90 / 212
4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
15
しおりを挟むゼロタローの発言で、ヒトが作ってくれた料理は没収。ボクはちょっぴり、シュンとしちゃう。
言われるがまま、ヒトはボクの前に置いてくれたお皿を下げようとする。そこで、ボクはあることに気付いた。
「ヒトの指、傷だらけ。大丈夫?」
得意じゃなければ慣れてもいない料理で、ヒトはケガをしちゃったんだ。証拠として、ヒトの指には沢山のバンソーコーが貼ってある。
ヒトはお皿から手を離して、傷だらけの手を反対の手で触った。
「うん、大丈夫だよ。心配させちゃってごめんね?」
「とても心配。強い悪魔は内臓が潰れても数分で治るけど、人間はかすり傷を治すのにも時間がかかるよね?」
「サラッとすごい話を聞いちゃった気がするけど、でも俺、人より頑丈で丈夫だからさ。このくらいの傷、明日には治っちゃうんだよ」
「そう、なんだ?」
ヒトは優れた個体の人間、なのかな。それとも、人間にとっても【外傷】は悪魔と同じようにすぐ治るものなのかも。どちらにしても、ボクの知らなかった話だ。
「それは知らなかった。人間の再生力も侮れないね」
「あー……。……う、ん。まぁね」
あれ? 感心したつもりだったけど、嫌味に聞こえたのかな。ヒトの返事が、少し暗い。
ボクは急いで、弁明しようとした。だけどその前に、ゼロタローが[カワイ君]って、ポンとボクを呼んだ。
[主様の傷に関して負い目を感じる必要はありませんよ。全て、主様の自業自得に他なりませんから。……ですので、そちらのゴミを捨てるのなら、お早めに]
「ゼロ太郎酷い! これは俺たちの合作だよ? ゴミじゃないでしょ!」
[その料理に関与したという事実が私にとって汚名なのです、不名誉なのです。主様の汚名を私に返上しないでください]
「くっ! ウマイことを言われつつ詰られる日がくるなんてっ!」
二人共、楽しそう。ヤッパリ仲良しなんだ。
……おっと。ヒトとゼロタローの仲良しさにホッコリしてる場合じゃないよね。ボクはすぐに、バンソーコーが貼られたヒトの指を触った。
「カワイ? どうかした? ……もしかして、甘えん坊さんかな?」
「甘えるのは、後でさせて。今は、それよりも……」
すり、と。バンソーコーの下にある傷を刺激しないように気を付けながら、ヒトの指を撫でる。
「ヒトの傷がすぐに治るとしても、でも、痛いのには変わりないでしょう?」
「えっ?」
「傷があるのに、変わりないよ」
「……っ」
図星を指されたから、なのかな。ヒトは黙って、ボクを見た。
料理もそうだけど、指を見たらもっと明白。ヒトはヤッパリ、料理が得意じゃないんだ。
それなのに、作ってくれた。『名誉挽回』って言っていたけど、それでもヒトは【ボクのために】料理を作ってくれたから。
「一生懸命作ってくれて、ありがとう。このご飯は、今までで一番大事に食べるね」
[食べてはいけません、カワイ君]
いい雰囲気を作った流れでいけるかと思ったけど、ヤッパリ駄目だった。しゅんっ。
「……ありがとう、カワイ。その優しさが、とっても嬉しいよ」
でも、ヒトは笑ってくれた。だから、それでいいかも。料理を下げられて落ち込んじゃったけど、ヒトの笑顔が見られたから。だからボクは、口角を上げて頷いた。
ボクの表情筋は少し硬いから、上手に笑えていたかは分からないけど。
23
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。

最強様が溺愛したのは軟派で最弱な俺でした
7瀬
BL
『白蘭高校』
不良ばかりが集まるその高校は、学校同士の喧嘩なんて日常茶飯事。校内には『力』による絶対的な上下関係があり、弱い者は強い者に自らの意思で付き従う。
そんな喧嘩の能力だけが人を測る基準となる世界に、転校生がやってきた。緩い笑顔・緩い態度。ついでに軽い拳。白蘭高校において『底辺』でしかない筈の瑠夏は、何故か『最強』に気に入られてしまい………!?
「瑠夏、大人しくしてろ」
「嫌だ!!女の子と遊びたい!こんなむさ苦しいとこ居たくない!」
「………今千早が唐揚げ揚げてる」
「唐揚げ!?わーい!」
「「「単純………」」」」
溺愛系最強リーダー×軟派系最弱転校生の甘々(?)学園物語開幕!
※受けが割とクズな女好きです。
※不良高校の話なので、喧嘩や出血の描写があります。
※誤字脱字が多く申し訳ないです!ご指摘いただけるととても助かります!
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる