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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟むツキーズブートキャンプに参加させられそうになったり、寿退社の可能性を誤解されたり……。それら全てをいい感じに収束させた俺は、今日も今日とてサービス残業をしてしまっていた。
今日の残業はね、仕方ないね。俺が初恋に気を盗られすぎていたのが原因だからね、うんうん。……反省しよう。
なんて気持ちを抱えながら、帰宅。玄関扉を開くと、奥からヒョコッとカワイが姿を現してくれた。
「おかえり、ヒト」
[おかえりなさいませ、主様]
うはぁ~っ。家族の『おかえり』コール、沁みるぅ~っ。
なんかもう、全部吹っ飛ぶ。実際はなにひとつとして解決していないけど、だけど『まぁいっか』って気持ちになる。すごいなぁ、家族って。
帰宅して早々、俺はカワイの頭をポンと撫でて、思わずデレデレッとした笑みを浮かべてしまう。
「ただいま、二人共」
「うん、おかえり。……今日の帰りも一段と遅かった。ハンボーキ?」
[いえ、今日の主様は集中力が著しかったのです。つまり、自業自得ですよ]
「その通りなんだけど、自分以外に指摘されると刺さるものがあるね……」
ずっと俺の近くにいるゼロ太郎には、全て筒抜けだったらしい。いやはや、面目ない。
カワイはゼロ太郎の発言をまるっと信じたのか、相変わらずの無表情で「そうなんだ」と相槌。そのまま、俺のそばをウロウロと動いた。
「もしかして、原因は疲労?」
「ううん、そんなことないよ。心配させちゃってごめんね」
もう一度、ポンと頭を撫でる。カワイの尻尾はゆらゆらと揺れたが、顔はプイッと背けられてしまった。
「えっと。……今日のご飯はとんぺい焼きだよ」
「おぉ~っ。名前だけは聞いたことがある料理だ!」
リビングに行くまでの間に香る、香ばしい匂い。うんうん、今日の料理もいい匂いだなぁ~。
すっかりクールビズな季節となったので、緩めるネクタイは無し。俺はすぐに部屋着へ着替えようと、移動を続ける。
……が、そこでひとつの疑問。
「でも、なんで【とんぺい焼き】って言うんだろ? 語源とか名前の由来とか、カワイ知ってる? なんちゃって──」
「──豚肉を平たくして焼くから、らしいよ」
「──知ってるんだ」
さすがカワイだ。……と言うか、ゼロ太郎か?
生まれたての疑問が一瞬で昇華されたので、心置きなく着替えられる。一旦カワイと離れ、俺はちゃちゃっと着替えを始めた。
……が、そこでまたしても、ひとつの気付きが生まれる。
──メチャメチャ今さらだけど、好きな子の手料理が毎日食べられるって、かなり相当ヤバくないか? という、気付きが。
それなのに俺は、今まで浅い感謝ばかりしていた気がする。お礼を伝えて、料理と幸福を噛み締めて食べてはいたけれど……。だけど、それだけで済ませていい日々ではなかったのでは?
気付くと同時に、俺はその場に倒れ込んだ。
「うわぁあ~ッ! 俺はッ、俺はどうしてこの贅沢な幸福に今までッ、今までぇ~ッ!」
床をゴロゴロと転がり、頭を抱えて、丸まって……。後悔とも気恥ずかしさとも言えない複雑極まりない感情に支配された俺は、とにかくジタバタと暴れ始める。
そんな俺を見て、ゼロ太郎は心配でもしてくれたのだろうか。ポンと、声が響いた。
[──スーツが皺になりますので、即刻お立ち上がりください]
「──今伝えるべき言葉って絶対にそれじゃないよね!」
前言撤回。ゼロ太郎が俺を心配するはずなんかなかった。
……いや、厳密に言うと『スーツの心配』か? 出来た人工知能だ、ありがとう。
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