89 / 322
4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
14
しおりを挟む──これは、すごくすごい。これが、ヒトの料理に対する第一印象だ。
色は、黒に近い紫色。驚くべきことに、なぜか湯気にまでその色が滲んでいる。
内側からはブスッ、ブスッ、と。なにかを押し退けるかのように抜けていく空気の音が鳴っていた。
「これが、ヒトの手料理……」
ヒトが作った料理は、まるでマグマみたいにボコボコとお皿の中で煮立っている。
「これは、正しい完成形? それとも、ヒトの創作料理?」
「ちゃんとネットにレシピが投稿されているものから作ったはず、だったんだけどねぇ……」
「上級者向けの料理?」
「【初心者でも作れる】って派手な文字で銘打たれたじゃがいものスープのつもり、だったんだけどねぇ……」
どうしよう、なにも言えない。ボク、ゼロタローと一緒にそのレシピ見たことあるもん。なんなら、作ったこともある。
ヒトは苦笑いをしながら、なにかを誤魔化すかのように視線を料理から外した。
「正直、ビックリしたよ。じゃがいもって、スープにしたら溶けると思ったんだけど……」
「もしかして、この石みたいな灰色の塊って?」
ヒトは、答えない。……そっか。じゃあこの、なにかの燃えカスの塊みたいなものはジャガイモ、なんだね。
「驚きだよねぇ。レシピには目を通したし、なんなら三回読み込んだよ? それで、理解だってした。それなのに、どうしてこんな料理になっちゃったんだろうね?」
口にするべき言葉が分からないボクたちの気まずい静寂を打ち破るかのように、ゼロタローがポンと喋る。
[驚愕しているのは私の方です。私のナビゲートがありながら、なぜ調理に失敗するのですか?]
「返す言葉もございません……」
どうしよう、なにも言えない。ゼロタローに教わって初めて料理をしたけど、ボクは失敗したことないもん。そのくらいゼロタローの教え方は丁寧で分かり易いって知ってるから、余計に。
見た目は本当に、すごくすごいし、酷く酷い。でもこれは、人間が食べられるものだけで作られた料理のはず。
なら……。
「いただきます」
悪魔のボクが、食べられないはずがない。ボクはスプーンを使って、混沌を可視化したかのようなスープと言う名のなにかを、パクッと口に含んだ。
それから、しっかり食材を噛んで……。飲み込んだ後、ボクは感想を伝えた。
「スープはザラザラして、具材がゴリゴリする」
「うん、そうだね。カワイから聞こえた咀嚼音、凄まじくヤバかったよ」
「ボクはウソがヘタだから、ハッキリ言うね。これは、おいしくない」
「うん、そうだね。そう見える」
「でも、食べられるよ」
「うん、そうだ──……えっ?」
手を止めて、ボクはヒトを見上げる。
「見た目はすごくすごいし、味もすごくすごいけど、食べられる。それに、ヒトの手作りだからボクは嬉しい」
ボクがヒトを見たから、ヒトもボクを見てくれた。
ヒトが見てくれると、嬉しい。だからボクは『嬉しい』って気持ちを伝えるために、あまり得意じゃないけど笑顔を浮かべてみた。
「ありがとう、ヒト」
「カワイ……」
得意じゃない料理をしてくれて、隠さないでボクに食べさせてくれたんだもん。どんな料理でも、ボクは嬉しい。
その気持ちが、伝わったのかな。ヒトはホッと、どこか安堵したような顔をしてくれて──。
[──良い空気な中で誠に恐縮ですが、お体に良くないのは明白ですのでもうそれ以上は食べないでください]
「「──だよね」」
ゼロタローストップが入ったから、ボクはヒトが作ったすごくすごいなにかを完食できなかった。
23
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました
陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。
しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。
それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。
ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。
小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる