腐れ外道でごめんあそばせ

siyami kazuha

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学園の沙汰は委員(おに)次第

棒切れも立派な武器

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「お忙しいところ恐縮ですが、一緒に来てもらえますか? もちろん、あなたに拒否権はありませんよ。伊織さん。拒否すればどうなるか……わかりますよね」

 ゆるりとした動作で、鬼神は腕を広げる。
 周囲には強面な男たち。その手には無数の武器。今、伊織が持っている武器は木刀のみ。剛もだ。
 目の前に立ちはだかる鬼神は、執行委員会の中でも一番腕っぷしの良い高貴を床に沈めたという。このまま戦えば、二人とも確実にやられてしまう。

「……わかった」

「伊織さん……!?」

 伊織の背後から、目を丸くして驚愕する剛の様子が伝わって来る。
 口には出さず、胸の内で彼に謝罪した。
 この男の目的は、伊織と高貴への復讐だ。
 店であった惨状を見聞きした後での鬼神の来襲にどう立ち回るべきかは、伊織もわかっている。
 不安と緊張で、心臓が飛び出そう。
 乾いた喉に無理矢理唾を押し流してから、伊織はゆっくりと鬼神の方へと進み出る。
 鬼神の口が、深い弧を描いた。

「伊織さん!」

 呼ぶ声が、叫ぶ声が、すぐそこから聞こえる。
 何も言うな。何も聞こえるな。
 きっと大丈夫。直ぐに終わる。あいつがきっと来てくれる。私の下僕は優しい男だから。
 それまでは、自分でなんとか相手の意識を伊織に向けていよう。
 耳を閉ざして、伊織は男の懐に潜り込んだ。


 ◆  ◆  ◆


 一通りの経緯を聞き、一番先に口を開いたのは高貴であった。

「めんどくせえ真似しやがって……。そういう悲劇のヒロイン気取った事情で、あいつはあそこからこの惨状を高みの見物してんのか」

「そ……! そんな言い方しなくても……!」

 予想以上に冷たい発言をした伊織の幼馴染みに剛は驚愕した。
 この男に、優しさという感情はあるのだろうか。いよいよ伊織の身が危ないという時に言う言葉だろうか。
 少なくとも彼女は、この学校と高貴を守る為にあの野蛮な男の懐へ入ったのだ。それなのに、この男は……!
 次第に怒りがこみ上げて来て、ぷるぷると身体が震えてくる。
 腕を振るってこの男の頬を叩いてやりたい。
 実行に移そうかとしたとき、レンが雄叫びを上げた。
 その場に居た者の視線が彼に移る。

「うおおおおおおお! 鬼神だかラーメンだかしらねええええええええ! 伊織様ああああああああああああ! あなたの犬が今行きまああああああああす!」

 デッキブラシを片手に急に走り出した彼を、剛が羽交い締めにする。

「ダメですって! 殺されますよ!」

「こんな、ちっぽけで汚らしい腐った命一つで伊織様が助かるなら、それも本望!」

「…………っ!」

 レンの一言が、剛の胸に深く刺さる。
 力が緩んだ腕を振り切り、レンは昇降口へと駆け出した。
 遠ざかって行く男の咆哮を耳に入れつつ、高貴はトイレにあったタワシを自分の持てる限りの力で投げつけた。
 タワシはレンの後頭部に勢い良く当たり、衝撃で腹から床に倒れる。
 何度でも言うが、鬼の力はバカみたいに強い。
 ずるずると床を滑って止まる彼に、剛が駆け寄り無事を確認する。

「レンさん、大丈夫ですか!? 高貴さん、やり過ぎですよ!」

「加減はしたぞ。……執行委員やりてぇなら、丈夫な身体を持て。筋トレしろ」

 ぺたぺたと上履きの底で廊下を叩き、倒れたレンに寄った。

「お前が命捧げる必要ねぇよ。鬼神の狙いは、この学校でも執行委員会でも伊織でもねー。芦屋高貴、この俺だ」

 静かな口調で、高貴は言葉を続ける。
 鬼神の狙いは、学校でもなければ不良の天敵執行委員会でもない。
 彼の目的は、猛丸が言った通りだった。
 昨日、奴は確かにこう言ったのだ。

『今日の所は許してやる。だが、今度は逃がさん。貴様が正体を正直に答えるまで、いたぶってやろう』

 狙われたら、逃げられない。
 どこまでも追ってくる。
 どうして鬼神は高貴と伊織を狙ったのか。高貴には大体の検討がついている。
 過去の事に囚われているなんて、まるで亡者みたいな奴。
 ゆっくりとした動作で手を伸ばし、レンの手からブラシを抜き取る。
 バキリと音を立てて、ブラシと柄を切り離すと、柄の振り具合を確かめた。

「伊織は、鬼退治に出た桃太郎のようだと、お前は言ったな。そんで、下っ端の俺達は家来だと」

 鬼神相手の鬼ごっこは、鬼に捕まらない限り終わらない。
 鬼は恨みの固まり。恨みあってこそ鬼である。
 口許をつり上げて、悪代官も腰を抜かすような悪人面を見せた。

「また狩ってやろうじゃねえか。悪い鬼をな」

 冥府の王太子の仕事は、冥府の管理だけではない。
 鬼を狩るのも彼の仕事だ。
 その仕事を支えるのが、将来彼の部下になる自分達若い鬼だ。
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