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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟むゼロ太郎に出勤時間を注意されるまで手を繋ぎ合った俺たちは、各々の作業に戻る。
カワイは食器を洗い、俺は出勤準備だ。全く一切合切気乗りはしないが、俺は作業を開始した。
シャコシャコと歯を磨き、次は着替えだ。寝間着からスーツに着替えていると、頭上からポンとゼロ太郎の声が響いた。
[主様のヘンタイっぷりはどうにかならないのですか?]
「せめて話題のジャブを打ってくれないかな」
あんまりすぎる。ワイシャツのボタンを留めつつ、俺はげんなりとした。
「そもそも俺、ヘンタイじゃないし。同じ読み四文字なら【溺愛】って言ってよ。そっちの方がしっくりくる」
[人工知能相手に言葉の訂正ですか。偉くなりましたね、主様?]
「立場としては圧倒的に俺の方が偉いんだけどッ?」
ぐぅっ、勝てない。仕方ないので、今は渋々【ヘンタイ】という汚名を背負うしかないようだ。ネクタイを締めつつ、しょんぼりと落ち込む。
そんな俺に、ゼロ太郎は更なる追い打ちをかけてきた。
[主様がそんな調子を続けるのでしたら、いつかカワイ君に嫌われてしまっても自業自得ですからね]
ピタリと止まる、俺の手。
それから……。
「カワイが、俺を……嫌う、だって?」
思考と共に、ガタガタと。それはもうガッタガタと、俺の手は震え始めた。
カワイが、嫌う。俺を嫌って、嫌いに、きら……。
──バタンッ! ゼロ太郎の言葉を理解すると同時に、俺は床に倒れ込んだ。
「あっ、これは無理だぁ。もう起き上がれない。無理、無理、カワイが俺を嫌うとか、カワイに嫌われた余生とか……あはっ、あははっ」
[想像しただけで寝込まないでください]
まさか、俺の言動はカワイに嫌われる可能性を孕んでいたのか? 俺の行為はいったい【何ハラ】になるんだ?
そうか、今になってようやく理解したぞ。セクハラなりパワハラなりをする人物は自覚が無いとはよく言ったものだが、こういうことなのか。俺は床に倒れ込んだまま、そっと目を閉じた。
「ゼロ太郎、今までありがとう。大した額じゃないけど、俺の遺産はカワイと分けていいよ。それと、今まで恥ずかしくてなかなか言えなかったけど、俺と家族になってくれてありがとう。ありがとう、ゼロ太郎……」
[こんなに後味の悪い別れと死因ってあります?]
胸の上に両手を置き、そのまま組む。俺は瞳を閉じたまま、カワイの姿を思い返し──。
「ヒト、どうかしたの? 今、大きな音が聞こえたけど──……二度寝はダメだよ、起きて。スーツがシワになっちゃうし、汚れちゃう」
「あうっ」
カワイにペチッと頬を叩かれ、息を吹き返した。
洗い物をしていた手は、さっき握った時よりも冷えている。俺はむくりと起き上がり、眉を八の字にしながらカワイを見た。
「カワイ、俺のこと……嫌い?」
「ううん。好きだよ」
「──俺も大好きだよッ!」
「──むぐっ」
カワイセラピーで元気満タン! 勢いよく強い抱擁を送り、俺はカワイの質量を堪能する。
「そうだよ、カワイが俺を嫌うわけないよ! だって俺はこんなにカワイが好きなんだもん! だよねっ、カワイ!」
「んむっ、む、むぐぅ~っ」
[ヤンデレ発言は自重し、速やかにカワイ君を解放してください]
『呻くカワイも可愛いなぁ』なんて思いつつ、俺はギブアップと言いたげに俺の背を叩くカワイを惜しみつつ解放した。
後に、ゼロ太郎からは[そういうところが駄目なんです]と注意されてしまい、加えて……。
「スーツのまま寝転がるのはやめて。ヒト、今すぐ小指。指切りして、約束」
「はぁ~い……」
カワイにも、別ベクトルで怒られてしまった。朝から寿命が縮まった気がするぞ。
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