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6.5章【未熟な悪魔は支えるだけです(カワイ視点)】
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しおりを挟むデザートを食べ終えてからもボクは家事をして、ヒトは部屋に籠って仕事を続けた。
だけど、陽が傾いた頃。ヒトが突然、ひょっこりとキッチンに姿を現した。
「ヒト、どうしたの。仕事、終わった?」
[お疲れ様です、主様]
今は、眼鏡をしていない。と言うことはパソコン作業──仕事が終わったってことかな。ボクはゼロタローとの夕食についての打ち合わせを中断して、ヒトを振り返った。
ボクとゼロタローの声に苦笑しながら、ヒトはボクに近寄る。
「いやぁ~、ご期待に沿えず申し訳ないんだけど、ちょっとした息抜きだよ。カワイとゼロ太郎がいつもしてくれている家事で、俺にもなにか手伝えることはあるかなぁ~って」
「ううん、いい。ヒトは休んでいて」
[主様がおらずとも、作業はつつがなく進行いたします]
「むしろ、ヒトがいると作業が乱れる」
[私とカワイ君が築き上げたペースと言うものがありますので]
「──うんうん、取り付く島もないね」
ヒトはチラチラとボクたちを見ているけど、ボクたちはウソも遠慮も言っていない。だから、ボクは力強く頷いて見せた。
ボクたちの態度を受けて、理解してくれたらしい。ヒトはほっぺを掻いて、それから……。
「あっ、はい。では、お言葉に甘えます……」
「うん、甘えて」
[お任せを]
背中を丸めて、キッチンから去っていった。
……今の言い方はちょっと、冷たかったかな。ゼロタローと献立の打ち合わせを再開しつつ、ボクはさっきの態度を反省する。
ヒトは善意で言ってくれたのに、素っ気なかったかもしれない。だから、ヒトに謝ろう。打ち合わせを終えてから、ボクはヒトを探すためにキッチンから移動した。
すると意外なことに、ヒトは作業に戻ったわけではなく、リビングのソファに座っていたらしい。そこで、背を丸めている。
ヤッパリ、落ち込ませちゃったのかな。ボクは恐る恐る、ヒトに近付いた。
「ヒト、さっきは──」
「──うわァッ! カッ、カワイッ?」
てっきり、落ち込んでいるから俯いているのかと思ったけど……どうやら、違ったみたい。ヒトの手には、スマホが握られていたのだから。
「今、ボクからスマホを隠した」
スマホで、なにかを見ていた。ボクは眉を寄せて、ヒトに詰め寄る。
「見た?」
「見てない」
「……見たい?」
「うん」
「じゃあ、特別に見せちゃおうかな~」
あれ、意外とあっさり。ヒトはボクを手招きして、隣に座るように促した。すぐにボクは回り込んで、ソファに座る。
隣に座ると、ヒトはニコニコ笑顔でスマホを見せてくれた。そこに表示されていたのは……。
「これって、ネコ?」
「そう、猫だよ」
ネコだ。体毛が銀色っぽい、ネコ。ネコの写真が、ズラリ。……ボクが人間界に初めて来た時の姿に似ているネコが、画面にはいっぱい表示されていた。
なんで、沢山の種類がある中でこの色のネコなんだろう。ボクは顔を上げて、ヒトを見た。
すぐにヒトは、ボクの無言の問いに答えてくれる。
「毛が白って言うか、銀っぽい猫を見るとね……なんだろう。ソワッとするような。そんな、ちょっと不思議な気持ちになるんだ」
「ヒト、それって……」
もしかして、ボクのことを覚えて……? 思わずそう考えて、ボクはすぐに否定した。
ううん、そんなはずない。あんな一瞬の出来事、あの頃のヒトが覚えているはずがないよ。あの頃の、限界でいっぱいいっぱいだったヒトが覚えているはず、ない。
でも、もしかすると……。考えてから、ボクはハッとした。
「──でも他のネコを見たことに変わりはない。許さない」
「──ああっ! スマホが没収されたっ!」
ヒトが浮気した事実を危うく見逃しそうになったので、急いでスマホを没収する。
ヒトの浮気相手なんて、真っ二つにされても文句は言えない。ボクはヒトのスマホを折ろうとした。
「ちょっ、待って待って! それは駄目ーッ!」
「わっ!」
だけど、その前に。……ドシン、と。
──ボクは、ヒトに押し倒された。
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