141 / 322
6章【未熟な社畜は悩みました】
3
しおりを挟む一緒にコーヒーを飲みながらまったりしつつ、俺と月君は会話を続ける。
「それにしても、なにかあったんスか? ここ最近、センパイの様子がちょっと変な気がしますけど」
「うっ、ヤッパリ? ごめんね、迷惑かけちゃって……」
作業をする手は動かしながら、可能な限り周りの迷惑とならない声量で。俺たちは仕事を進めつつ、会話をする。
「なんて言うのかなぁ。今まで抱いたことのないタイプの悩み? みたいなものを抱えちゃってさ。頭の中がそれでいっぱいになっちゃってるんだよね」
「もしかして、この前言ってた体型に対する悩みですか?」
「あっ、違う、違います。違うので、嬉々とした目をこちらに向けないでください」
「チッ。バレたッスか」
隣を見なくても分かるよ。月君、今絶対に『筋トレ仲間を増やすチャンス!』とか思ったでしょう? そういうタイプの悩みじゃないのでどうか、デスクに置いたプロテインを差し出そうとするのはやめてください。
しかし、かと言って『恋愛絡みの悩みだよっ。しかも、相手は月君も知っているカワイなんだよねっ』とは、言えない。言えないよ。
だって月君、カワイを即決で保護した俺のことを『ヤバい奴』って言ってたよね? そんな相手に、カワイへの好意がバレてみろ。
たぶん、こうなる!
『センパイ、ヤッパリ淫行目的でお持ち帰りしたんスね……。幻滅ッス。席替え希望ッス、オレが憧れたセンパイは死んだッス』
見える、見えるぞ! ドン引きされた挙句、今まで向けてくれていた好意的且つ憧憬の念が一瞬にして霧散する未来が!
だから、月君には言えない。いや、いつか打ち明けたいとは思うけど! でも、だからと言ってそれは今ではない!
「──ごめんね、月君。いつか必ず来る決別の時だとしても、それを今日にはしたくないんだ……!」
「──そんなデカい悩みなんスか!」
月君がショックを受けているけど、どうか許してほしい。弱気な俺をどうか、許して!
苦渋の決断をしたと言いたげな俺を見て、月君は思うことがあるらしい。隣で「ハッ!」と言った後、月君は椅子を滑らせて俺に近付いたのだから。
「もしかして、アレッスか。……寿退社、ッスか?」
「月君って、定期的に俺を寿退社させようとするよね」
中らずと雖も遠からず、と言うか。まぁ、悩みの路線は寄ってきたね。
だけど、俺は曖昧な笑みを浮かべるしかできない。それが逆に、月君の勘違いを煽る反応だとも気付かずに。
「えっ、えっ、誰っ、誰ッスか? 同じ部署……いや、もしかして他部署? 今年入った子ですか? それとも、意外と取引先──」
「──俺にとってのベストオブ可愛いはぶっちぎりでカワイなんだけど、そんな俺が相手だと分かってもまだその方向で話、続ける?」
「──やめておきまーす」
解釈違い、断固拒否。俺の全て、カワイに捧げています。
例え空想だとしても、駄目だよ。俺がカワイ以外の誰かとキャッキャウフフしている図なんて、想像しちゃいけない。俺は真顔で、月君に対して首を横に振ってみせた。
月君は俺に対する解釈が鮮明なのか、俺の言いたいことを理解してくれたらしい。もう一度椅子を滑らせ、今度は自分のデスクに戻ったのだから。
多少暴走させてしまったものの、よく考えなくたってこれは全部俺を心配してのこと。俺は離れた月君を見て、笑みを浮かべる。
「でも、心配してくれてありがとう。今はまだ自分でも持て余しちゃっているんだけど、これがもう少し自分の中で落ち着いたら、月君に話してもいいかな?」
「っ! モチロンッスよっ! オレの全身全霊にかけて、センパイをお助けします!」
じぃ~んっ。なんていい子なのだろう。俺は思わず、月君の頭をなでくりっとした。
23
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました
陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。
しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。
それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。
ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。
小説家になろうにも掲載中です。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる