未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
164 / 322
6章【未熟な社畜は悩みました】

26

しおりを挟む



 カワイと物理的に距離を取ってはいるものの、だからと言って露骨且つ全面的に避けているわけではない。

 会話は今まで通り交わすし、初めと変わらない好意的な態度だって向けている。スキンシップ以外は、今まで通りの俺たちだ。……それは、今日も変わらない。


「ただいまぁ~っ」


 残業をぶちかました俺は、今日の帰宅も少々遅め。玄関扉を開き、靴を脱いだ。
 だが、変わらないはずの日常だというのに、違和感がある。


「……カワイ? お~い、カワイ~?」


 いつもならすぐに出迎えをしてくれるカワイが、姿を現さないのだ。そう気付くと同時に、俺は……。


「……えっ。カワイっ?」


 血の気が引いていくような、恐ろしい気持ちを抱いてしまった。

 まさか、まさか、と。俺は最悪の想定ばかりを頭の中で描き、思わずその場で立ち尽くしてしまいそうになる。

 俺がカワイと距離を取ったばかりに、まさかカワイは──。


[──カワイ君でしたら、寝室で寝ていますよ]
「──早く言ってよもうっ!」


 俺は『ガンッ!』と音が鳴るほど素早く、その場に膝をついた。

 なっ、なんだっ。てっきり、出て行ってしまったのかとばかり……。俺は何度も深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。

 それにしても、珍しい。カワイがこんな時間に寝ているなんて、初めてだ。俺は驚きつつも、ゆっくりと寝室へ向かう。

 念のために言っておくが、違うぞ。これはカワイの寝顔を盗み見することが目的なのではなく、普段から部屋着を寝室に片付けているからであって、断じて違うのだ。

 誰に対する弁明か定かではない中、それでも俺はこの弁明を体現する。下心が一切無いと証明するために、俺は寝室へ入ってからベッドに目を向けず、まるで避けるかのように背を向けた。

 ……が、ここでひとつの問題が発生。


「んッ? あれっ、ゼロ太郎? 俺の部屋着が一着もないんだけど?」
[ベッドの上をご覧ください]
「え? ベッドの上?」


 なんでベッドの上? もしかして、部屋が乾燥していたから湿気を作るために洗濯したとか? いやでも、それにしたってどうしてベッドの上に?

 早く、真実を確かめよう。俺は申し訳ない気持ちを抱きつつ、そろりとベッドへ目を向けた。

 そこで、俺が目にした光景は……。


「ん、ぅ……」


 カワイがいる。当然、眠りながら。
 ベッドの上で、カワイは瞳を閉じて……。俺はそこで、衝撃的な事実を発見した。


「こっ、これは……ッ!」


 ──カワイが【俺の部屋着をこんもりと抱き抱えながら】眠っているだとッ!

 ズギャーンッ! 大いなる衝撃だ。その場でよろめいてしまうほど、強烈な光景じゃないか。カワイの寝顔が可愛すぎるというのは当然ながら、それ以上に俺は戸惑ってしまう。なぜなら、なぜなら……!

 ──俺の部屋着を抱いて眠っているなんて、いっそ『暴力的だ』と言っても過言ではない可愛さじゃないか! 抱き締めたくなってしまうッ、強く強くッ!

 俺は己に襲い掛かる強烈で猛烈な煩悩を必死に抑え込むように、その場で蹲る。それと同時に、俺はすぐにハッと気付いた。『この空間に長居してはいけない』と。

 このままでは、折角カワイの安全を保障するためにスキンシップを堪えてきた意味がなくなる。俺はカワイから抜き取れそうな部屋着をササッと手にし、急いで寝室から立ち去った。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【本編完結】君の紡ぐ言葉が聴きたい

月内結芽斗
BL
宮本奏は自分に自信がない。人前に出ると赤くなったり、吃音がひどくなってしまう。そんな奏はクラスメイトの宮瀬颯人に憧れを抱いていた。文武両道で顔もいい宮瀬は学校の人気者で、奏が自分を保つために考えた「人間平等説」に当てはまらないすごい人。人格者の宮瀬は、奏なんかにも構ってくれる優しい人だ。そんなふうに思っていた奏だったが、宮瀬は宮瀬で、奏のことが気になっていた。席が前後の二人は知らず知らずにお互いの想いを募らせていって……。/BL。ピュアな感じを目指して描いています。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

猫カフェの溺愛契約〜獣人の甘い約束〜

なの
BL
人見知りの悠月――ゆづきにとって、叔父が営む保護猫カフェ「ニャンコの隠れ家」だけが心の居場所だった。 そんな悠月には昔から猫の言葉がわかる――という特殊な能力があった。 しかし経営難で閉店の危機に……
愛する猫たちとの別れが迫る中、運命を変える男が現れた。 猫のような美しい瞳を持つ謎の客・玲音――れお。 
彼が差し出したのは「店を救う代わりに、お前と契約したい」という甘い誘惑。 契約のはずが、いつしか年の差を超えた溺愛に包まれて――
甘々すぎる生活に、だんだんと心が溶けていく悠月。 だけど玲音には秘密があった。
満月の夜に現れる獣の姿。猫たちだけが知る彼の正体、そして命をかけた契約の真実 「君を守るためなら、俺は何でもする」 これは愛なのか契約だけなのか……
すべてを賭けた禁断の恋の行方は? 猫たちが見守る小さなカフェで紡がれる、奇跡のハッピーエンド。

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

処理中です...