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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む一緒にコーヒーを飲みながらまったりしつつ、俺と月君は会話を続ける。
「それにしても、なにかあったんスか? ここ最近、センパイの様子がちょっと変な気がしますけど」
「うっ、ヤッパリ? ごめんね、迷惑かけちゃって……」
作業をする手は動かしながら、可能な限り周りの迷惑とならない声量で。俺たちは仕事を進めつつ、会話をする。
「なんて言うのかなぁ。今まで抱いたことのないタイプの悩み? みたいなものを抱えちゃってさ。頭の中がそれでいっぱいになっちゃってるんだよね」
「もしかして、この前言ってた体型に対する悩みですか?」
「あっ、違う、違います。違うので、嬉々とした目をこちらに向けないでください」
「チッ。バレたッスか」
隣を見なくても分かるよ。月君、今絶対に『筋トレ仲間を増やすチャンス!』とか思ったでしょう? そういうタイプの悩みじゃないのでどうか、デスクに置いたプロテインを差し出そうとするのはやめてください。
しかし、かと言って『恋愛絡みの悩みだよっ。しかも、相手は月君も知っているカワイなんだよねっ』とは、言えない。言えないよ。
だって月君、カワイを即決で保護した俺のことを『ヤバい奴』って言ってたよね? そんな相手に、カワイへの好意がバレてみろ。
たぶん、こうなる!
『センパイ、ヤッパリ淫行目的でお持ち帰りしたんスね……。幻滅ッス。席替え希望ッス、オレが憧れたセンパイは死んだッス』
見える、見えるぞ! ドン引きされた挙句、今まで向けてくれていた好意的且つ憧憬の念が一瞬にして霧散する未来が!
だから、月君には言えない。いや、いつか打ち明けたいとは思うけど! でも、だからと言ってそれは今ではない!
「──ごめんね、月君。いつか必ず来る決別の時だとしても、それを今日にはしたくないんだ……!」
「──そんなデカい悩みなんスか!」
月君がショックを受けているけど、どうか許してほしい。弱気な俺をどうか、許して!
苦渋の決断をしたと言いたげな俺を見て、月君は思うことがあるらしい。隣で「ハッ!」と言った後、月君は椅子を滑らせて俺に近付いたのだから。
「もしかして、アレッスか。……寿退社、ッスか?」
「月君って、定期的に俺を寿退社させようとするよね」
中らずと雖も遠からず、と言うか。まぁ、悩みの路線は寄ってきたね。
だけど、俺は曖昧な笑みを浮かべるしかできない。それが逆に、月君の勘違いを煽る反応だとも気付かずに。
「えっ、えっ、誰っ、誰ッスか? 同じ部署……いや、もしかして他部署? 今年入った子ですか? それとも、意外と取引先──」
「──俺にとってのベストオブ可愛いはぶっちぎりでカワイなんだけど、そんな俺が相手だと分かってもまだその方向で話、続ける?」
「──やめておきまーす」
解釈違い、断固拒否。俺の全て、カワイに捧げています。
例え空想だとしても、駄目だよ。俺がカワイ以外の誰かとキャッキャウフフしている図なんて、想像しちゃいけない。俺は真顔で、月君に対して首を横に振ってみせた。
月君は俺に対する解釈が鮮明なのか、俺の言いたいことを理解してくれたらしい。もう一度椅子を滑らせ、今度は自分のデスクに戻ったのだから。
多少暴走させてしまったものの、よく考えなくたってこれは全部俺を心配してのこと。俺は離れた月君を見て、笑みを浮かべる。
「でも、心配してくれてありがとう。今はまだ自分でも持て余しちゃっているんだけど、これがもう少し自分の中で落ち着いたら、月君に話してもいいかな?」
「っ! モチロンッスよっ! オレの全身全霊にかけて、センパイをお助けします!」
じぃ~んっ。なんていい子なのだろう。俺は思わず、月君の頭をなでくりっとした。
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