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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】

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 ──これは、すごくすごい。これが、ヒトの料理に対する第一印象だ。

 色は、黒に近い紫色。驚くべきことに、なぜか湯気にまでその色が滲んでいる。
 内側からはブスッ、ブスッ、と。なにかを押し退けるかのように抜けていく空気の音が鳴っていた。


「これが、ヒトの手料理……」


 ヒトが作った料理は、まるでマグマみたいにボコボコとお皿の中で煮立っている。


「これは、正しい完成形? それとも、ヒトの創作料理?」
「ちゃんとネットにレシピが投稿されているものから作ったはず、だったんだけどねぇ……」

「上級者向けの料理?」
「【初心者でも作れる】って派手な文字で銘打たれたじゃがいものスープのつもり、だったんだけどねぇ……」


 どうしよう、なにも言えない。ボク、ゼロタローと一緒にそのレシピ見たことあるもん。なんなら、作ったこともある。

 ヒトは苦笑いをしながら、なにかを誤魔化すかのように視線を料理から外した。


「正直、ビックリしたよ。じゃがいもって、スープにしたら溶けると思ったんだけど……」
「もしかして、この石みたいな灰色の塊って?」


 ヒトは、答えない。……そっか。じゃあこの、なにかの燃えカスの塊みたいなものはジャガイモ、なんだね。


「驚きだよねぇ。レシピには目を通したし、なんなら三回読み込んだよ? それで、理解だってした。それなのに、どうしてこんな料理になっちゃったんだろうね?」


 口にするべき言葉が分からないボクたちの気まずい静寂を打ち破るかのように、ゼロタローがポンと喋る。


[驚愕しているのは私の方です。私のナビゲートがありながら、なぜ調理に失敗するのですか?]
「返す言葉もございません……」


 どうしよう、なにも言えない。ゼロタローに教わって初めて料理をしたけど、ボクは失敗したことないもん。そのくらいゼロタローの教え方は丁寧で分かり易いって知ってるから、余計に。

 見た目は本当に、すごくすごいし、酷く酷い。でもこれは、人間が食べられるものだけで作られた料理のはず。

 なら……。


「いただきます」


 悪魔のボクが、食べられないはずがない。ボクはスプーンを使って、混沌を可視化したかのようなスープと言う名のなにかを、パクッと口に含んだ。

 それから、しっかり食材を噛んで……。飲み込んだ後、ボクは感想を伝えた。


「スープはザラザラして、具材がゴリゴリする」
「うん、そうだね。カワイから聞こえた咀嚼音、凄まじくヤバかったよ」
「ボクはウソがヘタだから、ハッキリ言うね。これは、おいしくない」
「うん、そうだね。そう見える」

「でも、食べられるよ」
「うん、そうだ──……えっ?」


 手を止めて、ボクはヒトを見上げる。


「見た目はすごくすごいし、味もすごくすごいけど、食べられる。それに、ヒトの手作りだからボクは嬉しい」


 ボクがヒトを見たから、ヒトもボクを見てくれた。

 ヒトが見てくれると、嬉しい。だからボクは『嬉しい』って気持ちを伝えるために、あまり得意じゃないけど笑顔を浮かべてみた。


「ありがとう、ヒト」
「カワイ……」


 得意じゃない料理をしてくれて、隠さないでボクに食べさせてくれたんだもん。どんな料理でも、ボクは嬉しい。

 その気持ちが、伝わったのかな。ヒトはホッと、どこか安堵したような顔をしてくれて──。


[──良い空気な中で誠に恐縮ですが、お体に良くないのは明白ですのでもうそれ以上は食べないでください]
「「──だよね」」


 ゼロタローストップが入ったから、ボクはヒトが作ったすごくすごいなにかを完食できなかった。




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