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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟むカワイと物理的に距離を取ってはいるものの、だからと言って露骨且つ全面的に避けているわけではない。
会話は今まで通り交わすし、初めと変わらない好意的な態度だって向けている。スキンシップ以外は、今まで通りの俺たちだ。……それは、今日も変わらない。
「ただいまぁ~っ」
残業をぶちかました俺は、今日の帰宅も少々遅め。玄関扉を開き、靴を脱いだ。
だが、変わらないはずの日常だというのに、違和感がある。
「……カワイ? お~い、カワイ~?」
いつもならすぐに出迎えをしてくれるカワイが、姿を現さないのだ。そう気付くと同時に、俺は……。
「……えっ。カワイっ?」
血の気が引いていくような、恐ろしい気持ちを抱いてしまった。
まさか、まさか、と。俺は最悪の想定ばかりを頭の中で描き、思わずその場で立ち尽くしてしまいそうになる。
俺がカワイと距離を取ったばかりに、まさかカワイは──。
[──カワイ君でしたら、寝室で寝ていますよ]
「──早く言ってよもうっ!」
俺は『ガンッ!』と音が鳴るほど素早く、その場に膝をついた。
なっ、なんだっ。てっきり、出て行ってしまったのかとばかり……。俺は何度も深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
それにしても、珍しい。カワイがこんな時間に寝ているなんて、初めてだ。俺は驚きつつも、ゆっくりと寝室へ向かう。
念のために言っておくが、違うぞ。これはカワイの寝顔を盗み見することが目的なのではなく、普段から部屋着を寝室に片付けているからであって、断じて違うのだ。
誰に対する弁明か定かではない中、それでも俺はこの弁明を体現する。下心が一切無いと証明するために、俺は寝室へ入ってからベッドに目を向けず、まるで避けるかのように背を向けた。
……が、ここでひとつの問題が発生。
「んッ? あれっ、ゼロ太郎? 俺の部屋着が一着もないんだけど?」
[ベッドの上をご覧ください]
「え? ベッドの上?」
なんでベッドの上? もしかして、部屋が乾燥していたから湿気を作るために洗濯したとか? いやでも、それにしたってどうしてベッドの上に?
早く、真実を確かめよう。俺は申し訳ない気持ちを抱きつつ、そろりとベッドへ目を向けた。
そこで、俺が目にした光景は……。
「ん、ぅ……」
カワイがいる。当然、眠りながら。
ベッドの上で、カワイは瞳を閉じて……。俺はそこで、衝撃的な事実を発見した。
「こっ、これは……ッ!」
──カワイが【俺の部屋着をこんもりと抱き抱えながら】眠っているだとッ!
ズギャーンッ! 大いなる衝撃だ。その場でよろめいてしまうほど、強烈な光景じゃないか。カワイの寝顔が可愛すぎるというのは当然ながら、それ以上に俺は戸惑ってしまう。なぜなら、なぜなら……!
──俺の部屋着を抱いて眠っているなんて、いっそ『暴力的だ』と言っても過言ではない可愛さじゃないか! 抱き締めたくなってしまうッ、強く強くッ!
俺は己に襲い掛かる強烈で猛烈な煩悩を必死に抑え込むように、その場で蹲る。それと同時に、俺はすぐにハッと気付いた。『この空間に長居してはいけない』と。
このままでは、折角カワイの安全を保障するためにスキンシップを堪えてきた意味がなくなる。俺はカワイから抜き取れそうな部屋着をササッと手にし、急いで寝室から立ち去った。
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