異世界と現代兵器 ~いや、素人にはちょっと~

霞草

文字の大きさ
上 下
67 / 155
第三章

66話

しおりを挟む
 翌日。

 日が昇る前に、ヘイデンさんは静かに息を引き取った。
 娘を守り切り俺へ託した後、神の元へ旅立って行った。

 エルビラは夜が明けても側を離れなかった。
 遺品は、ヘイデンさんから預かっていた空の木箱へ入れた。

 ずっと2人っきりにしておいてあげたいが、そういう訳にもいかない。
 警備兵が、ヘイデンさんの荼毘をどうするのか尋ねてきたのだ。

「エルビラ、お父さんをそろそろ移動させないといけない」
「……うん」
「警備兵さんがお父さんの荼毘について聞いてこられたんだけど、何か希望とかはある?」

 荼毘という言葉を聞いたときビクッとしたが、それでも気丈に答えた。

「いいえ……ただ、もう一度マホンの街を見せてあげたかった。お母さんの眠るマホンで旅立たせてあげたかったの……でも……」

 そうか、やはりお母さんは亡くなっていたのか。母親の側で神の元に送ってあげたいなら俺がそれを叶えられる。

「わかったよ。お父さんをマホンから送ってあげよう」
「ありがとう。でもお父さんの体をマホンまで持って行くことは無理よ。マホンに着く前に体がボロボロになってしまうわ。そんなこと堪えられないわ」

 マホンまで急いでも3日。普通ならその間に腐ってしまう。
 だが俺のアイテムボックスがあればそれも可能だ。

「エルビラ、君に見せたい物がある。これなんだかわかる?」

 アイテムボックスから温かいスープパスタを出してエルビラに渡す。

「スープパスタ?」
「そう、スープパスタ。これ、マホンで買ったんだ」
「え?……でもまだ温かいですよ?それに腐ってもいないし……」

 普通だとあり得ない。アイテムボックス内でも時間は経過するのが普通だ。
 俺のアイテムボックスの特性をエルビラに教えると、目をまん丸にして驚いていた。

「そんなことが……でもそれが本当ならお父さんをマホンまで連れて帰られるの?」
「エルビラがそれを希望するならば」

 再びエルビラの目から涙が流れてくる。そして俺に飛びかかるかのように抱きついてきた。

「ありがとう……ありがとう」

 エルビラの頭を撫でた後、詰め所にいる警備兵にヘイデンさんを連れて帰る旨を伝えて、棺桶の手配をお願いした。

「エルビラ、今日はとりあえず宿で休もう。夜通し起きていたから体を休めないと毒だよ。出発は明日の朝にしようと思うんだけど」
「わかりました。ドルテナ君にお任せします」

 納棺が終わり詰め所を出る頃にはお昼を少し過ぎていた。

「お世話になりました」
「変異種の討伐感謝する。お父さんは残念だったが2人力を合わせてしっかりとな。それと、これはお父さんから頼まれていたの物だ」

 そう言って渡された物はヘイデンさんの遺言書だった。
 遺産は全てエルビラに渡すことと、俺をエルビラの婚約者として認めるという内容だった。

 俺達は改めてお礼を言ってから宿へ向かった。

「宿は昨日泊まったところは避けようと思うけど……」

 俺達を嵌めようとしたノーラ達も泊まったところだ。
 父親を亡くす原因となった奴等のことを思い出させるのもどうかと思ったんだ。

「ううん、昨日と同じ所がいいです。お父さんとの思い出があるので」
「わかった。エルビラがいいのならそうしよう」

 なので同じ宿に向かった。

「お帰りなさいませ。お話は大体伺っております。お父様が大変残念なことに……ご冥福をお祈りいたします」
「ありがとうございます。私達や父のことがもう噂に?」
「それもありますが、盗賊達の事を警備兵が調べに来ておりましたのでその際にお話を」

 そうか、警備兵が足取りを調べたりしてたんだな。
 それに変異種が出たってなると直ぐに話が広まるわな。

「それで、お部屋の方は如何いたしましょうか?」
「2部屋空いてますか?」
「はい、ご用意できます」

 まぁこの時期は泊まる人もそんなに多くないし、おまけに昼間だもんな。

「では、おね……ん?なに?」

 エルビラが俺の袖を引っ張ってきた。

「あの……一緒に……。今は1人でいたくないから……」

 ……へ?

「あ、あの……マズくない?」

 いきなり同じ部屋に泊まるのはマズいでしょ。
 確かにエルビラを妻にするって言ったし、ヘイデンさんからは婚約者と認めてもらってはいるけど……。

「お願い……側にいて。1人は……怖いから」 

 今にも消えそうなくらい小声で伝えてきた。
 父親が亡くなって1人になるのが嫌らしい。

 でもなぁ。俺が堪えられそうにないんだよ!
 好きな子と一緒の部屋って、それだけでヤバいって!

「……わ、わかりました。……すみません、1部屋でお願いします」
「畏まりました。それでは ── 」

 宿の主人も特に何か言うわけでもなく部屋を手配してくれた。
 1部屋分の代金を支払った後、俺達は部屋に案内された。

「それではごゆっくりと」

 と言って主人が扉を閉めた。
 これで室内には俺とエルビラだけになった。
 しばしの間、沈黙が部屋を満たした。

 幸い、部屋にはベッドが2つあるので自制できそうだ。
 ベッドに腰掛けてエルビラにも休むように勧める。

「……えっと、とりあえず体を休めましょうか……」

 そう言ってもエルビラは動こうとしない。その表情は何か思い詰めているように見えた。

「あの……私で本当によろしいのでしょうか?……もし父の遺言がご迷惑でしたら……」

 俺がヘイデンさんに無理矢理そうさせられていると思っていて、それが気になっていたのか?
 ベッドから立ち上がり、エルビラの手を取る。

「ヘイデンさんの遺言を迷惑だなんて思ってないよ。寧ろありがたいとも思っているんだ。まだ13歳の俺を、大切なひとり娘の相手として認めてもらえたんだからね」
「でもいつから私を?出会った頃はそんな素振りもなかったですし、旅が始まった頃も……」
「そうだね、きっと旅をしている間に少しずつ引かれていたのかもしれない。でもその時は俺自身その事に気付いてなかったよ」

 旅に出た頃はあくまで薬剤店の娘さんとしか思っていなかった。
 だが旅の合間に色々と話すうちに、彼女との距離はかなり近くなったのは感じていた。

「でも、ハーシェル神殿でエルビラを見ているうちに、自分の気持ちに気が付いたんだと思う。だからあの時、君と目が合ったときに思わず……抱きしめてしまったんだ」

 自分が変わったのはハーシェル神殿に行ってからだな。
 いくらああいう加護があるとはいえ、好意を持っている相手以外に抱きつこうとはならないだろう。
 無意識のうちに好きになっていた部分があり、それが行動として出ただけだと思う。
 そしてその気持ちに気付かせてくれるきっかけを与えてくれたのだろう。

「では、父に頼まれているから……ではないと」

 エルビラは俺に握られている手を見ながら凄く不安そうな、でも期待していそうな顔をしている。

 そうか、俺はまだ本人に向かって自分の気持ちをきちんと伝えていなかったな。
 父親との会話で間接的にしか俺の気持ちを聞いたに過ぎない。
 それが本心なのかどうかもはっきりとしていない状況では、彼女もモヤモヤっとしていても仕方がないな。

「エルビラ。昨日からとても大変なことがたくさん起こっている時に不謹慎かもしれないが聞いて欲しい」

 エルビラが頷くのを確認して話を続ける。

「この旅で君のことを少しは知ることができた。一緒に行ったハーシェル神殿で自分の気持ちに気付いたんだ。ずっと君の側にいたい。お父さんのことがなくても、いつか君に想いを伝えていたと思う。そのきっかけをお父さんが俺に与えてくれてんだ」

 ヘイデンさんは娘のことを思って俺に託したと思う。でもそれによって俺はチャンスを与えてもらえたのだ。

「もっと君のことが知りたい。俺に君のことを教えてくれ。エルビラ、君が好きなんだ」

 俺が想いを伝えると下を向いていたエルビラが顔を上げた。
 その顔は頬を赤くして笑いながら涙を流していた。

「私でいいの?……何も取り柄がない、お父さんの仕事も継げないし、あなたの力にはなれないのに……」

 俺は何も言わず、彼女の目を見ながら頷いた。

「本当に?……ほんとうに……」
「君がいいんだ。君じゃなきゃダメなんだ。……エルビラ」

 少しずつ彼女の瞳に映る俺の顔が大きくなっていき、唇に彼女の温もりを感じた。
 まだ14歳と13歳の2人だがこれくらいは許されるだろう。

「ん……っあ……」
「エルビラ、俺の側にいてくれ」
「はい。いつまでも側にいます」

 俺はエルビラを抱き寄せ、再び唇を奪った。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...