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第三章

67話

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 朝、目が覚めると腕に心地良い重みがあった。

 目を開けると、エルビラが俺の腕を枕代わりにして寝ているのが目える。

 あの後、再びエルビラの唇を奪ったまでは良かったのだが……ついつい気持ちが抑えきれず、彼女の胸を視認するところまで暴走してしまった。
 結果は、俺の手からこぼれ落ちるほどに実っていた。はい、絶対E確定です。
 掌にはその時の感触が今もしっかりと残っている。

 その時のことを思い出していると下半身の息子がいきり立ってしまい、これがなかなか治まらない。
 エルビラが起きる前には治まってくれないと困るんだが……。

 しかしよく寝たな。
 部屋に入った後に色々と話をして、そこからイチャイチャしたままベッドで寝てしまった。
 昼間から寝たのに目が覚めたら朝だった。

「結局ベッドは1つで足りてしまったな……」

 シーツが全く乱れていない隣のベッドを見て呟きながら、腕の中で寝ているエルビラの頭を撫でた。

「ん……うん……」
「おはよう。そろそろ起きない?」
「……あ……お、おはようございます……」

 目を開けると俺の顔が目の前にあり、状況を把握したエルビラは顔を真っ赤にして挨拶を返してくれた。

「ドルテナ君って見た目に寄らずエッチなんですね」
「そんなことないよ。エルビラが可愛いのがいけないんだ」

 頬を膨らましながら抗議の声を上げてくるが、その仕草がまた可愛らしくておでこにキスをしてしまった。

「もう、そうやって誤魔化す」
「あははは。さてと、ちょっと馬達の様子を見てくるよ。朝御飯はテーブルの上に置いておくからね」

 軽く唇を重ねて俺は部屋を出た。

「おはようございます。どうかなされましたか?」

 厩舎に入ると世話をしてくれているスタッフが声を掛けてきた。

「昨日、二人乗りの鞍をお願いしていた者ですが……」

 昨日、宿へ帰る途中に馬具店に寄って2人で乗れる鞍を買っておいた。
 中古のいい奴があったので、それを手直ししてもらい宿まで届けてもらった。

「はい、既に取り付けてあります。馬車はどうしたらいいのでしょうか」
「馬車も引き取ります。あれですね?」

 厩舎の外に見覚えのある馬車が停めてあった。

「はい、あちらになります。飼い葉もその横へ置いてあります」
「わかりました。ありがとう」

 お礼を言って馬車の元に行く。
 馬車と横に置いてある飼い葉をアイテムボックスに入れてから部屋へ戻った。
 マホンまでは二人旅になってしまったので馬車は必要がないからね。

 部屋では着替えを済ませたエルビラが朝御飯を食べている最中だったので、俺も座って一緒に食べた。

「昨日の話では、途中の村は1泊しかせずにマホンまで帰るんでしてよね?」
「ヘイデンさん為にも少しでも早くマホンまで帰りたいからね」
「ありがとう。あのね……お父さんの顔を見たいの。お願いできる?」
「ああ、構わないよ」

 テーブルを部屋の隅に寄せてスペースを作ってから、ヘイデンさんの棺を出した。

「お父さん、急いで帰るからもう少しだけ我慢してね」

 俺もエルビラと一緒に手合わせた。

 馬に2人乗りの鞍を取り付けてあるので、前にエルビラを乗せて後ろに俺が乗る。
 残りの一頭は手綱を持って併走させている。

 2人で乗るのはハーシェル神殿に行くときと同じだが、あの時よりも密着している。
 俺が後ろからエルビラを抱きかかえ、エルビラは俺に体を預ける格好で馬に乗っているからだ。

 よく考えると馬上の俺達はバカップル以外の何者でもないな。
 まぁ、わざとやっている面もあるんだけどね。

 ただ単に移動しているだけだと、父親を亡くしたことばかり考えてしまう。
 だからそれ以外の事へ意識をさせたいんだ。
 決してかわい子ちゃんとイチャイチャしたいだけじゃないんだ!

「ここから全てが変わったのよね」

 昨日ノーラ達に人質にされた上、蛇の変異種に襲われた休憩所だ。
 血溜まりや肉片といった物は残っておらず、ここで戦った痕跡は見られなかった。
 軍が綺麗にしたのだろう。放置しておくと肉食獣が休憩所に近寄ってきて旅人が危険になる。

「あの時、森の中に連れて行かれたときはとても怖かったの。何をされるのかわからなかったから」
「物資だけが目的なら命の危険もあったんだよね。そう考えると彼奴らががめつくて助かったね」

 エルビラも金に換えようと考えてくれなければ、俺が水を汲み終えて戻るまでの間に殺されてアイテムボックスの中身を取られていただろう。

「今もそうだけど、あの時にドルテナ君の口調が変わったよね?最初は戦っているからかと思ったけど、そうじゃなかったのね」
「だって、俺は見習いだし一番年下だったからね。皆に失礼がないように気を付けていたんだよ」
「私にも?」
「もちろん。俺の同行を認めてくれた人の娘さんだからね。でもエルビラも少しずつ口調が変わってるよ?」

 周りに人がいると丁寧なしゃべり方をしていたけど、今はいい意味でだいぶ崩れてきた。

「……だって、ドルテナ君とは一応そういう関係になったわけだから、普通に話したいと思って……それは迷惑?」
「いや、素のエルビラでいて欲しい。だから無理しないで」
「うん……ありがとう」

 そう言ってより一層俺に体を預けてくる。

 マホンまでにある、ツルモやダウゼンは馬車での移動だと朝出て夕方に着くことになる。
 でも今は馬に俺達が乗っているだけなので移動速度が上がり、まだ日の高いうちに村へ入ることができた。
 時間には余裕があったけど観光はしなかった。
 父親のこともあるからエルビラも観光をしたいとは思えないよ。

 ワカミチを出て3日目。森を抜けると、遠くにマホンが見えた。

「街が見えてきたよ」
「少し間しか離れていなかったのに、凄く久し振りのような気がするわ」
「そうだね……俺がもっとうまく立ち回れていたらヘイデンさんも……」
「ドルテナ君。その話はもうしないって決めたじゃない。何度も言うけれど、ドルテナ君がいなければ私はこうしてマホンへ戻れていなかったのよ」

 ツルモやダウゼンの宿で同じ話を毎晩していた。
 どうしてもこの話になると2人とも気持ちが沈んでしまう。だからその話はもう止めようと2人で決めたのだ。
 それでもマホンを見ると……ね。

 俺とエルビラは御者台からマホンを見ている。
 街中で馬車をアイテムボックスからボンって出すと騒ぎになるから、最後の休憩所で鞍を外して馬車に変えていた。

「帰ったら馬と馬車を返してから一葉に行って、それから教会にヘイデンさんの火葬の相談へ向かう……で、よかったよね?」
「うん、その予定。色々と付き合わせる事になってしまうけど……」
「んなこと気にしなくていいよ」
「ありがとう」

 マホンに着いてからの話をしているうちに門に着いた。
 いつも通り身分証を出して門を通り抜ける……はずが詰め所に連れてこられた。
 ノーラ達の盗賊グループの話を警備兵が聞きたいらしい。
 俺達がマホンに着くより早く、ワカミチから事件のことが知らされていたようだ。

 詰め所で待っているとパーナーショップさんが現れた。

「やぁ、ドルテナ君、久し振りだね」
「はい、ご無沙汰してます」
「お嬢さんも久し振りだが憶えているかな?」
「はい、以前私が襲われたときにお話を聞きに来られた方ですよね?」
「そうだ。憶えていてもらって光栄だ」

 今回もパーナーショップさんが話を聞くらしいので、一通り何があったのかを伝えた。

「ふむ……報告書と同じか……。こっちでもわかったことがあった。雇った冒険者達はランクEだった。本来なら護衛依頼は受けられんが、ギルドを通していなかったから騙されたんだろう。それと、君達の情報を売った貸し馬車の従業員は既に捕らえている。が、背後関係はわかっていない。捜査しているんだがな、なかなか尻尾をださん」

 説明してくれたパーナーショップさんも多少苛立っているのだろう。説明している語気が強くなっている。
 しかしノーラ達がランクEとは思わなかったな。

「亡くなられたお父さんの事は、こちらからも教会に連絡を入れておいた。事情は話しているから直ぐにでも対応してくれるだろう。薬剤師ギルドにも話が通っているから、14歳の君でも遺産の手続きは簡単になる。行くときはお父さんの遺書を忘れずにな」
「はい、お心遣いありがとうございます」

 薬剤店の店舗は薬剤師ギルドが所有者等の情報を管理している。なのでギルドに行けば遺産の手続きができるシステムなのだ。

「報告書ついでにひとつ伝えておくが、君の武器のことも書いてあった。もう他人に隠せる状況にないことは理解しておいた方がいい」

 まぁ、変異種を倒せる武器なんだから報告書に載るよねぇ……。
 しょうがない、いずれバレるんだしな。

「さてと、疲れているときに時間を取らせてすまなかった。ゆっくりと休んでくれ」

 俺達はパーナーショップさんにお礼を言って詰め所を後にした。

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