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第六章 社畜と女子高生と二人の選んだ道
5.社畜とコンビニの女子高生たち
しおりを挟む二週間の入院を経て、俺は退院した。
ずっとベッドの上での生活だったので、かなり体力が落ちていた。館山課長の気遣いもあり、とりあえず一ヶ月は休養することになった。色々話を聞いたら、館山課長も若い頃に無理して体を壊したことがあり、その時の経験から決して無理はさせたくないということだった。
社畜生活には嫌気がさしていたが、家で何もしないのは苦痛だった。
前田さんには毎日電話をしたが、つながらない。照子のニュースは、辛くてこれ以上見る気になれなかった。体力回復のために散歩をしたり、気分転換に料理をしてみたり色々試したが、どうにも気分は晴れなかった。
見舞いに来てくれた篠田はすぐ栃木に帰ってしまい、伏見も仕事が忙しいからそう簡単に会えない。
暇を持て余していた俺は、とある月曜日、例の理瀬が毎晩訪れていた公園に向かった。
見つかってしまった以上、同じ手は使えないはずだとわかっていたが、もしかしたら懲りずに出歩いているかもしれない、と淡い期待を寄せて。
公園に着いてしばらく待ったが、理瀬は現れなかった。古川の手先が俺のことを見張っているかもしれないと思って、周囲を探したが、それも見当たらなかった。古川からすれば、脳梗塞で倒れてしまった男の事なんか、もはやどうでもいいのだろうか。
暇だったので、俺は理瀬がジャン○を買いに寄っていたコンビニまで歩いた。
コンビニの前にあるベンチに、二人の女子高生が座っていた。一瞬、理瀬かと思ったが、近づいてみるとかなりメイクの濃い、明らかに理瀬とは違うタイプの女子高生二人組だった。俺が理瀬のことを求めすぎて、錯覚しただけだった。
自分に呆れながら、俺はコンビニに入ろうとしたが、
「YAKUOHJIの逮捕、マジでショックだよね~」
という言葉を聞いて、思わず足を止めてしまった。ベンチからかなり距離を空け、スマホをいじって誰かを待つふりをしながら、女子高生の話を聞いた。
「あたし、YAKUOHJIマジで好きだったのに」
「えー、そう? YAKUOHJIの曲ってなんか、救いがないじゃん。永遠の片思い、みたいな感じで」
「それがいいんじゃん」
永遠の片想い、という言葉を聞いて、俺は心臓をぐっと掴まれたような気持ちになった。
照子が、今でも俺のことを好きなのかはわからない。おそらく恋愛対象としてはもう興味がないだろう。しかし、少なくとも今より若い頃は、俺への気持ちをベースに曲を書いていたから、永遠の片思いというのは間違っていない。
「これ聞いた? 今週出るはずだったYAKUOHJIの最新の曲。なんか流出しちゃったらしいよ」
「えー、知らない」
女子高生たちは、大音量でスマホから流れる曲を聞いていた。俺にもその歌は鮮明に聞こえた。
あなたがいたから わたし いつもどおり 生きていたの
わたしはもうだめ からだ とかさないと 生きてけないの
「この『体溶かさないと』って部分、大麻の事じゃないか、ってネットで噂されてた」
「えー、こわっ」
俺はスマホを落としてしまった。
女子高生たちが物音に気づき、こちらを見たので、不審者扱いされないようにコンビニの前から立ち去った。
認めたくなかったが、照子は創作のための刺激として、大麻を使用したに違いない。
それまでは、俺と付き合った経験を基にして曲を書いていた。しかし照子には新しい彼氏もできていないし、経験で書いているとするなら、いつかはネタ切れになる。このところは俺による作曲の補助もなかった。誰かが助けなければ、照子がいずれ困ることはわかっていた。
そのために大麻による刺激を試したのだ。照子は、決して遊び半分で違法行為に足を突っ込むような人間ではない。いつもふざけてはいるが、根は真面目なのだ。
そんな照子を、大麻に手を出さなければならなかったほど、追い詰めたのは誰だ?
俺だ。
間違いない。
ひどい別れ方をして、全部照子のせいにしようとして。
別れた後も、都合のいいように振り回して。
照子に最もストレスを与えたのは、俺に違いなかった。
なんとなく自覚はあったのだが、照子が逮捕されてしまった事で、もう元には戻れないところまで来てしまったのだ。
終電近い地下鉄に乗り、俺は頭を抱えながら、必死で涙をこらえた。俺が泣いても仕方ないのに。一番辛かったのは照子なのに。
本当に、どうしようもない男だ、俺は。
こんなので、理瀬に手を差し伸べようなんて、傲慢なのもいいところだ。
自己嫌悪に陥った俺は、深夜の酔っぱらいのようにふらつきながら、自宅に戻った。
家に帰ってスマホを確認すると、伏見からLINEメッセージがあった。
『ニュース見ましたか? YAKUOHJI、不起訴処分で釈放されたみたいですよ!』
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