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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟むなんとかデッドエンドを回避した俺は、椅子に座ったまま深呼吸をした。
打撃による精神統一は断念したが、それでもどうにか気分を変えたい。そう思い、俺は鞄の中に手を突っ込む。そして、少し前にゼロ太郎が取り寄せてくれたドリップコーヒーを取り出した。
隣に座る月君には、俺のせいで迷惑をかけてしまったからね。一応、月君にも声をかけなくちゃ。……ということで、俺は月君を見た。
直後──。
「気分転換にコーヒーを淹れてくるけど、月君の分も淹れてこようか?」
「えっ! いいんですかっ?」
──パァッ! キラキラッ! 月君のシャイニングスマイルが、俺の瞳に直撃だッ!
なっ、なんて眩しさだろう。俺は思わず目を細めて、それはそれは嬉しそうに笑う月君と対面する。
「……ッ」
「センパイ? どうかしましたか?」
「あっ、いや」
笑顔のまま小首を傾げる月君に声を掛けられて、俺はハッとした。それから、慌てて月君のカップを受け取る。
月君はニコニコしたまま、俺を見上げていた。「あざますっ」と元気にお礼を言い、無垢な笑顔で……。
「──これで、弟だったらなぁ……」
「──センパイ?」
思わずこう嘆きたくなってしまうほど、月君の振る舞いは胸に来るものがあった。
……って、いやいや! 確かに俺は弟属性が大好きだけど、だからってそれを後輩に強要するのはおかしいだろ! と言うか、強要してどうにかなるものじゃないし!
なんだか、思考回路がどうかしている。自覚しながら、俺は給湯室へと移動。自分と月君、二人分のコーヒーを用意した。
「お待たせ。月君もブラックで良かったよね?」
「はいっ、大丈夫ッス! ありがとうございます!」
両手でカップを受け取った月君は、早速コーヒーを啜り始める。そしてすぐに、瞳をキラキラッと輝かせた。
「センパイが淹れてくれるコーヒーって、いつもよりおいしく感じるんですよねぇ。なんででしょうか?」
「給湯室に備え付けられているインスタントじゃなくて、ドリップコーヒーを淹れているからかな。ゼロ太郎が勧めてくれたコーヒーを持参しているんだよ」
興味があるのかと思い、俺は今しがた淹れたばかりのコーヒーのパッケージを見せる。
月君は「なるほど!」と感心した後、すぐさま首をブンブンッと横に振った。
「でもでも、おいしく感じるのはセンパイの淹れ方が巧いからですよっ!」
「えっ、そうかな。なにも特別なことはしてないんだけど?」
「つまり、無意識で発揮できちゃう才能ってことッスね! さすがセンパイですっ! 憧れるなぁ~っ」
──ニパ~ッ! またしても、月君が眩すぎる笑みを向けてきたではないか!
明るく、全力で『懐いています!』とアピールし、むしろ好意的な態度を隠したくないとでも言いたげな笑顔。これを真正面から食らったら、俺は、俺は……!
「──本当に、これで弟だったらなぁ……ッ!」
「──センパイ? どうしてそんな、苦しそうなお顔を?」
コーヒーが入ったマグカップを掴んだまま、己の性癖に素直な感想を漏らすしかなかった。
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