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ハーシベル王国
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ミザリーの暮らす王国ハーシベルは大国に挟まれた小国の一つだ。
北の大国リビアと南のジェラルド帝国。
そんな大国達は常に大陸の覇権を夢想し争い続けていた。そんな情勢の中ハーシベル国王ゼブラはその外交手腕で北のリビアと互角の同盟を結び、北の土地を欲する帝国は長きに渡り手出しの出来ない状況が続いていた。
そんな折に突如として行われた帝国からの宣戦布告に王国中が大騒ぎとなる。
~ハーシベル王宮内~
「まさか帝国が動くとはな」
「この国はどうなるのだ」
「リビアからはなんと?」
現在王宮内も騒然としていた。
そしてそんな会議室の張り詰めた空気の中で、誰もが眉間に皺を寄せて意見が飛び交っていく。
「最早国境付近に帝国の軍勢が揃いつつあります」
「リビアへの使者からはまだ何も連絡がないのか?」
騒めき皆が焦燥で思い思いに意見が飛び交う室内にセリスの声が割って入った。
「僭越ながら失礼します。ひと月程前の宣誓以降帝国国内の動きは活発になっております」
セリスが指し棒を伸ばし地図を指す。
ハーシベル王国の南部には広大な森が広がり、そこからさらに南下すると大きなテュベル河が広がる。川岸を馬で二日程の距離でジグラルド帝国がありハーシベルとの国境はテュベル川を境としており、この地形もまた帝国からの侵攻を防いでいた。
第一王子殿下レオンが率いる第一騎士団の精鋭が宣戦布告以降偵察に向かった時は未だ国内に情報は広まっておらず混乱は起きていなかった。
「現状テュベルの川岸には国境警備隊と第一騎士団を配置。南部の民は出来る限り中央の都市に避難するように第二騎士団が勧告して回っております。リビアへ向かった特使からの早馬では現在援軍のリビア軍が準備出来次第我が国へ向かって頂けるとの事です」
セリスの説明の後宰相が続く。
「先ずは国民の避難を優先しましょう。幸いにしてご存じの通り我が国は穀物の大半を自給自足で賄えておりますが、同盟の条約によって戦時でも穀物の輸入に関しては通常の価格で仕入れる事が出来ますから国民が飢える事はないでしょう。とは言え戦力差は依然として帝国が有利です。レオン殿下の見解をお聞かせ願えますか?」
これまでジッと腕を組み目を閉じていたレオンがゆっくりと目を開ける。
「帝国に潜ませている密偵からは本格的な開戦は一月後と予想される。我がハーシベル軍はこれまでも攻めて来た敵は全て迎え撃って来た。どの道逃げ場などないのだ。野蛮な蛮族共は我が剣の錆にしてくれる」
その後も議題が続き最後はゼブラ王の締めの言葉で会議は終了した。
~その夜~
レオンはバルコニーで流れる夜風に漆黒の髪が後ろに流れる。
ワイングラスを傾け城下を眺め物思いにふけっていると後ろに誰かの気配がした。
「お兄さま。ご一緒しても?」
その声の方を振り返ると妹で第一王女であるティリス=ハーシベルが立っていた。
二人はバルコニーに設置されたテラス席に腰を降ろす。
十八になり酒を嗜めるようになったばかりのティリスは偶に兄の部屋を訪れては二人でこうして語らう。
「私、とても恐ろしいです。帝国はとても強大です。この眼下に広がる民の生活が壊される事がなによりも恐ろしい」
震えながら両手で顔を覆ってしまう妹を慰めるようにレオンは口角を上げた。
「心配するな。俺がこの国もお前も守ってやる」
それは慰めると同時に自身を鼓舞する言葉。それでもティリスの心は軽くなり手の震えは止まった。
「もう行きますわ」
ティリスはグイっと両手で持ったグラスを傾けた後ゆっくりと立ち上がると、兄の胸に綺麗に折りたたまれたどこか貧相な小汚いハンカチを見つけた。
王族が使用するハンカチは当然それ相応の品が用意されている。さらに王子専属の執事や何人もの侍女がおりレオンの身だしなみに関しては少しの衣服の折れも許されない。
ティリスは気になり出したら詮索するタイプだ。
「お兄さま? その胸のハンカチを見せて下さらない?」
「ん? あぁこれか」
(まさかとは思うけど......あのお兄さまに?)
慕っている兄から受け取ったハンカチはとてもではないが上品とはいえない、ティリスも見た事のないような薄い布で作られたハンカチだ。
白い生地に独特だが可愛らしい花柄と何かの模様が縫われている。
ハンカチを持つ手が少し身震いしつつ恐る恐る兄に聞く。
「お、お兄さま? こちらはどうされたのですか?」
(私のお兄さまにいつの間に虫がついたのかしら!)
ティリスの眼光に力が入る。
「ひと月前の偵察のおりに助けた村人から礼の品として貰った物だ。捨てる訳にもいかぬしな」
ティリスは愕然とした。我が兄はその美形と体躯、そして王子という立場もありか幼少時から今まで数多くの女性からの贈り物から求婚まで後を絶たないが、ほぼその全てに対して返事も礼もおろか包みを開ける事すらせずに捨てる事なんてざらにある。
(これはセリスに問いたださなければいけないわね)
ティリスの胸の奥に帝国とは別の敵を見定めた瞬間だった。
北の大国リビアと南のジェラルド帝国。
そんな大国達は常に大陸の覇権を夢想し争い続けていた。そんな情勢の中ハーシベル国王ゼブラはその外交手腕で北のリビアと互角の同盟を結び、北の土地を欲する帝国は長きに渡り手出しの出来ない状況が続いていた。
そんな折に突如として行われた帝国からの宣戦布告に王国中が大騒ぎとなる。
~ハーシベル王宮内~
「まさか帝国が動くとはな」
「この国はどうなるのだ」
「リビアからはなんと?」
現在王宮内も騒然としていた。
そしてそんな会議室の張り詰めた空気の中で、誰もが眉間に皺を寄せて意見が飛び交っていく。
「最早国境付近に帝国の軍勢が揃いつつあります」
「リビアへの使者からはまだ何も連絡がないのか?」
騒めき皆が焦燥で思い思いに意見が飛び交う室内にセリスの声が割って入った。
「僭越ながら失礼します。ひと月程前の宣誓以降帝国国内の動きは活発になっております」
セリスが指し棒を伸ばし地図を指す。
ハーシベル王国の南部には広大な森が広がり、そこからさらに南下すると大きなテュベル河が広がる。川岸を馬で二日程の距離でジグラルド帝国がありハーシベルとの国境はテュベル川を境としており、この地形もまた帝国からの侵攻を防いでいた。
第一王子殿下レオンが率いる第一騎士団の精鋭が宣戦布告以降偵察に向かった時は未だ国内に情報は広まっておらず混乱は起きていなかった。
「現状テュベルの川岸には国境警備隊と第一騎士団を配置。南部の民は出来る限り中央の都市に避難するように第二騎士団が勧告して回っております。リビアへ向かった特使からの早馬では現在援軍のリビア軍が準備出来次第我が国へ向かって頂けるとの事です」
セリスの説明の後宰相が続く。
「先ずは国民の避難を優先しましょう。幸いにしてご存じの通り我が国は穀物の大半を自給自足で賄えておりますが、同盟の条約によって戦時でも穀物の輸入に関しては通常の価格で仕入れる事が出来ますから国民が飢える事はないでしょう。とは言え戦力差は依然として帝国が有利です。レオン殿下の見解をお聞かせ願えますか?」
これまでジッと腕を組み目を閉じていたレオンがゆっくりと目を開ける。
「帝国に潜ませている密偵からは本格的な開戦は一月後と予想される。我がハーシベル軍はこれまでも攻めて来た敵は全て迎え撃って来た。どの道逃げ場などないのだ。野蛮な蛮族共は我が剣の錆にしてくれる」
その後も議題が続き最後はゼブラ王の締めの言葉で会議は終了した。
~その夜~
レオンはバルコニーで流れる夜風に漆黒の髪が後ろに流れる。
ワイングラスを傾け城下を眺め物思いにふけっていると後ろに誰かの気配がした。
「お兄さま。ご一緒しても?」
その声の方を振り返ると妹で第一王女であるティリス=ハーシベルが立っていた。
二人はバルコニーに設置されたテラス席に腰を降ろす。
十八になり酒を嗜めるようになったばかりのティリスは偶に兄の部屋を訪れては二人でこうして語らう。
「私、とても恐ろしいです。帝国はとても強大です。この眼下に広がる民の生活が壊される事がなによりも恐ろしい」
震えながら両手で顔を覆ってしまう妹を慰めるようにレオンは口角を上げた。
「心配するな。俺がこの国もお前も守ってやる」
それは慰めると同時に自身を鼓舞する言葉。それでもティリスの心は軽くなり手の震えは止まった。
「もう行きますわ」
ティリスはグイっと両手で持ったグラスを傾けた後ゆっくりと立ち上がると、兄の胸に綺麗に折りたたまれたどこか貧相な小汚いハンカチを見つけた。
王族が使用するハンカチは当然それ相応の品が用意されている。さらに王子専属の執事や何人もの侍女がおりレオンの身だしなみに関しては少しの衣服の折れも許されない。
ティリスは気になり出したら詮索するタイプだ。
「お兄さま? その胸のハンカチを見せて下さらない?」
「ん? あぁこれか」
(まさかとは思うけど......あのお兄さまに?)
慕っている兄から受け取ったハンカチはとてもではないが上品とはいえない、ティリスも見た事のないような薄い布で作られたハンカチだ。
白い生地に独特だが可愛らしい花柄と何かの模様が縫われている。
ハンカチを持つ手が少し身震いしつつ恐る恐る兄に聞く。
「お、お兄さま? こちらはどうされたのですか?」
(私のお兄さまにいつの間に虫がついたのかしら!)
ティリスの眼光に力が入る。
「ひと月前の偵察のおりに助けた村人から礼の品として貰った物だ。捨てる訳にもいかぬしな」
ティリスは愕然とした。我が兄はその美形と体躯、そして王子という立場もありか幼少時から今まで数多くの女性からの贈り物から求婚まで後を絶たないが、ほぼその全てに対して返事も礼もおろか包みを開ける事すらせずに捨てる事なんてざらにある。
(これはセリスに問いたださなければいけないわね)
ティリスの胸の奥に帝国とは別の敵を見定めた瞬間だった。
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