掛ける。もちろん布は頭の上から被ったままだ。
 この時間、こちらの魔法陣はリン家の貸し切りだそうで、魔法陣がある部屋には魔法陣を起動させる魔法使いと兵士のような者以外はいなかった。

「偉明様、おめでとうございます」

 移動した先では林家の武官や侍従たちが待っていて、それぞれ祝いの言葉を述べた。みなとても大きくて僕は目を丸くした。

「そちらが奥さまでいらっしゃいますか」
「そうだ。妻は転移の魔法陣を使ったのは初めてらしい。しばし休ませたい」
「それは失礼いたしました」

 侍従はそう言ってお茶を淹れてくれた。
 六角形の大きなティーポットから注がれたお茶の色は薄い黄色っぽかった。

「あの……これは?」

 なんとなくだが、味がついてなさそうに見える。

「ああ、そなたの国では紅茶が主流であったか。これは緑茶と言ってあまり茶に色はつかない。だが味はある。慣れないかもしれぬが、まずは飲んでみてほしい」

 取っ手のないカップは持ちづらかった。両手でそっと持ち、コクリと飲む。なるほど私が普段飲んでいたお茶とは味がまるで違った。
 なんとも爽やかだが、しっかり味はある。不思議な味わいだった。

「……なんだかすっきりする味ですね」
「我が国のほとんどのお茶は緑茶だ。もしそなたの口に合わないようであれば紅茶を取り寄せよう。遠慮なく申せ」
「あ、はい……ありがとうございます。これ、とてもおいしいです」
「それならよかった」

 移動してからも僕は布を被ったままだった。布は透き通るように薄いから、周りは白っぽく見えるが辺りを見回すこともできる。これでは僕の顔も他の人に見えてしまうのではないかと思ったが、そうではないようだった。
 僕に向けられる偉明の笑みが眩しい。もしかしたらこれは対外的な表情かもしれないけれど、胸がまた疼いてしまった。
 僕って気が多いのかもしれないと内心落ち込んだ。
 お茶を二杯ほどいただいてからまた移動することになった。僕を横抱きにしたまま偉明は立ち上がり、そうして馬車に乗る。
 こちらの国の気候は一年中温暖な気候だとは聞いていたけれど、馬車が天井のないオープンなものだったのは驚いた。

「取れないように留めておこう」

 偉明は布を軽くボタンなどで留めてくれた。これで風が吹いても飛んではいかないだろう。

「あまり景色に変化はないかもしれないが、国を見てほしくてな。館へ入ってしまえばそれほど外出する機会もない」
「あ……ありがとうございます」

 天井がないオープンな馬車なのに偉明に横抱きにされているのが少し恥ずかしい。武官と侍従と思しき人が馬に乗って馬車の前と後ろについた。

「先触れに参ります」
「うむ」

 一部の武官と侍従が先に出発した。

「ゆっくり参るぞ」
「は、はい……」

 魔法陣がある場所から出て、少し通りを過ぎたら畑? が広がっていた。

「わぁ……」

 金色の何かの穂が揺れている。

「これは、なんの植物ですか? 小麦、でしょうか?」
「いや、これは稲という。私たちが主食としている米ができる植物だ。米は食べたことはあるか?」
「米、ですか……」

 聞いたことがあるような気がするが、どれかと問われてもわかりそうもなかった。

「ごめんなさい、わかりません」
「謝ることはない。これから知っていけばいいだけだ。そなたの国のパンという食べ物ほどではないが、小麦粉を使った料理もある。少しずつ慣れてもらえると嬉しい」
「はい……いろいろ試してみたいです」

 僕が知っている畑のような場所も見られた。馬車は畑の間の道をまっすぐに進み、それから曲がったり、丘のようなところを越えたりして、やがて大きな赤い門があるところに着いた。僕の国とは門の造りも全く違って見える。

「これはこれはご子息様、奥さまを迎えられたそうでおめでとうございます! どうぞお通りください」
「ご苦労」

 門番なのだろうか、兵士たちが道を開けた。門を通り抜けると、そこはもう市街地のようだった。二階建てぐらいの建物が道の両側に並んでいる。

「そろそろ着くぞ」
「はい……」

 建物の造りも、そこで売っている品物なども全てが珍しく見える。本当に僕は異国に嫁いできたらしい。建物自体はこげ茶色の木のようなものでできているように見えたが、飾りなどは赤がいっぱい使われているなと思った。言葉は同じなのだけど、書いてある文字は違うみたいだ。
 すごく不思議だと思った。

「文字は、違うのですね」
「そうだな。物の名前なども違うものがあったはずだ。気になるようであれば聞くといい」

 やはり使っている言葉なども一部は違うみたいだ。こちらの本なども少しは読めるといいと思う。

「ありがとうございます」

 偉明は優しい。これが社交辞令でなければいい。部屋に入った途端豹変したりしなければ、なんて失礼なことまで思ってしまう。それぐらい、僕はこの美丈夫の妻になるということが信じられなかった。
 そうしてしばらく建物が並ぶ通りを抜けると、大きな館が現れた。そこが林家の館のようだった。
 僕は無意識に唾をゴクリと飲み込む。
 そう、僕は観光に来たのではない。この家に嫁いできたのだという思いを新たにしたのだった。
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