45 / 212
3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
3
しおりを挟むタッパーの重さをしっかりと受け止めながら、俺は依然としてポニーテール姿のカワイに目を向けた。
「……家事スキル、とな?」
なんだ、それは。ゲームの話か? 俺には無縁の単語だ、ということしか分からないぞ。
ということで、こんな時はゼロ太郎だ。俺はすぐに、宙を見た。
それが合図兼ヘルプだと理解したゼロ太郎は、相変わらずの低い声をポンと響かせる。
[主様の生活能力がゴミクズ底辺なのは周知の事実です]
「いや『周知』って、それを知ってるのはゼロ太郎とカワイだけだよね?」
辛辣すぎる前置きに、俺の胸はグサリと貫かれたような痛みが奔った。
つまり、これは現実ということ。このカワイお手製お弁当はマジのマジ、大マジだということだ。
では、このまま説明を乞おう。視線を上げたまま、続くゼロ太郎の言葉を待つ。
[私は生活習慣の見直しを主様に言葉で諭すことはできますが、しかし、物理的なサポートにはどうしても限界があります]
「なんか、すみません……」
続いて、カワイが口を開いた。
「そこで名乗り出たのが、ボク。ゼロタローに教わって、ボクが家事をする。掃除とかゴミ捨てだけじゃなくて、もっともっと家庭的なことを学んで、実践する」
[ということで、手始めにそちらのお弁当を準備した次第です。ご理解いただけましたか?]
なるほど、そういうことか。ようやく、俺は事態を呑み込めた。
あのトンデモ部屋を掃除し切ったことにより、ゼロ太郎とカワイの間には強い絆のようなものが生まれたのだろう。【追着陽斗の生活能力がド底辺なので、どうにかしなくては】的な、こう、なんだ、同盟心みたいなものが。
そこで二人は、ついにワンステップ上がったのだ。俺が一度も口にしなかった【料理】というステップに。
第一歩として作られたのが、タッパーに入ったおにぎりか。なるほど、そうかそうか、納得納得……。
「待って、今ちょっと調べ物するから」
一度、タッパーを食卓テーブルの上に。俺は二人に断りを入れてから、すぐにスマホを取り出した。
カワイはなにも言わず、コクリと頷く。俺が言った『待って』を忠実にこなそうとしてくれているのだ。可愛い、堪らない、後で頭を撫でたい。
ゼロ太郎は思うことがあるのか、スマホを素早く操作する俺に疑問を投げた。
[もしや、料理のレシピですか? それは私の方で用意をしてカワイ君に指示いたしますよ?]
スマホに目を向けたまま、俺はカッと刮目する。
「──なに言ってるの! カワイが着るエプロンだよッ!」
[──そちらこそなにを言っているのですか]
分かってない、分かってないよ!
ポニーテール姿だけじゃ足りない、足りないじゃないか! 料理をする幼な妻ときたら、必須の装備品は? そう、エプロンだよ!
料理なんてしない俺の部屋に、エプロンなんてありはしない。だったら? そう、買うしかないよね!
「フリフリがいいかなぁ? それとも、ここはあえて黒とか青とかシンプルなデザインか? いやぁ~っ、迷っちゃうなぁっ!」
[……]
「カワイ、カワイ~っ! ちょっとこっち来て~っ! 一緒にエプロンを選ぼ~っ!」
「よく分からないけど、ヒトがそう言うなら」
カワイはパタパタとスリッパを鳴らしながら、俺に近寄る。
俺とカワイがエプロンを見て和気あいあいとしている中、ゼロ太郎はと言うと……。
[……。……クソが]
ご主人様に、呆れていた。それはもう、心の底から。
31
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる