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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む細かい部分を割愛すると、俺が今のマンションに引っ越す前のこと。
自分で言うのもどうかと思うけど、今だから言える。あの頃の俺は、ちょっと危なかった。
仕事に熱中していないとどうにかなりそうで、それなのに自分の体は蔑ろ。不健康街道まっしぐらだったのだ。
そんな俺を見かねたのが、草原君だった。それは【同じ悪魔】って部分が大半の理由を占めていたのだろうけど、実際のところ草原君の本意は分からない。聞いたことがないからだ。
ただ草原君は、俺を心配してくれた。そして、生活のサポートをしてくれるハイテクで不思議なマンションを勧めてくれたのだ。
それが、俺とゼロ太郎が出会えたきっかけ。つまり、草原君は俺とゼロ太郎にとって仲人と言っても過言では──。
[──その形容は誤解が生じるのでおやめください]
「──すぐそばに草原君がいるのに黙っていられないほど嫌なんだね……」
ゼロ太郎がスッパリとツッコミを入れるので、この話はここまでにしよう。
なんて思っていると、草原君が心なしか目を丸くした。どうやら、ゼロ太郎の発声に驚いたらしい。
だけど、さすが草原君だ。すぐに理解並びに順応をしたらしく、草原君は背筋をさらに正した。
「今のお声は……ゼロ太郎様でございますね? こんにちは、三日月草原でございます」
[はい、存じております。いつも主様がご迷惑をおかけしているようで]
「いえいえ。こちらこそ、いつも追着様にはお世話になってございます」
[いえいえ、そのようなことは。こちらこそ、本当に主様がお世話になっておりまして]
「悪魔と人工知能が社交辞令を言い合っている……」
なんだろう、おかしいな。【社交辞令】って、人間が人間界で巧く立ち回るための手法だと思っていたのだけれど……。
まぁ、いいか。俺は苦笑しつつ、草原君を見上げた。
「ところで、どうしたの? 草原君がこっちの事務所に来るなんて珍しいね?」
実は、草原君は俺や月君とは別の部署で勤務をしている。なのであまり、こっちの事務所で見かけることがないのだ。
おっと。『ならばなぜ、引っ越すように進言するほど草原君が俺のことを気にかけていたのか』と言いたいのだろう? 答えは簡単だよ。単純に、その頃の俺は草原君が今いる部署に所属していただけだからね。
誰への説明か分からないことをつらつら~っと心の中で連ねていると、草原君の尻尾がへにょりと垂れた。
「竹力様がいらっしゃるのなら一緒に昼食を、と思ったのでございますが……。どうやら、ご不在のようでございますね」
「今日は月君、お休みなんだよね」
「なるほど、そうでございましたか。勤怠管理システムで確認するべきでございましたね」
「あー、うん。なんだろうこの、頭からツノが生えて後ろに尻尾がある子の口にする『勤怠管理システム』の違和感は……」
種族差別のつもりは一切ないけど、草原君は纏うオーラが独特だから余計に違和感がある。それだけ人間界に馴染んでいるってことなんだろうけどさ。
草原君からすると、俺のぼやきなんてどこ吹く風。気持ちはずっと『月君との昼食』に向かっていた。
「でしたら、仕方がないでございますね」
「あぁ、うん。残念だろうけど、日を改めてもらっても──」
「──家までお誘いに行く所存でございます」
「──想いが重いよ、草原君」
ちょっと前に月君は草原君の話を速攻で終わらせたけど、あれ? あんな態度を取ってはいたけど、実は仲良しなのかな? 後輩二人の関係性に疑問符を浮かべつつ、俺はまたもや苦笑してしまった。
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