2 / 26
UNO
しおりを挟む
みなさまごきげんよう。 エドナーシュ6歳です。 今日はお母様がアシュレイド家へお茶会に行くと言うので同行させてもらったわ。 アシュレイド公爵家の庭園は王国内でも有数の美しさと、まだ珍しい温室がある事で知られているのよ。 前世では職業柄美容関係には気を使ってて、趣味と実益でハーブを使った化粧品や料理を嗜んでいたから、珍しいハーブがあるかも!と思ったら居てもたっていられなくて無理を言って連れて行ってもらったの。
移動中、馬車の中から見えた初めて見るその計算された造園のすごさ、美しさに本当にただただ感動して、傍から見たらぽかんと口を開けて変な顔してたと思うわ… (お母様もくすくす笑ってたしね)
「アシュレイド公爵夫人、お母様、僕はお庭を見てみたいのですがいいでしょうか?」
「あら、エドナーシュ様は庭にご興味がおありなのねぇ。ええ、もちろんよろしいですわ。」
「エド、あんまり奥には行かないでちょうだいね。あなたなら大丈夫だと思うけど…」
「大丈夫ですよ、お母様。ありがとうございます、アシュレイド公爵夫人。」
お茶会の席について早々にっこり笑ってその場を離れ、目的の温室に向かったの。広い庭園を横目に見ながら奥まった場所にある温室にたどり着き、中に入ってみたら中から何か声が聞こえた気がした。(何かしら…誰かの泣き声?)
その声のする方に近づいていくと、波打つ美しい金色の髪が蹲って、声を殺して泣いていたの。
「どうしたの?何かあったの?」
「!」
ワタシが近づいた事に気が付かなかったその子は、肩を揺らしてびっくりしたように振り向いた。
人形のように整った顔のアメジストの瞳が大きく見開かれて、その目と鼻頭が赤くなっていたわ。
―――― なんて綺麗な子なの。まるで妖精のよう。
「‥‥なんでも、ありませんわ…」
その子は気丈に立ち上がると、スカートをつまんで一礼してその場を立ち去ろうとしたから、引き留めた。
「…待って。君クッキー食べる?」 (そこ!この頃から餌付けしてるとか言わない!)
少し考えてからその子が頷いてくれたから、怖がらせないように微笑んで、ポケットから紙に包んだ物を手渡した。「どうぞ。」 そう言って近くにあったテーブルセットに座らせ、ワタシもその子の目の前に座った。
「ぼくはエドナーシュ・フォン・オルベール。 君は…?」
本当は聞かなくても分かる、アシュレイド家のワタシと同じくらいの年齢で、該当する容姿の子は一人しかいない。
「…エリザベス …エリザベス・フォン・アシュレイドですわ。エドナーシュさま」
――――― そう、これが『星君』の『悪役令嬢エリザベス』とワタシの出会いだった。
「…それで、エリザベス嬢は何があったの?」
「‥‥」
「言いたくなければ無理に言わなくてもいいよ。」
そう言って安心させるように微笑んでから、黙って彼女の近くに座っていた。
ゲーム上ではエリザベスがなぜ、高慢で意地悪な性格になったのかはあまり触れられていない。
でもワタシは彼女が泣いていたその原因こそが背景にあると直感したの。
暫らく黙った後、彼女はぽつりぽつりと語りだした。
――― どうして、おとうさまは、わたくしとお話してくださらないのかしら。
――― どうして、おかあさまは、いつも怖いお顔をしているのかしら。
――― どうして、おかあさまは、わたくしをほめてくださらないのかしら。
――― おとうさまとおかあさまは、わたくしがおきらいなのかしら…
『育児放棄』と言う言葉が頭に浮かんだ。
後から聞いた話だけど、アシュレイド公爵家は夫婦仲が悪いらしい。もちろん貴族は恋愛結婚の方が珍しく、政略的な結婚の方が一般的だ。(オルベール家は幸い家族仲が良く、お父様もお母様も未だにらぶらぶだけど)だけどこれは…
アシュレイド公爵は金髪碧眼の長身痩躯で、凛とした社交界でも有名な美丈夫だ。 そんな彼には身分違いの平民の恋人がいた。 誰からも祝福されることのない恋人同士は、両親によって引き裂かれてしまったの。その後王家のたっての希望で、現王の腹違いの妹であるマデリーン様が嫁いでこられた。 マデリーン様は若く美しい公爵を狂おしいほどに愛していたのだけど、引き裂かれた愛おしい恋人を、どうしても忘れる事ができなかったアシュレイド公爵は、マデリーン様を愛することができずにいたの。
家族を省みず、仕事と称して邸宅に寄り付かず、たまに帰っても家族と顔を合わせる事もない父親と、愛しているのに愛されない苛立ちを娘に向ける母親… そんな環境があの『悪役令嬢』を作ってしまったのね。
…だけど、まだ今なら間に合う。ワタシがきっとこの子を不幸な運命から救ってあげるわ! だってこんなに綺麗で可愛いのだもの!
そう誓って、事あるごとにかまい倒してたらえらく懐かれてしまったわ。 まあいいけど、これで悪役令嬢にはならずにすんだかしらね?
移動中、馬車の中から見えた初めて見るその計算された造園のすごさ、美しさに本当にただただ感動して、傍から見たらぽかんと口を開けて変な顔してたと思うわ… (お母様もくすくす笑ってたしね)
「アシュレイド公爵夫人、お母様、僕はお庭を見てみたいのですがいいでしょうか?」
「あら、エドナーシュ様は庭にご興味がおありなのねぇ。ええ、もちろんよろしいですわ。」
「エド、あんまり奥には行かないでちょうだいね。あなたなら大丈夫だと思うけど…」
「大丈夫ですよ、お母様。ありがとうございます、アシュレイド公爵夫人。」
お茶会の席について早々にっこり笑ってその場を離れ、目的の温室に向かったの。広い庭園を横目に見ながら奥まった場所にある温室にたどり着き、中に入ってみたら中から何か声が聞こえた気がした。(何かしら…誰かの泣き声?)
その声のする方に近づいていくと、波打つ美しい金色の髪が蹲って、声を殺して泣いていたの。
「どうしたの?何かあったの?」
「!」
ワタシが近づいた事に気が付かなかったその子は、肩を揺らしてびっくりしたように振り向いた。
人形のように整った顔のアメジストの瞳が大きく見開かれて、その目と鼻頭が赤くなっていたわ。
―――― なんて綺麗な子なの。まるで妖精のよう。
「‥‥なんでも、ありませんわ…」
その子は気丈に立ち上がると、スカートをつまんで一礼してその場を立ち去ろうとしたから、引き留めた。
「…待って。君クッキー食べる?」 (そこ!この頃から餌付けしてるとか言わない!)
少し考えてからその子が頷いてくれたから、怖がらせないように微笑んで、ポケットから紙に包んだ物を手渡した。「どうぞ。」 そう言って近くにあったテーブルセットに座らせ、ワタシもその子の目の前に座った。
「ぼくはエドナーシュ・フォン・オルベール。 君は…?」
本当は聞かなくても分かる、アシュレイド家のワタシと同じくらいの年齢で、該当する容姿の子は一人しかいない。
「…エリザベス …エリザベス・フォン・アシュレイドですわ。エドナーシュさま」
――――― そう、これが『星君』の『悪役令嬢エリザベス』とワタシの出会いだった。
「…それで、エリザベス嬢は何があったの?」
「‥‥」
「言いたくなければ無理に言わなくてもいいよ。」
そう言って安心させるように微笑んでから、黙って彼女の近くに座っていた。
ゲーム上ではエリザベスがなぜ、高慢で意地悪な性格になったのかはあまり触れられていない。
でもワタシは彼女が泣いていたその原因こそが背景にあると直感したの。
暫らく黙った後、彼女はぽつりぽつりと語りだした。
――― どうして、おとうさまは、わたくしとお話してくださらないのかしら。
――― どうして、おかあさまは、いつも怖いお顔をしているのかしら。
――― どうして、おかあさまは、わたくしをほめてくださらないのかしら。
――― おとうさまとおかあさまは、わたくしがおきらいなのかしら…
『育児放棄』と言う言葉が頭に浮かんだ。
後から聞いた話だけど、アシュレイド公爵家は夫婦仲が悪いらしい。もちろん貴族は恋愛結婚の方が珍しく、政略的な結婚の方が一般的だ。(オルベール家は幸い家族仲が良く、お父様もお母様も未だにらぶらぶだけど)だけどこれは…
アシュレイド公爵は金髪碧眼の長身痩躯で、凛とした社交界でも有名な美丈夫だ。 そんな彼には身分違いの平民の恋人がいた。 誰からも祝福されることのない恋人同士は、両親によって引き裂かれてしまったの。その後王家のたっての希望で、現王の腹違いの妹であるマデリーン様が嫁いでこられた。 マデリーン様は若く美しい公爵を狂おしいほどに愛していたのだけど、引き裂かれた愛おしい恋人を、どうしても忘れる事ができなかったアシュレイド公爵は、マデリーン様を愛することができずにいたの。
家族を省みず、仕事と称して邸宅に寄り付かず、たまに帰っても家族と顔を合わせる事もない父親と、愛しているのに愛されない苛立ちを娘に向ける母親… そんな環境があの『悪役令嬢』を作ってしまったのね。
…だけど、まだ今なら間に合う。ワタシがきっとこの子を不幸な運命から救ってあげるわ! だってこんなに綺麗で可愛いのだもの!
そう誓って、事あるごとにかまい倒してたらえらく懐かれてしまったわ。 まあいいけど、これで悪役令嬢にはならずにすんだかしらね?
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる