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6.5章【未熟な悪魔は支えるだけです(カワイ視点)】
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しおりを挟むクッションに頭を乗せたまま、ヒトはカッと目を開く。……良かった、生きてた。
「いやでも、正直メチャメチャ困った。ヤッパリ、家だと寛ぎたくなる。一回集中力が切れちゃうと仕事モードに復帰できない」
目を開くや否や、ヒトはそう言う。なぜか自信満々に、堂々と。
「カワイと遊びたい。ゼロ太郎と遊びたい。結論、仕事しないで家族と遊びたい。どうでしょうか、お二人共」
「『どうでしょうか』って言われても……」
ボクの答えは『嬉しい』一択。ボクも、ヒトとゼロタローと遊びたい。
でも、ゼロタローは[いけません。それは、いけません]と言って、心を鬼にしている。ホントはゼロタローだって遊びたいはずなのに。
となれば、ボクのすべきことはひとつ。ヒトのやる気を上げてあげるだけ。ボクはヒトのそばに座って、仕事終わりのご褒美を提案してみた。
「じゃあ、仕事が終わったらボクのツノを触らせてあげる。なんちゃって。これはご褒美にならな──」
「──夕食までには終わらせる」
ご褒美にならないよね? ……って、言いたかったのに。
目にも留まらぬ速さでヒトは起き上がって、クッションをソファに戻した。それからヒトは、ボクを振り返ることなく自室へと直行。
なんとなく心配になって、ボクはヒトを追いかける。できるだけ音を立てないようにコソッと、ヒトを観察した。
ヒトはすっかり集中力を取り戻したみたいで、バリバリの仕事モード。これにはボクだけではなく、さすがのゼロタローも言葉が出てこなかった。
すっ、すごくすごい……。ボクもキーボード入力は速くなったって自負していたけど、ヒトの方がすごくすごい、速い。
[カワイ君、今の内ですよ]
「あっ、うん。そうだね、今の内に、さっき決めた献立を──」
[──今の内に【小一時間はツノを弄り倒される覚悟】を決めておいてください]
「──その覚悟はちょっと怖い」
教訓。相手が大好きなヒトでも、滅多なことを口にしちゃいけない。キッチンに向かいながら、ボクはトボトボと歩き始めた。……きっと、尻尾を垂れ下げながら。
* * *
晩ご飯は、野菜たっぷりのスープカレー。それと、ラッシーって名前の飲み物を用意した。
ヒトは「おぉっ、ラッシー! 名前だけは聞いたことがある料理だ!」と言って、大喜び。ボクたちは、のんびりとした食事時間を過ごした。
さて、と。ヒトの仕事も落ち着いたみたいだから、後はゆったりと──。
「──さぁっ、カワイ! お待ちかねのおさわりタイムだよっ! 俺の膝の間においで~っ!」
うぅっ、逃げられなかった。ボクはいつも以上に表情を強張らせている自覚をしながら、ソファに座って楽しそうにボクを待つヒトに近付く。
尻尾を触られることに比べたら、全然いいけど。ツノを触られてもなんともないから、いいけども。なんだか、複雑な心境。
と言うか、ヒトは数日前までボクに触るのを躊躇するくらいボクを意識していたはずなのに……。
「ツルツルしてるけど、しっかり硬くて……癒しとは違うんだけど、すごくクセになる手触り……」
全くそんな素振りを見せずに触ってくるのは、いったいどういう心境の変化なのだろう。
なんだか、意識をしているのはボクだけみたい。たぶんそれが悔しいから、今のボクは【複雑な心境】なんだと思う。
さわさわ、撫で撫で。ヒトはただ、ひたすらに楽しそう。それでいて嬉しそうに、ボクのツノを触っている。
……まぁ、でも。ヒトが嬉しいなら、なんでもいいかな。
「はぁ~っ、満足っ! 続きはシャワーの後にしようかなぁ~っ!」
ゼロタローの予言通り、ボクのツノを小一時間ほど触った後。ヒトは心から至福そうな様子でそう言い、ボクのツノから手を離した。
……うん。ヒト、嬉しそう。だったら、このご褒美を提案して良かったかも。
だけど……。
「──ダメ。ツノを撫で繰り回していいのは、一ヶ月に一回だけ」
「──あっ、はい。貴重な時間をありがとう存じます」
ヤッパリちょっと、複雑。ボクは思わず、そんなイジワルを言ってしまった。
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