43 / 212
3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】
1
しおりを挟むカワイを保護して、一ヶ月が経とうとしている。
始めはゼロ太郎や月君に『大丈夫ですか』なんて心配されていた同棲生活だったけど、そんな心配は杞憂と言えてしまうほど、俺たちの生活は順風満帆。問題の【も】の字もない、穏やかな日々を過ごしていた。
大きな変化と言えば、そうだな……。カワイと指切りをしてまで隠していたあのゴミ集積所と化した部屋が、普通の部屋になったことだね。
正直、未知の生命体が発生してもおかしくないくらいの惨状だったと思う。思い返すと、本当に酷かった。さすがのゼロ太郎とカワイでも、綺麗な部屋に戻すまで三週間ほどの期間を有するほどに。
手放していたワンルームを取り戻したその日は、パーティーだった。カワイが食べたいものを片っ端から取り寄せ、メチャクチャ食事したのだ。ファミリーサイズのアイスを一人で平らげたカワイは、本当に可愛かったなぁ。
なんて、素敵な思い出を育み始めて約一ヶ月。俺自身の変化はと言うと……。
「ただいまぁ~、ゼロ太郎~っ。ただいまぁ~、カワイ~っ」
「おかえ──わぷっ」
「俺のカワイだ~っ! 会いたかったよぉ~っ!」
「んぐっ、ん、んーっ!」
──ますます、カワイがいないと生きていけない体になっていた。
帰宅と同時にカワイをムギュッと抱き締めた俺は、肺一杯にカワイ成分を吸い込む。初めのうちはカワイも戸惑っていたが、今ではこの落ち着き──。
「んーっ、んんーっ!」
「あっ、ごめんっ! また強く抱き締めすぎちゃった!」
戸惑いどころではなく、生命の危機に瀕するほどだ。ごめんなさい、反省します。
しかし、さすが悪魔と言ったところだろう。俺をここまで魅了し、堕落させるとは……。恐るべき、悪魔。その名は伊達じゃないようだ。
[いえ、カワイ君が悪魔云々の話ではなく、主様のヘンタイショタコンレベルがグレードアップし、手の施しようがなくなっただけで──]
「──あぁーッ! 聞こえないッ、聞こえないなぁーッ!」
カワイを抱き締めたまま、俺は首をブンブンと横に振った。ゼロ太郎の正論すぎる指摘なんて、聞こえないったら聞こえないのだ。
だが、一言物申してやろう。俺は視線を、斜め上に向ける。
なんとなく、俺とカワイはゼロ太郎と会話するときは上の方を向く。いつも、ゼロ太郎の声が上から聞こえるからだ。
俺はゼロ太郎の方を向いているという気持ちで、キッと眉を吊り上げる。
「言っておくけど、俺のカワイに対する情熱に上限なんてないよ! 言うなれば、天井知らずのボルテージだよ! クラリさせたい!」
[またそんなギリギリアウトな歌詞ネタを]
さすがゼロ太郎だ。主のネタを全て熟知し、拾ってくれるとは。
カワイは少々緩まった俺の抱擁から逃げようとはせずに、すっぽりと腕に収まっている。その体勢のまま、カワイは俺を見上げた。
「言うのが遅れちゃったけど、ヒト。おかえり」
「うん、ただいまっ! ほらほら、ゼロ太郎もご主人様に言うことがあるんじゃないかい~?」
[自首しろください]
「それ、暗に『帰ってくんな』って言ってない?」
こんな感じで、俺たち三人の暮らしはなんだかんだとうまくいっている。
ゼロ太郎のサポートがあって、なにをするにも飲み込みの早いカワイがいて、俺が生きていくための資金を働いて稼ぐ。役割分担もバッチリだ。
「もう少しこのままでいたいなぁ~。カワイ、少し早いけど結婚しちゃおうか」
「会話の流れがよく分からない。でも、そうだね。結婚もよく分からないけど、ヒトがしたいならする」
[そんなに軽いノリで人生の大きなイベントをこなそうとしないでください]
ボケとツッコミも、バッチリだった。
35
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる