16 / 21
学園の沙汰は委員(おに)次第
捕らえられた桃太郎、囚われの鬼
しおりを挟む両の腕を後ろ手に回された状態で、伊織は地面に膝をつけていた。
長時間同じ体勢でいたせいか、膝に体重が乗ってひりひりと痛みだす。
無数の不良達に囲まれ、校内で好き勝手されて、伊織は悔しさで顔を歪ませて唇を噛んだ。
自分は執行委員だ。学校の風紀を守るため、真面目に学校生活を送っている生徒達を守るために、日々活動して来た。
なのに今は出来ない。守るべき学校が襲撃を受けているのに、守れないのが非常に悔しい。
見てるだけしか出来ないなら、いっそ鬼神に土下座して、どんな屈辱でも受けるから止めるようにと頼み込むか。
でもそれは、獄卒が亡者に頭を下げるようなもの。獄卒の見習いとしては、それは出来ない。
隣に立つ鬼神を、伊織は睨み上げた。
窓ガラスが割られ、埃と煙に包まれた校舎から伊織へと鬼神の視線が下りる。
「さてと、あの男は出て来ますかな? ねえ、伊織さん」
「こんな事をしたって、高貴は出てこない。だから、学校や生徒に手を出すのはやめ……っ!」
言葉の途中で首を掴まれ、持ち上げられる。
首が絞められ、息が上手く出来ない。
肺に溜まった空気が吐き出せず、胸に空気が溜まる。
唇から零れた僅かな吐息が、ひゅうひゅうと音を立てた。
「こちらは、売られた喧嘩を買っただけですよ。全てはそう、あいつが悪い」
腕を振り、伊織を地面に放り投げた。
右脇から落ちた伊織は、右腕と右足を擦りながら砂埃を上げて地面を滑り、やがて止まる。擦れた肌から血が滲み、地味な痛みが彼女を襲った。
ーー私はこんなに弱かったのか。
獄卒になる為、行き場のない伊織を救ってくれた王太子への恩の為に、体術を身に付け、いつでも王太子の手足となれるよう努力してきた。ゆくゆくは閻魔になった王太子の犬になるだろうとか言われているけど、あながち間違いではない。なのに、この様はなんだ。
腕に巻き付く縄を解こうとするも、歩み寄ってきた鬼神に腹を踏みつけられた。
「手荒な事してすみませんねえ、伊織さん。つい、カッとなっちゃって。嫌いな男の名前が出ると、いつもこうなんですよぉ」
ぐりぐりと腹を押され、伊織が苦痛で喘いだ。
「あぁ……!」
「わかりますか、伊織さん。心をぎたぎたに刻まれた男の気持ちが。聞こえますか。惨めな思いで夜道を帰る男の叫びが……!」
◇ ◇ ◇
昔々、一人の中学三年生が夏に恋をした。
喧嘩ばかりしている不良で恋など無縁だと思っていた彼に、過ぎた春が訪れたのだ。
相手は自分と同じ年の女の子。明るく元気な子で、周りからも慕われるどこにでもいる女の子。冥府と現世のはざまで生きながらも、その女の子は純粋な人間で生者で、未来の獄卒であった。
真っ当に生きる彼女を彼は想い、告白をした。
返事は、ノーだった。
それでも彼は、諦めなかった。
毎日のように挨拶をした。
彼女の前では、嫌いな勉強とも向き合った。
彼女に近付く男たちを排除し、登下校中も彼女の後を尾行しながら、男たちが来ないか見張りをした。
世間で言う、ストーカーと言う者だ。
男達を排除する中、ただ一人消しても消しても消えない男が居た。
女の子と同じ孤児院に住み、彼女の下僕を名乗る赤い髪の男子生徒。
彼は、何度でも男子生徒を消しに行った。
時には自分が束ねる不良グループを使い、時には自ら進んで奴に攻撃する。野犬に襲わせた事もある。知り合いのオネェ様に、男を落とすよう頼み込む事もあった。
が、皆ことごとく失敗に終わった。
それから時は経ち、冬。
彼のげた箱に、一枚の封筒が入っていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ペア
koikoiSS
青春
中学生の桜庭瞬(さくらばしゅん)は所属する強豪サッカー部でエースとして活躍していた。
しかし中学最後の大会で「負けたら終わり」というプレッシャーに圧し潰され、チャンスをことごとく外してしまいチームも敗北。チームメイトからは「お前のせいで負けた」と言われ、その試合がトラウマとなり高校でサッカーを続けることを断念した。
高校入学式の日の朝、瞬は目覚まし時計の電池切れという災難で寝坊してしまい学校まで全力疾走することになる。すると同じく遅刻をしかけて走ってきた瀬尾春人(せおはると)(ハル)と遭遇し、学校まで競争する羽目に。その出来事がきっかけでハルとはすぐに仲よくなり、ハルの誘いもあって瞬はテニス部へ入部することになる。そんなハルは練習初日に、「なにがなんでも全国大会へ行きます」と監督の前で豪語する。というのもハルにはある〝約束〟があった。
友との絆、好きなことへ注ぐ情熱、甘酸っぱい恋。青春の全てが詰まった高校3年間が、今、始まる。
※他サイトでも掲載しております。
青の時間
高宮 摩如(たかみや まこと)
青春
青という事。
それは未熟という事。
知るべき事がまだあるという事。
社会というものをまだ知らないという事。
そして、そういう自覚が無いという事。
そんな青い世代の生き様を登場人物名一切無しという”虚像”の世界観で絵描き出す青春群像劇。
サンスポット【完結】
中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。
そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。
この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。
※この物語は、全四章で構成されています。
フェイタリズム
倉木元貴
青春
主人公中田大智は、重度のコミュ障なのだが、ある出来事がきっかけで偶然にも学年一の美少女山河内碧と出会ってしまう。そんなことに運命を感じながらも彼女と接していくうちに、‘自分の彼女には似合わない’そう思うようになってしまっていた。そんなある時、同じクラスの如月歌恋からその恋愛を手伝うと言われ、半信半疑ではあるものの如月歌恋と同盟を結んでしまう。その如月歌恋にあの手この手で振り回されながらも中田大智は進展できずにいた。
そんな奥手でコミュ障な中田大智の恋愛模様を描いた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる