未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
57 / 322
3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】

15

しおりを挟む



 捲られたエプロンを下げさせつつ、俺はカッと上を睨みつける。


「ちょっとゼロ太郎! カワイになんてこと教えてるのさ!」
[冤罪です。通報しますよ]
「それこそ冤罪じゃないかな!」


 駄目だ、勝てない。話題を変えるという意味も込めて、俺はカワイの疑問に答えることとした。


「えっと、なんだっけ。ズボンの長さ、だっけ? もしかしてカワイ、ズボンが短くて寒い?」


 エプロンから覗く膝小僧に癒されつつ、俺は今まで失念していたことを訊ねる。
 対するカワイの返事は、サッパリしていた。


「ううん、寒くない。悪魔は脆弱な人間と違って、この程度の温度じゃ体調は左右されない。真冬に裸でも平気だよ」
「そっかそっか。だけど、服は着てね。俺、どうにかなっちゃうから」
「よく分からないけど、ヒトがそう言うなら」


 頷くカワイを見つめつつ、俺はカワイの手をギュッと握る。


「でも、ごめんね。今まで、暑さとか寒さについて考えてあげられなくて」
「ヒト……」


 んー、っと? ちょっぴり、カワイの頬が赤くなったような気がするぞ。なぜだろう?

 カワイは顔をうっすらと赤らめつつ、尻尾をブンブンと左右に振りながら、首もフルフルと左右に振った。


「い、いいの。大丈夫。ちょっと、気になっただけだから」
「本当に? 遠慮とかしてない?」
「してない、大丈夫。ホントだよ」


 キュッと俺の手を握り返して、カワイは赤い顔を上げて俺を見つめてくれる。その顔は、嘘を吐いているようではなさそうだ。

 だけど、念のため確認しないとな。俺はカワイをジッと見つめ返しながら、訊ねる。


「短パン、嫌い? 短いズボン、嫌になっちゃった?」
「そっ、そんなことない。嫌いじゃないよ、いいの。ヒトが喜んでくれるなら、服はなんでも嬉しい」
「良かった。ありがとう、カワイ」
「……っ」


 あれっ? カワイの頭から湯気が出てきたぞっ? なっ、なぜっ?

 ……なんて、俺たちが各々別の意味で慌てている中、ただ一人。


[……]


 ゼロ太郎だけは、回想していたらしい。
 遡ること、数週間前。忘れもしない、悲劇を回避したあの日のこと。


『お願いぃ~っ! デザインも素材もゼロ太郎のセンスに任せるけど、カワイの脚だけは隠さないでぇえ~っ!』

『ニーソックスとかハイソックスとかはいいけど、ズボンはっ、ズボンでカワイの脚を隠されたら俺死んじゃうぅ~っ!』


 俺が情けなくゼロ太郎に縋りつき、カワイの生足魅惑な魔ーメイドを死守した日のやり取りだ。

 ゼロ太郎は小さな声で、俺たちに聞こえないようにぼやく。


[──カワイ君が常時短パンの理由は『主様がヘンタイなだけです』と、伝えるべきか否か……]


 悩むこと、数秒。ゼロ太郎は後者を選択してくれたらしい。
 言うまでもなく、当然ながら……。


「ヒト、あの、手。まだ、ギュッてしててもいい?」
「うんっ、勿論っ。いっそのこと、このままずっとず~っと、俺と手を繋いでいよっか?」

「うん、繋いでいたい。ヒトの手、温かくてほっこりする」
「カワイのちょっぴり冷えた手も可愛くて癒しだよ~」


 お互いの手を褒め合っていた俺たちは、ゼロ太郎の思考に全く気付いていないのであった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...