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4.巨人族の国の貴族から縁談が持ち込まれる
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離縁されて実家へ帰ると、兄が困ったような顔をして迎えてくれた。
「お帰り、リューイ。しばらく休め」
兄は僕が長年トラッシュに恋をしていることを知っていたから優しかった。でも兄にも家族がいる。いつまでも実家にいるわけにはいかなかった。
30歳になったら死のうと思った。でも死ぬのは、できればここではない方がいい。
「困ったなぁ……」
どこかで働くとしても、途中で死んだりしたら迷惑だろう。いっそのこと隣国へ旅行するフリをしてこっそりどこかで死んでしまおうかなどと考えた。できるだけ人には迷惑をかけたくなかった。
離婚されて二月が過ぎた頃、父が僕に縁談を持ってきた。
どうやら父の上司が、僕が離婚したことを聞きつけていろいろ声をかけたりしてくれていたらしい。ありがたいのかそうでないのかわからない話である。
下手なところに嫁げば迷惑しかかからないだろう。とはいえ、僕を娶ろうとする相手がいるなんて意外だったから興味は湧いた。
「……この縁談は巨人族の国からだ」
「ええっ?」
さすがに驚いた。
巨人族の国とは隣国である。なのでこの国でも巨人族の人を見かけるのは珍しいことではなかった。
「父様、巨人族の国からの縁談だなんて……リューイを殺す気ですか!?」
珍しく、穏やかな兄が厳しい声を発した。僕は背が低いし、身体もそれなりに鍛えているとはいえけっして体格もいいとは言えないからだろう。
「……リューイには断る権利はある。だが、向こうはその……人族の経産夫を求めているようでな。もしかしたら乳母代わりとしてリューイを娶りたいのかもしれん」
父は困ったような顔をしていた。
上司から持ち込まれたと言っていた。もしかしたら断れない縁談なのかもしれなかった。
「……僕の容姿などはその、巨人族の方は知っているのですか?」
父はため息をついた。
「その、だな……実は見合い用に持っていた水晶があって、それを上司に持って行かれてしまってな……」
その水晶は、離婚して出戻ってから撮られたものだろう。水晶には何かの姿をそのまま写すことができるのだ。うちは裕福だから、絵姿ではなく水晶を使ったのだろう。その方がありのままの姿を見られるということで、見合い用には人気だと聞いたことがあった。
その水晶をわざわざ父の上司が持って行ってしまうなんてと、僕は呆れた。
父は離れた土地の領地経営をしているのと同時に、国に文官として務めている。現在領地経営は主に兄が行っているから、父は国との関係の方が深いらしい。私はそっとため息をついた。
「ということは、相手方は私の容姿を知っているのですね? 私の背の高さなども……」
「そのようだ」
「その縁談は、私の合意さえ取れればすぐに嫁ぐというものなのでしょうか。それともこちらに要望があれば聞いていただけるのでしょうか?」
「……お前から何か要望があればできる限り添うようにするとは言われている」
「そう、ですか……」
巨人族を見たことはあるが、習慣もなにも知らない国である。なのでまずそれについては教えてもらうことにした。
夫となるのは貴族の四兄弟だと知り、私は耳を疑った。兄も仰天した。
「四人ですって!? 父様、さすがに断りましょう。本当にリューイが殺されてしまいます……」
「うむ……だがなぁ」
兄の言うことはもっともだったが、父は珍しく渋った。
「だが、なんなのです?」
兄はいらいらしたように聞いた。
「どうも先方は変わったご兄弟らしくてな。妻にするなら人族がいいと言ってきかないそうなのだ。経産夫であれば普通の人族よりはその、だな……」
「確かに弟は経産夫ですがしかし……」
父は私のことを心配しているのだろう。離婚されてから二か月が経つが、隣家の話などは入ってこない。意図的に僕には知らされていないのだろうとは思うが、きっともうトラッシュはアローを娶ったのではないだろうか。
「条件を……出していただきたいです」
「条件?」
「僕は経産夫ではありますが、この先子が成せる保証はありません。もしそうであっても離婚はしないということが条件であれば嫁ぎます」
「お、おおそうか……では早めに伝えることにしよう」
父はあからさまにほっとしたが、兄は難色を示した。
「リューイ、お前はそれでいいのか?」
「……今更、守る貞操などもありませんし。望んでいただけるところに嫁ぐのが一番かと思います」
「そうか……」
兄は悲痛そうな顔をしたが、もう何も言わなかった。心配をかけて申し訳ないとしみじみ思った。
翌日、父は先方が私の条件を飲むそうだと教えてくれた。
「ただな、先方からも条件を出された」
「なんでしょう?」
「その……な……この紙に書いてあるからそれを了承できるならば、とのことだ」
「はい」
父からメモのようなものを受け取った。それには、
「子どもができなくてもかまわない。何があっても離婚はしない。ただし、我らが君を抱く際決して拒んではいけない。この条件でかまわなければ結婚してほしい」
その後は結婚するにあたって、我が家に金銭の援助が必要ならできるだけするということなどさまざまなことが書かれていた。父は上司から持ち込まれた縁談だということの他に、金銭の援助も期待したに違いなかった。
けれどそこまでして私と結婚したいなんて奇特な方々だと思った。
巨人族が結婚相手だというのは不安だが、きっとすぐに私などには失望して愛想をつかしてくれるに違いない。申し訳ないが、30歳の誕生日までの間世話になろうと思う。
「わかりました。隣国の、そちらの家に嫁ぎたいと思います」
私は父にそう返事をした。
「お帰り、リューイ。しばらく休め」
兄は僕が長年トラッシュに恋をしていることを知っていたから優しかった。でも兄にも家族がいる。いつまでも実家にいるわけにはいかなかった。
30歳になったら死のうと思った。でも死ぬのは、できればここではない方がいい。
「困ったなぁ……」
どこかで働くとしても、途中で死んだりしたら迷惑だろう。いっそのこと隣国へ旅行するフリをしてこっそりどこかで死んでしまおうかなどと考えた。できるだけ人には迷惑をかけたくなかった。
離婚されて二月が過ぎた頃、父が僕に縁談を持ってきた。
どうやら父の上司が、僕が離婚したことを聞きつけていろいろ声をかけたりしてくれていたらしい。ありがたいのかそうでないのかわからない話である。
下手なところに嫁げば迷惑しかかからないだろう。とはいえ、僕を娶ろうとする相手がいるなんて意外だったから興味は湧いた。
「……この縁談は巨人族の国からだ」
「ええっ?」
さすがに驚いた。
巨人族の国とは隣国である。なのでこの国でも巨人族の人を見かけるのは珍しいことではなかった。
「父様、巨人族の国からの縁談だなんて……リューイを殺す気ですか!?」
珍しく、穏やかな兄が厳しい声を発した。僕は背が低いし、身体もそれなりに鍛えているとはいえけっして体格もいいとは言えないからだろう。
「……リューイには断る権利はある。だが、向こうはその……人族の経産夫を求めているようでな。もしかしたら乳母代わりとしてリューイを娶りたいのかもしれん」
父は困ったような顔をしていた。
上司から持ち込まれたと言っていた。もしかしたら断れない縁談なのかもしれなかった。
「……僕の容姿などはその、巨人族の方は知っているのですか?」
父はため息をついた。
「その、だな……実は見合い用に持っていた水晶があって、それを上司に持って行かれてしまってな……」
その水晶は、離婚して出戻ってから撮られたものだろう。水晶には何かの姿をそのまま写すことができるのだ。うちは裕福だから、絵姿ではなく水晶を使ったのだろう。その方がありのままの姿を見られるということで、見合い用には人気だと聞いたことがあった。
その水晶をわざわざ父の上司が持って行ってしまうなんてと、僕は呆れた。
父は離れた土地の領地経営をしているのと同時に、国に文官として務めている。現在領地経営は主に兄が行っているから、父は国との関係の方が深いらしい。私はそっとため息をついた。
「ということは、相手方は私の容姿を知っているのですね? 私の背の高さなども……」
「そのようだ」
「その縁談は、私の合意さえ取れればすぐに嫁ぐというものなのでしょうか。それともこちらに要望があれば聞いていただけるのでしょうか?」
「……お前から何か要望があればできる限り添うようにするとは言われている」
「そう、ですか……」
巨人族を見たことはあるが、習慣もなにも知らない国である。なのでまずそれについては教えてもらうことにした。
夫となるのは貴族の四兄弟だと知り、私は耳を疑った。兄も仰天した。
「四人ですって!? 父様、さすがに断りましょう。本当にリューイが殺されてしまいます……」
「うむ……だがなぁ」
兄の言うことはもっともだったが、父は珍しく渋った。
「だが、なんなのです?」
兄はいらいらしたように聞いた。
「どうも先方は変わったご兄弟らしくてな。妻にするなら人族がいいと言ってきかないそうなのだ。経産夫であれば普通の人族よりはその、だな……」
「確かに弟は経産夫ですがしかし……」
父は私のことを心配しているのだろう。離婚されてから二か月が経つが、隣家の話などは入ってこない。意図的に僕には知らされていないのだろうとは思うが、きっともうトラッシュはアローを娶ったのではないだろうか。
「条件を……出していただきたいです」
「条件?」
「僕は経産夫ではありますが、この先子が成せる保証はありません。もしそうであっても離婚はしないということが条件であれば嫁ぎます」
「お、おおそうか……では早めに伝えることにしよう」
父はあからさまにほっとしたが、兄は難色を示した。
「リューイ、お前はそれでいいのか?」
「……今更、守る貞操などもありませんし。望んでいただけるところに嫁ぐのが一番かと思います」
「そうか……」
兄は悲痛そうな顔をしたが、もう何も言わなかった。心配をかけて申し訳ないとしみじみ思った。
翌日、父は先方が私の条件を飲むそうだと教えてくれた。
「ただな、先方からも条件を出された」
「なんでしょう?」
「その……な……この紙に書いてあるからそれを了承できるならば、とのことだ」
「はい」
父からメモのようなものを受け取った。それには、
「子どもができなくてもかまわない。何があっても離婚はしない。ただし、我らが君を抱く際決して拒んではいけない。この条件でかまわなければ結婚してほしい」
その後は結婚するにあたって、我が家に金銭の援助が必要ならできるだけするということなどさまざまなことが書かれていた。父は上司から持ち込まれた縁談だということの他に、金銭の援助も期待したに違いなかった。
けれどそこまでして私と結婚したいなんて奇特な方々だと思った。
巨人族が結婚相手だというのは不安だが、きっとすぐに私などには失望して愛想をつかしてくれるに違いない。申し訳ないが、30歳の誕生日までの間世話になろうと思う。
「わかりました。隣国の、そちらの家に嫁ぎたいと思います」
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