52 / 64
第四章 聖女編
49 無職がバレました
しおりを挟む
アリスをベッドに寝かせると、魔女は目を見開き、少し時間が欲しいと言った。
その琥珀色の目は何か心当たりがあるようだった。
任せられると思った僕はアリスを預け、応接間に戻ることにする。
魔女としても見られながら作業するのは気が散るだろう。
人に見られたくないスキルとかあるだろうし。
「アレク様」
魔女に呼び止められる。
「妹様を鑑定してもよろしいですか?」
「え?」
魔女には職業を鑑定できる魔道具がある。それを使いたいということだろうか。
でも、なぜ?
アリスは十二歳。職業は授かっていない。
「……わかりました。アリスのこと、よろしくお願いします」
魔女にも考えがあるのだろう。
そう思うことにして、僕は部屋を出た。
応接間に戻ると、商人のおじさんがいた。カレンと楽しそうに談笑している。仕事はいいのだろうか。
「そりゃ本当なのか、カレン嬢ちゃん!? 英雄の兄ちゃんが料理人って……信じられん」
「本当よ。アレクがそう言ったの。それに料理スキルを使っていたわ」
「うーむ」
腕を組み唸り声をあげる商人。
どうやら話題は僕の職業らしい。なぜそうなったのか。僕は冷や汗だらだらだ。カレンはおろか、商人にも無職であることは伝えていない。
「あ、アレクいいところに来たわ。ちょうど、あなたの話をしていたのよ」
扉前にいる僕に気づいたカレンが言った。
「英雄の兄ちゃん、料理人なんだって!? 恐ろしく強い料理人がいたもんだ!」
商人が鼻息荒く詰め寄ってくる。興奮しているようだ。
「疑っているわけじゃないんだけどな、料理人、なんだよな?」
商人の目は少し怖かった。見定められている、そんな感じがしたからだ。
はい。
肯定するのは容易い。
嘘をつけばいいだけだ。
でも、それでいいのだろうか。
僕は満足か。
思えば、この街に来てから一度も無職であることを明かしていない。
アーノルド戦では、アーノルドが周囲に言いふらすように明かしたが、商人のおじさんもそうだし周囲にいた人達も信じていない様子だった。
まあ無職と聞いても大半の人は理解できないだろうし。
それに犯罪者の言葉だったのも大きいだろう。
カレンに聞かれた時も、後々問い詰められるのが面倒くさいからという理由で有耶無耶にした。
結果、料理人ってことになったけど。
だから。
商人に対しても同じようにするのか?
アリスを助けるために尽力してくれた方に対して?
それは正しい行いだろうか?
否。
断じて違う。
そもそもの話、僕はなぜ無職であることを隠したいのだろう。いや、隠してきたのだろう。
職業を聞かれる機会がなかった、というのはある。
フリーユの街に入るには職業の鑑定が必須だ。しかし僕は騎士を倒した貢献で特別に免除された。怪しい者を街に入れないための鑑定だから、僕は大丈夫だと判断されたのだろう。
でもカレンの時は?
確かに問い詰められるのは面倒だ。
どうして無職なのかとか、無職なのになんでスキルを持っているんだとか根掘り葉掘り聞かれたのは間違いない。
とはいえ、それだけだ。
命を取られるわけでも、偉い人に告げ口されるわけでもない。
じゃあなぜ?
簡単だ。
僕は怖かったのだ。
馬鹿にされるのは気にしない。無職となった以上仕方ないことだ。
僕が怖かったのは、僕が無職だと知って人が離れていくこと。僕の周りから人がいなくなることだったのだ。
「兄ちゃん、震えているけど大丈夫か? そこまで言いたくないなら無理しなくてもいいんだけどよ」
「アレク?」
二人から心配げな視線を感じる。
僕はそんなに怯えているのだろうか。
ただ無職だと伝えるだけじゃないか。
それに怯えるってことは、二人を信じていないってことじゃないのか。
僕の職業を知れば二人が離れると思っているのか?
職業で人を判断する二人だと思っているのか?
それこそ二人に失礼だろう!
決心した。
無職、と伝えよう。
「カレン」
商人に明かす前にまず謝る人がいる。
「僕が料理人ってのは嘘なんだ。ごめん」
深々と頭を下げる。仲間を騙していたから。
「え……だってスキルを使っていたじゃない」
彼女が言っているのは皮剥き勝負のことだ。このままじゃ負けると思った僕は大人気なく料理スキルを使ったのだ。
「うん。確かに僕は料理スキルも持っている」
「それなら」
「でも、違う」
「え? え?」
カレンが混乱するのもわかる。
料理スキルを持つのは、料理人だからだ。
一般常識で照らし合わせるなら。
「これは見てもらった方が早いと思う」
僕が商人に頼む前に、おじさんは棚から石板を持ち出した。
あれは……鑑定の魔道具か。
話が早くて助かる。
しかし前見た時と形が微妙に異なるような。
「最近家内が作った試作品なんだが、従来の職業だけを鑑定するのではなく、名前や性別、スキルまでも鑑定できる完全鑑定魔道具だ。使うならこっちの方がいいと思ってな」
単に無職であることを示すよりスキルも見せた方が信じやすいか。
商人ナイスアシストだ。
それにしても完全鑑定魔道具か。いよいよ鑑定スキルが不要になってくるなあ。
僕は商人の説明通り、石板に手を当てる。
鑑定結果が出るまで少し時間がかかるらしいので、じっと待つ。
その間カレンは恐ろしく静かだった。
「英雄の兄ちゃん、もういいぞ」
手を離す。
商人は石板の上に羊皮紙を置いた。
すると石板が光り羊皮紙に文字を刻んでいく。
石板に記録されたデータを転写しているらしい。
光が収まると、商人は紙を取り外した。
鑑定結果が出たようだ。
紙を捲れば僕のステータスが表記されているのだろう。
「いいんだな?」
裏返しで紙を卓上に置いた商人が最終確認で聞いてくる。
表にすれば後戻りはできない。
それでも僕は頷いた。
「捲るぞ」
商人のおじさんが手をかけた。ゆっくりと裏返す。
カレンは瞬きもしない勢いで紙を凝視している。
そして。
ついに。
【成人の儀】以来となる僕のステータスが明かされた。
_______________________
名前 アレク
性別 男
年齢 15
職業
スキル
ナイフ Lv.60
投擲 Lv.44
追跡 Lv.58
料理 Lv.30
医術 Lv.15
乗馬 Lv.12
瞑想 Lv.21
耐性
恐怖 痛覚
ユニークスキル
限界突破
_______________________
「「は?」」
二人の間抜けな声が重なった。
その時だ。
「きゃああああああああああああああああ!?」
隣の小部屋から魔女の悲鳴があがったのだった。
その琥珀色の目は何か心当たりがあるようだった。
任せられると思った僕はアリスを預け、応接間に戻ることにする。
魔女としても見られながら作業するのは気が散るだろう。
人に見られたくないスキルとかあるだろうし。
「アレク様」
魔女に呼び止められる。
「妹様を鑑定してもよろしいですか?」
「え?」
魔女には職業を鑑定できる魔道具がある。それを使いたいということだろうか。
でも、なぜ?
アリスは十二歳。職業は授かっていない。
「……わかりました。アリスのこと、よろしくお願いします」
魔女にも考えがあるのだろう。
そう思うことにして、僕は部屋を出た。
応接間に戻ると、商人のおじさんがいた。カレンと楽しそうに談笑している。仕事はいいのだろうか。
「そりゃ本当なのか、カレン嬢ちゃん!? 英雄の兄ちゃんが料理人って……信じられん」
「本当よ。アレクがそう言ったの。それに料理スキルを使っていたわ」
「うーむ」
腕を組み唸り声をあげる商人。
どうやら話題は僕の職業らしい。なぜそうなったのか。僕は冷や汗だらだらだ。カレンはおろか、商人にも無職であることは伝えていない。
「あ、アレクいいところに来たわ。ちょうど、あなたの話をしていたのよ」
扉前にいる僕に気づいたカレンが言った。
「英雄の兄ちゃん、料理人なんだって!? 恐ろしく強い料理人がいたもんだ!」
商人が鼻息荒く詰め寄ってくる。興奮しているようだ。
「疑っているわけじゃないんだけどな、料理人、なんだよな?」
商人の目は少し怖かった。見定められている、そんな感じがしたからだ。
はい。
肯定するのは容易い。
嘘をつけばいいだけだ。
でも、それでいいのだろうか。
僕は満足か。
思えば、この街に来てから一度も無職であることを明かしていない。
アーノルド戦では、アーノルドが周囲に言いふらすように明かしたが、商人のおじさんもそうだし周囲にいた人達も信じていない様子だった。
まあ無職と聞いても大半の人は理解できないだろうし。
それに犯罪者の言葉だったのも大きいだろう。
カレンに聞かれた時も、後々問い詰められるのが面倒くさいからという理由で有耶無耶にした。
結果、料理人ってことになったけど。
だから。
商人に対しても同じようにするのか?
アリスを助けるために尽力してくれた方に対して?
それは正しい行いだろうか?
否。
断じて違う。
そもそもの話、僕はなぜ無職であることを隠したいのだろう。いや、隠してきたのだろう。
職業を聞かれる機会がなかった、というのはある。
フリーユの街に入るには職業の鑑定が必須だ。しかし僕は騎士を倒した貢献で特別に免除された。怪しい者を街に入れないための鑑定だから、僕は大丈夫だと判断されたのだろう。
でもカレンの時は?
確かに問い詰められるのは面倒だ。
どうして無職なのかとか、無職なのになんでスキルを持っているんだとか根掘り葉掘り聞かれたのは間違いない。
とはいえ、それだけだ。
命を取られるわけでも、偉い人に告げ口されるわけでもない。
じゃあなぜ?
簡単だ。
僕は怖かったのだ。
馬鹿にされるのは気にしない。無職となった以上仕方ないことだ。
僕が怖かったのは、僕が無職だと知って人が離れていくこと。僕の周りから人がいなくなることだったのだ。
「兄ちゃん、震えているけど大丈夫か? そこまで言いたくないなら無理しなくてもいいんだけどよ」
「アレク?」
二人から心配げな視線を感じる。
僕はそんなに怯えているのだろうか。
ただ無職だと伝えるだけじゃないか。
それに怯えるってことは、二人を信じていないってことじゃないのか。
僕の職業を知れば二人が離れると思っているのか?
職業で人を判断する二人だと思っているのか?
それこそ二人に失礼だろう!
決心した。
無職、と伝えよう。
「カレン」
商人に明かす前にまず謝る人がいる。
「僕が料理人ってのは嘘なんだ。ごめん」
深々と頭を下げる。仲間を騙していたから。
「え……だってスキルを使っていたじゃない」
彼女が言っているのは皮剥き勝負のことだ。このままじゃ負けると思った僕は大人気なく料理スキルを使ったのだ。
「うん。確かに僕は料理スキルも持っている」
「それなら」
「でも、違う」
「え? え?」
カレンが混乱するのもわかる。
料理スキルを持つのは、料理人だからだ。
一般常識で照らし合わせるなら。
「これは見てもらった方が早いと思う」
僕が商人に頼む前に、おじさんは棚から石板を持ち出した。
あれは……鑑定の魔道具か。
話が早くて助かる。
しかし前見た時と形が微妙に異なるような。
「最近家内が作った試作品なんだが、従来の職業だけを鑑定するのではなく、名前や性別、スキルまでも鑑定できる完全鑑定魔道具だ。使うならこっちの方がいいと思ってな」
単に無職であることを示すよりスキルも見せた方が信じやすいか。
商人ナイスアシストだ。
それにしても完全鑑定魔道具か。いよいよ鑑定スキルが不要になってくるなあ。
僕は商人の説明通り、石板に手を当てる。
鑑定結果が出るまで少し時間がかかるらしいので、じっと待つ。
その間カレンは恐ろしく静かだった。
「英雄の兄ちゃん、もういいぞ」
手を離す。
商人は石板の上に羊皮紙を置いた。
すると石板が光り羊皮紙に文字を刻んでいく。
石板に記録されたデータを転写しているらしい。
光が収まると、商人は紙を取り外した。
鑑定結果が出たようだ。
紙を捲れば僕のステータスが表記されているのだろう。
「いいんだな?」
裏返しで紙を卓上に置いた商人が最終確認で聞いてくる。
表にすれば後戻りはできない。
それでも僕は頷いた。
「捲るぞ」
商人のおじさんが手をかけた。ゆっくりと裏返す。
カレンは瞬きもしない勢いで紙を凝視している。
そして。
ついに。
【成人の儀】以来となる僕のステータスが明かされた。
_______________________
名前 アレク
性別 男
年齢 15
職業
スキル
ナイフ Lv.60
投擲 Lv.44
追跡 Lv.58
料理 Lv.30
医術 Lv.15
乗馬 Lv.12
瞑想 Lv.21
耐性
恐怖 痛覚
ユニークスキル
限界突破
_______________________
「「は?」」
二人の間抜けな声が重なった。
その時だ。
「きゃああああああああああああああああ!?」
隣の小部屋から魔女の悲鳴があがったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
112
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる