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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
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しおりを挟むだが、穏やかな暮らしを続けているからと言って、日常に変化がないというわけでもない。
カワイとゼロ太郎によってゴミ集積所と化していた場所が、部屋として再起した翌日のこと。
大いなる変化は、突然訪れた。
「──えぇッ、嘘ッ? カワイがポニーテールしてるッ!」
俺に電流奔る。ピシャンだよ、ピシャン!
寝室から出て、最初に見た光景。それは、髪を後ろでひとつに結んだカワイの姿だった。
キッチンに立つカワイは、慄く俺をクルリと振り返る。
「おはよう、ヒト。……ポニーテール? って、この髪形のこと? これ、ヒトは好きなの?」
「おはようカワイ! いやいや好きなんてものじゃないよ! 大好きだよッ!」
「そうなんだ。ありがとう」
「こちらこそありがとうございますッ!」
なんだろう。この、爆上がりする【嫁らしさ】は。
キッチンに立ち、ポニーテール姿のカワイなんて……。こんなの、俺の嫁と言っても過言ではないのでは?
[──過言ですよ、主様?]
「──心を読むのはやめて?」
ズバッとツッコミを入れてくる人工知能のせいで──もとい、おかげで。俺は、ほんのりと冷静さを取り戻す。
「なるほどねぇ。つまり君は、天使だね?」
「悪魔だよ」
駄目だ、まだ冷静さが足りないらしい。カワイの冷静さが羨ましいよ。
そうだ、食卓テーブルに座ろう。よっこいしょ、っと。……うん、いいぞ。自然な流れで、カワイの後ろ姿を眺められる絶好の位置に着いた。冷静な俺に抜かりはない。
「ところで、なんでキッチンに立ってるの? 喉でも乾いた?」
「ううん。そうじゃないよ」
ポニーテール姿のカワイを堪能しつつ、俺はあくまでもクール且つ妥当な話題を提供する。おかげで、カワイは普段通りの態度で俺と接してくれた。
カワイは俺に答えた後、不意に【ある物】を見せてくれた。
それは、俺がなにかのタイミングで貰ったタッパーだ。ちなみに、使用回数はゼロ。新品同然だ。
しかし、おかしい。一度も使ったことがないはずのタッパーの中には……。
「──ゼロタローに教わって、おにぎりって食べ物を作ってみた。今日のお昼ご飯……お弁当? に、してほしい」
チョコンと鎮座する、白黒の物体。再度、俺に電流奔る。ガシャンだ、ガシャン。
即座に俺は立ち上がり、カワイに近寄る。わなわなと震える手をなんとか動かし、カワイが差し出すタッパーを受け取るためだ。
ゼロ太郎が科学の力で映写している虚像では、ない。受け取ったタッパーの質量は、明らかに空のタッパーを上回っている。
……ということは、つまり!
「──カワイが、可愛いおててでニギニギしてくれたおむすび、だって?」
[──気持ち悪いです、主様]
あの、スベスベで可愛いおててで。指の先が人間と違って、セクシーになったあのおててで、カワイが……!
カワイが握ってくれたおむすび、とな! 朝からキャパオーバー寸前の俺は、なにがなんだか分からなくなっていた。
……さて。変化と言うものは、本当に突然訪れるもので。
「──ボク、家事スキルを鍛えようと思う」
成長と言うものも、本当に突然訪れるものらしい。タッパーの重さに感涙していた俺は混乱状態な中、日常に対して妙に感慨深くなってしまった。
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