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学園の沙汰は委員(おに)次第

人伝の噂ほど信用出来ぬものはない

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 差出人は、想いを寄せている彼女。
 どくんっと、心臓が一際大きく跳ねた。
 ついに、自分の気持ちが彼女に届いたのか。
 はやる気持ちを抑え、震える手で封筒を開く。
 中に入っていた便箋に『今日の夜会いたい』と書かれ、待ち合わせ場所の公園と時間も記されていた。
 ついに、ついにこの時が……っ! 半年間の思いが遂に……っ!
 心を踊らせ、指定された時間より少し前に彼は待ち合わせ場所に着く。
 彼女はいない。その代わり、滑り台の上に鬼が居た。
 巷で噂になっている鬼の神。
 噂通りの赤い髪に鬼の面、血が付着した鉄パイプ。
 不良達の頂点に君臨する男。
 鬼神は、彼を見下ろしながら、口を開いた。

『お前の好きな女は来ねーよ。だって、俺が呼び出したんだから』

 聞き覚えのある声だった。
 鬼は面を外さなくても、その声だけで誰だかわかってしまった。
 沸き出した怒りで目の前が赤く染まったのはその時であった。


 ◇  ◇  ◇


「気付いた時には、奴にボコられてた。ボコってボコってボコられて、しまいには気絶させられて。目が覚めたらビックリですよ、どうなってたと思います? 股間に、トマトジュースをぶちまけられ、地面にジュース塗れの包丁が落ちてたんです」

 怒りと絶望に震えながらその場から去ろうとした時、運悪く敵対している不良グループと鉢合わせしてしまった。
 暗闇で状況が詳細にわからなかったからか。それとも馬鹿の集まりだったからか。不良達は彼が去勢されたと思い、吹聴した。
 その噂は学校でも広まり、中学校を卒業して高校に行ってもそれは変わらなかった。

「俺は、復讐しようと決めた。俺の日常が壊れたきっかけとなった男と女に。奴が語っていた鬼神の名を使って悪行をし、奴の名前に泥を塗り、奴の名で殺そうと」

 鬼神は伊織から離れ、校舎の方へ身体を向ける。
 面の奥にある鬼の目がぎらりと光る。
 男の背中が見える場所で、伊織は身体を震わせていた。
 痛いからではない。単純に怖いからだ。
 告白をされたのは事実。返事をノーと返したのも事実。
 伊織は一般的な行動をしたつもりだった。正しい事をしてきた。他の者もきっとそうするだろう。そう言うだろうという事をしてきた。が、それが琴線に触れて逆恨みに繋がることもあることに今気づいた。
 今までの行いも誰かの心を傷つけていて、今後も恨まれる事があるかもしれない。
 自分に向かって来るならまだいい。でも、自身の周囲から壊されて行く恐怖は耐えがたいものだ。
 止めさせないと。
 縛られた腕を自由にしようともがくが、縄が解ける様子はない。

「復讐の第一幕を開けましょうかァ、伊織さん。話を聞いてるだけではつまらないでしょう」

 鬼神の背後に控えていた不良二人が、鬼神の一歩前に進み出る。
 彼らの手には、移動式の大砲が鎮座している。
 どこで手に入れたとか、そんな野暮な質問はしてはいけない。
 ここは、荒くれ者共が集う冥府。荒くれ者は鬼だけではない。
 外国のあの世からやってくる密輸入者もこの町には大勢いる。閻魔の管理が及ばない所は無法地帯。
 不良達は彼らの前を開き、後ろに下がった。

「何をする気だ…………っ!?」

 頭の中で大体の予想はしているが、それを否定して貰いたくて、そう問い掛ける。
 鬼神はただ一言、虫けらを殺したあとの笑みを見せて放った。

「復讐です」

 不良達が、砲身を校舎に合わせた。
 駄目だ。
 伊織の予想が正しければ、大砲の砲弾は間違い無く校舎に当たる。
 校舎には教師と生徒が残っている。避難してくれれば良いが、その様子はまだ見られない。
 早く、早くなんとかしないと。

「高貴……!」

「撃ち落とせ」

 鬼神が合図をする。
 言い終わると同時に、不良二人が振り返り、鬼神の背後で控えている不良達に砲身を向けた。
 爆発音が響き、弾着の衝撃で不良達と土煙が舞う中、大砲から逃れた不良達と伊織は呆然とする。
 鬼神は大砲を放った不良達を睨み、金棒を振り上げた。
 二人に向かって振り下ろされたそれは、不良の一人が砲台ごと蹴り上げ、防がれた。
 鬼の常人を越えた力に、伊織は圧倒される。
 普通の人間なら数人がかりで動かすそれを、この二人は一人でやってみせた。

「鬼神さんよー」

 片方が、気怠い口調で口を開く。
 聞き覚えのある声に、伊織は目を見開いた。

「冥府と呼ばれるこの場所で、旧式の人間の武器なんて古いぜ」

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