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6.巨人族の夫の一人が迎えにきた
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巨人族の家へ僕が嫁ぐことについて、兄は最後まで難色を示したが僕の気持ちは変わらなかった。
不思議なことに、隣家からの情報は全く僕の耳には届かなかった。どうやら離婚したのは外聞が悪いという理由で、別の領地へ移動したらしい。きっとそちらでならば乳母も雇いやすいのだろう。
トラッシュと、赤子のことを思い出すだけで涙が浮かぶ。僕は情緒不安定になっているみたいだった。
赤子の為を思えば残った方がよかったかもしれない。でも初乳以外は誰があげてもいいはずだし、トラッシュとアローが愛し合う姿なんて見たくなかった。
アローは僕を何度も好きだと言っていたけどそんなことは信じられない。もし乳母として隣家に残ったりしたら、あんなのは嘘に決まっているじゃないかと嘲笑われて、地獄に突き落とされたに違いなかった。
だから僕は約束通り赤子を置いてきた。とてもひどい親だと思う。
「なのに、なんで今でも好きなんだろう……」
部屋に戻って、僕は泣いた。
隣国である巨人族の貴族の元へ嫁いで、呆れられてしまった方がいい。きっと彼らは人族の小ささがいいのだろう。小さい人族を嬲って遊びたいのかもしれない。
それならそれでいい。そんな相手であれば、僕も気にしないで死ぬことができるから。
そう思ったのだけど、隣国から迎えに来てくれた未来の夫だという林家の長男は僕の目の前でかがみ、うやうやしく僕の手を取った。
その動きはとても洗練されていたし、彼はとてもかっこよくて僕は内心呆気に取られた。
美しい黒髪は元々は長いのだろうか。結って頭の上で布の中にしまっているようである。目も黒く、見つめられるとまるで吸い込まれてしまいそうだ。
「初めまして、巨人族、林家が長男の林偉明と申します。失礼ですが、リューイ様でいらっしゃいますか?」
水晶で僕の姿は確認しているだろうが、こんなに小さいとは思っていなかったのだろう。
僕は苦笑した。
「はい、僕がリューイです」
彼はとても嬉しそうに笑んだ。
「失礼ですが、成人していらっしゃいますよね?」
「もう29歳ですよ?」
「これはなんというご無礼を」
僕は平凡顔な上に童顔だから、彼からしたら子どもみたいに見えたのかもしれなかった。
「こんなにかわいいだなんて……今宵は一晩こちらに泊めていただきますが、明日には私共の国へ移動します。よろしいですか?」
「……はい」
前半の言葉は小さい声だったけど、しっかり僕の耳に届いてしまった。頬が熱くなる。こんな平凡顔な僕がかわいく見えるなんて、夫となる人は目が悪いのかもしれないなんて思った。
今夜は別々の部屋に寝ることになったが、明日はこれを着てほしいと衣裳も持ち込まれた。
巨人族の結婚もお互いの合意があればいいというものらしく、婚姻契約の書類も持ってきてもらったのでそれを確認して僕は彼らと結婚することになった。
「兄弟ですので、顔つきなどはみな似ていると思います。好みも一緒なので、弟たちもリューイ様に会えばとても喜ぶでしょう」
「そ、そうだったらいいのですが……」
思っていたのと違ったら気の毒だしと思ってしまう。
「あ、あと……様は付けないでください。その……僕が偉明様方の、妻になるわけですし……」
自分で妻と言って照れた。本当にこんな素敵な方の妻になるだなんて、実感がわかない。
偉明と並んだら、本当に大人と子どものようだった。偉明の腰より少し高い位置にかろうじて僕の頭のてっぺんが届くという身長差である。しかも衣裳は僕たちが着ているものとは全然違い、布が多そうなものだった。綺麗な刺繍を施されたその豪奢な衣裳を着た姿は圧巻であった。
それと同じような衣装を僕も着ることになるらしい。
偉明はやはり髪が長いみたいだ。基本的には切らず、その髪は頭の上の方でまとめて布に包むのが習わしらしい。
僕の髪は肩にもつかない程度だけど、結婚したら伸ばしてほしいと言われた。それぐらいはかまわなかった。
「明日からは自分の足で歩かないようにしてください。私共の国では、妻は夫に抱かれて移動するものですから」
「そ、そうなのですか……わかりました」
抱き上げられて移動するなんて、そんなことを前夫であるトラッシュにはされたことがなかったから戸惑う。(アローには抱き上げられたりしたが、それはカウントしたくなかった)
「抱き上げてもよろしいですか?」
「は、はい……」
立ったまま膝裏を掬い上げられて、丁寧に抱き上げられた。視界がいきなり高くなってびっくりする。それと同時に、偉明の顔も近くなって頬が熱くなった。
本当に、素敵な顔をしているのだ。黒髪黒目で、逞しくて端正で……トラッシュとは全く違ったタイプの美形である。
僕はこんなに気が多かっただろうかと、情けなくなった。
「リューイ」
至近距離で名を呼ばれて、胸が疼いた。
「よかった」
「?」
ほっとしたように言われて、なんのことだろうと思う。
「リューイにこの顔を気に入ってもらえてよかったです」
「え……あ……」
確かに偉明の顔はかっこよくてとても素敵だ。でも見惚れていたなんて知られるのは恥ずかしかった。
「お互いのことを知らないのですから、まずは顔からでもいいではありませんか。リューイが嫁いできてから、私たちのことを知ってくれればいいのです。お嫌ですか?」
「い、いいえ、いいえ……」
「リューイは真面目な方のようだ。……早く貴方を連れ帰りたい……」
そう、少し上擦った声で言われて背筋がぞくぞくした。声までいいなんて、反則だと思う。
できるだけ早くトラッシュのことは忘れたい。
偉明には悪いと思ったけど、早く連れて帰ってほしいと切実に思った。
不思議なことに、隣家からの情報は全く僕の耳には届かなかった。どうやら離婚したのは外聞が悪いという理由で、別の領地へ移動したらしい。きっとそちらでならば乳母も雇いやすいのだろう。
トラッシュと、赤子のことを思い出すだけで涙が浮かぶ。僕は情緒不安定になっているみたいだった。
赤子の為を思えば残った方がよかったかもしれない。でも初乳以外は誰があげてもいいはずだし、トラッシュとアローが愛し合う姿なんて見たくなかった。
アローは僕を何度も好きだと言っていたけどそんなことは信じられない。もし乳母として隣家に残ったりしたら、あんなのは嘘に決まっているじゃないかと嘲笑われて、地獄に突き落とされたに違いなかった。
だから僕は約束通り赤子を置いてきた。とてもひどい親だと思う。
「なのに、なんで今でも好きなんだろう……」
部屋に戻って、僕は泣いた。
隣国である巨人族の貴族の元へ嫁いで、呆れられてしまった方がいい。きっと彼らは人族の小ささがいいのだろう。小さい人族を嬲って遊びたいのかもしれない。
それならそれでいい。そんな相手であれば、僕も気にしないで死ぬことができるから。
そう思ったのだけど、隣国から迎えに来てくれた未来の夫だという林家の長男は僕の目の前でかがみ、うやうやしく僕の手を取った。
その動きはとても洗練されていたし、彼はとてもかっこよくて僕は内心呆気に取られた。
美しい黒髪は元々は長いのだろうか。結って頭の上で布の中にしまっているようである。目も黒く、見つめられるとまるで吸い込まれてしまいそうだ。
「初めまして、巨人族、林家が長男の林偉明と申します。失礼ですが、リューイ様でいらっしゃいますか?」
水晶で僕の姿は確認しているだろうが、こんなに小さいとは思っていなかったのだろう。
僕は苦笑した。
「はい、僕がリューイです」
彼はとても嬉しそうに笑んだ。
「失礼ですが、成人していらっしゃいますよね?」
「もう29歳ですよ?」
「これはなんというご無礼を」
僕は平凡顔な上に童顔だから、彼からしたら子どもみたいに見えたのかもしれなかった。
「こんなにかわいいだなんて……今宵は一晩こちらに泊めていただきますが、明日には私共の国へ移動します。よろしいですか?」
「……はい」
前半の言葉は小さい声だったけど、しっかり僕の耳に届いてしまった。頬が熱くなる。こんな平凡顔な僕がかわいく見えるなんて、夫となる人は目が悪いのかもしれないなんて思った。
今夜は別々の部屋に寝ることになったが、明日はこれを着てほしいと衣裳も持ち込まれた。
巨人族の結婚もお互いの合意があればいいというものらしく、婚姻契約の書類も持ってきてもらったのでそれを確認して僕は彼らと結婚することになった。
「兄弟ですので、顔つきなどはみな似ていると思います。好みも一緒なので、弟たちもリューイ様に会えばとても喜ぶでしょう」
「そ、そうだったらいいのですが……」
思っていたのと違ったら気の毒だしと思ってしまう。
「あ、あと……様は付けないでください。その……僕が偉明様方の、妻になるわけですし……」
自分で妻と言って照れた。本当にこんな素敵な方の妻になるだなんて、実感がわかない。
偉明と並んだら、本当に大人と子どものようだった。偉明の腰より少し高い位置にかろうじて僕の頭のてっぺんが届くという身長差である。しかも衣裳は僕たちが着ているものとは全然違い、布が多そうなものだった。綺麗な刺繍を施されたその豪奢な衣裳を着た姿は圧巻であった。
それと同じような衣装を僕も着ることになるらしい。
偉明はやはり髪が長いみたいだ。基本的には切らず、その髪は頭の上の方でまとめて布に包むのが習わしらしい。
僕の髪は肩にもつかない程度だけど、結婚したら伸ばしてほしいと言われた。それぐらいはかまわなかった。
「明日からは自分の足で歩かないようにしてください。私共の国では、妻は夫に抱かれて移動するものですから」
「そ、そうなのですか……わかりました」
抱き上げられて移動するなんて、そんなことを前夫であるトラッシュにはされたことがなかったから戸惑う。(アローには抱き上げられたりしたが、それはカウントしたくなかった)
「抱き上げてもよろしいですか?」
「は、はい……」
立ったまま膝裏を掬い上げられて、丁寧に抱き上げられた。視界がいきなり高くなってびっくりする。それと同時に、偉明の顔も近くなって頬が熱くなった。
本当に、素敵な顔をしているのだ。黒髪黒目で、逞しくて端正で……トラッシュとは全く違ったタイプの美形である。
僕はこんなに気が多かっただろうかと、情けなくなった。
「リューイ」
至近距離で名を呼ばれて、胸が疼いた。
「よかった」
「?」
ほっとしたように言われて、なんのことだろうと思う。
「リューイにこの顔を気に入ってもらえてよかったです」
「え……あ……」
確かに偉明の顔はかっこよくてとても素敵だ。でも見惚れていたなんて知られるのは恥ずかしかった。
「お互いのことを知らないのですから、まずは顔からでもいいではありませんか。リューイが嫁いできてから、私たちのことを知ってくれればいいのです。お嫌ですか?」
「い、いいえ、いいえ……」
「リューイは真面目な方のようだ。……早く貴方を連れ帰りたい……」
そう、少し上擦った声で言われて背筋がぞくぞくした。声までいいなんて、反則だと思う。
できるだけ早くトラッシュのことは忘れたい。
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