【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

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第六章 社畜と女子高生と二人の選んだ道

4.社畜とJKお悩み相談

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 何か考えておく、とは言ったものの。

 古川へ復讐する方法は、何も思いつかなかった。

 古川の足を引っ張るのは前田さん任せだった。その前田さんと連絡がつかなくなって、俺の切れるカードはなくなった。

 前田さんと最後に会った時、古川をゆすれるネタを掴んだことに随分興奮していたから、前田さんはもしかして週刊誌の記者か何かなのかもしれない、と思った。しかし週刊誌記者が俺みたいな何もない社畜に付きまとうのもおかしな話なので、やはり伏見の言った通り、古川のスパイだという説の方がピンとくる。

 いずれにせよ、前田さんの力はもうあてにできない。

 作戦が何もないまま、一週間の入院生活を送った。脳梗塞のせいか、以前より判断力が落ちているらしく、スマホゲームをしても単純なミスで失敗してしまい、テンションが下がることが多かった。

 以前よりもはっきりしない頭で、作戦を練り直すのは無理があった。

 そんなことを考えながら過ごしていた時、江連エレンからLINEがあった。


『理瀬、最近どんな感じだった』

「すまん、実はちょっと入院してる」


 俺が正直に答えると、『えっ、じゃあお見舞い行きます』と返信があり、その日の夕方に病院へ来てくれた。


「おじさん、ほんとに入院してたんですね。大丈夫なんですか?」

「ああ。だいぶ回復したよ。まだちょっと頭の回転が遅いけど」

「理瀬はこの事、知ってるんですか?」


 俺は答えに困った。理瀬が俺のことをどこまで知っているかは、もはやわからない。照子が逮捕された事へのショックで、俺に何らかの異常が起こっている、と想像はするかもしれないが、それを古川から伝えられているかどうかはわからないのだ。

 

「わからん。直接伝えてはいない。というか、理瀬とはしばらく会えそうにない。お前に教えてもらって、夜中にふらついてる理瀬をつかまえて定期的に話してたんだが、そこを理瀬の父親に見られて、当分会えそうにないんだ」

「えっ、そうだったんですか。まさかそのショックで倒れたんですか」


 そう言えば、エレンは俺と照子の関係をまだ知らない。YAKUOHJI逮捕のニュースは知っているだろうが、ニュースと俺が倒れたことは紐付いていない。


「いや……倒れた理由は、もっと別のことだ」

「お仕事しすぎたとか?」

「それもあるが……その、何だ、昔付き合ってた女の子にいろいろあってな。詳しくは言えないが」

「えっ、それって篠田さんの事ですか?」

「いや、違う。高校時代の彼女のことだ」

「高校時代の彼女……」


 エレンは急にもじもじしはじめた。見覚えがある態度だった。


「あの……宮本さん、つかぬことをお聞きするんですけど」

「何だ?」

「別れた彼女のことって、今でもやっぱり、諦めなかったりするものですか?」

「いや、恋愛対象としては全くない。友達として気にはなるが」

「そ、そうですか……」


 エレンが肩を落とす。


「お前、例の彼氏と別れたのか?」

「えっ! な、なんでわかったんですか」

「顔にそう書いてある」

「えっ、ど、どこにですか」

「そういう意味じゃないよ」


 慌てて手鏡を出すエレン。俺は思わず笑ってしまった。久しぶりに、シンプルにおかしくて笑った気がした。

 もしかして、お見舞いに来てくれたのは、理瀬のことよりエレン自身の問題を相談したかったから、なのだろうか。そう思わせるくらいエレンは真剣だった。


「俺みたいなおっさんの過去なんて別に興味ないだろ。このタイミングで俺に何か聞くとしたら、自分の恋愛に関わることしかないと思ってな」

「そ、そうなんですけど……」

「悩みがあるなら聞くぞ。聞くだけで解決できるかはわからないが、気持ちが楽になるかもしれん」

「うーん……ちょっと言うの恥ずかしいんですけど……実は私、ついにリンツと、その、一線を超えてしまいまして」


 そういう話か。

 この手の話をオープンにしてくれる、ということは、俺はエレンを性的な目で見ていない、とエレンは感じている、という事なので、いい傾向ではある。


「最初はよかったんですけど、なんか、どんどんリンツが求めてくるようになって……私の体が目的なのかと思って、ちょっと怒っちゃったんですよね」

「よくある話だな」

「リンツが私のこと、好きじゃなくなった訳じゃないと思うんです。実際、すごく優しいですし。でも、どうしても受け入れられないというか、受け入れきれなくて」

「ふーん」


 俺も、照子とそういう理由で険悪になった事はある。高校生カップルなら誰もが通る道なのかもしれない。


「まあ、男子高校生なんて九割が性欲で出来てるようなもんだし、女の子がうんざりするのは仕方ないよ。別にリンツ君が異常な訳ではないと思うな、俺は」

「そ、そういうものなんですか。やっぱり、私がいけないんですね」

「いや、そうじゃない。そういうことは、二人で合意してするものだろ。俺にできるアドバイスがあるとすれば、嫌なことは嫌だってちゃんと伝えないと、一生伝わらないってことだな。一回断ったくらいで、リンツ君はお前のことを嫌いにならないと思うぞ」

「そ、そうですか……?」

「ああ。お前、まだリンツ君のことが好きなんだろ?」

「……はい」

「だったら、ちょっと時間を置いて、もう一度話し合ってみな。向こうもそれで反省するだろう」

「……はい! そうしてみます!」


 エレンはとても満足していた。だいたいこういう時、本人の気持ちが決まっていても、誰かに背中を押してもらわなければ、動き出せないものだ。


「お尻ばっかり触るのはやめてって、リンツにちゃんと言おう!」


 言ってから、エレンは真っ赤な顔になった。リンツ君の性癖を突然披露してしまったエレンは、「あっ今のなし! 今のなんでもないです!」とあわてて否定した。


「み、宮本さんは、理瀬の代わりに新しい彼女とか作らないんですか」

「……そんなことを考える余裕はないな」

「篠田さんは?」

「もう俺のことなんか大嫌いになってるだろ。女の恋は上書き保存、男の恋は名前を付けて保存、っていう名言があってだな」

「なんですかそれ? どう違うんですか?」


 そう言えば今どきの若い子はいきなりスマホを手にするから、パソコンの事がわからないんだった。思わぬ形でジェネレーションギャップを感じ、俺は軽くへこむ。


「じゃあ、高校時代の彼女さんは?」

「だから、ないって言ってるだろ」

「何があったかは聞かないですけど、女の子が弱ってる時はチャンスですよ。ちょっとずるい気もしますけどね」

「知ってる」

「うわ、なんですかその余裕っぽい顔。おじさん、なんかキャラ違いますよ。病気で頭のネジ外れちゃったんですか?」

「そうかもなあ」

「とにかく、おじさんは理瀬と距離を置くんですよね。そのことを理瀬と納得させるためには、別の人のことを好きになっちゃった、っていうのが一番だと思います。理瀬、頑固なのでいきなり別れる、って言われても諦めなさそうだし」


 図星だった俺は、必死で平静を装った。

 理瀬を諦めさせるために、他の女の子と付き合う。それも一つの手段かもしれない、と俺は妙に納得してしまった。もっとも、こんな俺と付き合ってくれる女がいればの話だが……
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