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6.5章【未熟な悪魔は支えるだけです(カワイ視点)】
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しおりを挟むフローリングに、押し倒された。ヒトがボクに、覆いかぶさっている。
「ごめんっ、カワイ! 怪我はないっ?」
「え、っと。……う、ん。悪魔はこの程度じゃ、ケガしない」
「それなら良かった。じゃあ、スマホは回収するね」
「あっ。……う、うん」
どうしよう、近い。ヒトが近くて、言葉が出てこない。あっさりとスマホを回収されていることに気付けないくらい、ボクはドキドキしてしまった。
どうしよう、どうしよう。だってこの距離感だと、どっちかがちょっと顔を動かしたら、キスできちゃいそう。
近くて、ヒトの体温が伝わってきて。だけどこのままじゃ、ボクがドキドキしているってバレちゃうから……。ボクは必死に、言葉を絞り出した。
「──ヒトのえっち」
──あっ、なんか違う。たぶんこれ、間違えた。気付いたところで、手遅れだけど。
上手に取り繕うこともできず、だから当然、撤回もできない。ボクは顔を熱くさせながら、ひたすらに戸惑う。
すると、ヒトが突然真顔になった。そして、とても真剣な声で「カワイ……」って、ボクを呼んだ。
ど、どうしよう。だって、ゼロタローが見てる。せめて、ヒトに『スリーブモード』って言ってもらわないと、見られちゃう。ボクはそう訴えようとして、口を開く。
だけど、ボクよりも先にヒトが喋った。
「今の、もう一回言って」
「えっ? ……ヒトのえっち?」
「次は、恥じらいバージョンで、もう一回」
「えっ。……もうっ、ヒトのえっち……っ」
「今度は強めに」
「え、っと……。……ヒトのえっち!」
「──ふふふっ」
「──どうして満足そうなの?」
ヒト、ご満悦。なにかにすごく納得して、ヒトはボクから降りた。
……えっ、終わり? ヒト、なにもしないの? それならゼロタローに見られなくて安心だけど、でもっ、えぇ……?
「ありがとう、すごくすごかったよ」
そんな事後みたいな感想を言われても、ボクにはよく分からないよ。
……まぁ、いいや。ボクは起き上がって、身なりを整える。
「はぁ~っ、メチャメチャにキュンとした。マジでキュン、すごくキュン、猛烈にキュン。……『キュン』と言えば、親指と人差し指をクロスさせてハートに見立てるやつ。俺さ、あれが全然ハートに見えないんだよね。ただの、指と指」
「──もしかしてヒト、疲れてる?」
「──せめて『集中力が切れている』って言ってほしいかなぁ」
どうやらヒトは疲れて──……もとい、集中が完全に切れているみたい。
なら、話題に乗っかってもいいかな。ボクは自分の指を見た。
「指を、クロス……?」
親指と、人差し指。クロスさせて、記号のハートマークに見えるようにする。つまり……。言葉の情報だけで指をクロスさせて、合っているかどうかの確認をヒトにする。
「こう?」
──刹那。ヒトが、バタッと倒れた。ご丁寧に、目を閉じて。
なにが起こったのか分からないボクは、慌てふためく。急いで上を見て、ゼロタローに助けを求めた。
「どうしよう、ゼロタロー。ヒトが、すごく安らかな顔をして目を閉じちゃった」
[大丈夫です。いつものことですから]
ゼロタローはスパッとヒトを見放す。これ、いつものことなのかな。ボクよりもヒトと付き合いの長いゼロタローが言うなら、そうなのかも?
ヒトは目を閉じたまま「これが、スーパーカワイタイムってやつか……」って言っているけど。……なんだろう、それ。分かるのは、ただひとつ。
ヒト、幸せそう。だから、このままでもいいのかな。ボクはソファからクッションをひとつ取って、ヒトの頭の下に敷いた。
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