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内に芽生える想い
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「レオン様、こちらでしたか」
慌てたように後方から駆けて来たのは、レオンと呼ばれた男と同じく黒のマントに身を包んだ銀髪の女性だった。
散らばる盗賊らしき男たちの死体、木々に付着したおびただしい血の中で、自身の上官の腕に抱かれた一人の緋色の髪の女性。一目で状況を把握した銀髪の部下は直ぐに襲われた商人の馬車の周りで生存者を探した。
未だ恐怖により身体の震えは止まる事はないが、ミザリーが気にかけていたのは家族の事だ。
「お母さん! リズ! どこ!?」
レオンの腕から離れ母と友の名を呼ぶ少女の歩みはふらふらと危なっかしく、レオンはチラッと一瞥した後面倒臭そうに溜息を吐いた。
「セリス」
突如名を呼ばれたセリスは「はっ」と返事を返し直ぐに駆けつけると、彼女はレオンの近くに倒れていたライラの腕を取り、しっかりとした脈動を確認するとレオンに迎って首を縦に振る。その後ろで子供の狼は目を覚ましておりゆっくりと起きあがろうとしていた。
「女。母親もペットも生きている」
レオンの素気ない一言にセリスは頭を抑えて首を横に振るが、ミザリーにはその言葉で十分だった。
「良かった」
そう呟いたミザリーは全身の力が抜けその場で崩れ落ちそうになるのを、一瞬で側に賭けたレオンの腕の中でミザリーは気を失ったのであった。
~~~
「うーん」
ミザリーは目覚め意識がはっきりとしてくると、暗闇の世界に外界の光が瞼の裏に広がり、ミザリーの瞳に灯す事のない光はされど照らされる。
ゆっくり起き上がり触れた感触や匂い、雰囲気からどうやら自身の部屋のベットの上と解る。
ミザリーの額に暖かな手が添えられるとライラの温もりにその手をギュッと掴んで涙を流した。
「ミザリー、心配をかけてごめんね」
「お母さんが無事で良かった」
上半身を起こすと彼女の側にフワフワなリズの毛が寄り添い、ミザリーはリズを抱きしめた。
生の喜びを感じていると、部屋の外から声が聞えた。
「それでは俺達はもう行く」
その声をミザリーは覚えていた。
直ぐにベットから抜け出しライラが拾ってくれていた杖も忘れて廊下に走る。
相手との距離を測りゆっくりと歩み寄ったミザリーは脚を止めると深々と頭を下げた。
「騎士様。本当に有り難う御座いました。良ければお名前を伺ってもいいでしょうか」
「名乗る程の者ではない。不運と思い忘れてしまった方が貴方の為だ」
レオンが振り返り外へと向かおうとするのを感じミザリーは焦った。
「あの! お待ちください!」
咄嗟にミザリーは机にあった出来たばかりのハンカチを握りしめて駆け寄った。
「これを! どうか何も返せない私の僅かばかりの感謝を」
レオンは受け取ったハンカチに困惑し返却しようとしたが、「う゛うん」と背中越しにセリスの非難が聞えたためほぼ反射的に返そうとする手が止まった。
長い緋色の前髪をかき分け、整った美しい顔が露わになるがレオンはただ一言「気にするな」と言って背中をむけた。
「行くぞ」
セリスに声をかけ家を出て行く二人の背中にミザリーとライラは深々と頭を下げ見送った。
~~~
あの日から一月が流れ、ミザリーの生活は元の生活にほぼ戻っていた。
「くぅ~ん」と身を寄せてくるリズの頭を撫でつつも仕事でもある編み物の為せっせと手を動かす。ほぼというのはミザリーの脳裏に顔は見えずとも繰り返されるように響くレオンの低い声が残り続けていたからだ。
「はぁ。もう会えないのかしら」
窓際に腰を下ろし木漏れ日が眩しく目を細める。
(彼の方はどんな顔をしているのかしら)
盲目のミザリーは母ライラや親友であるリズの顔すら知らない。そんな人生で初めて息がかかる程の距離で聞いた男の声は恐怖でしかない盗賊の声だった。
トラウマになりかねない体験が一瞬にして上書きしたのはレオンの温もりに他ならない。
上の空のままに動き続けた裁縫によって作られたハンカチの量にライラは驚かれる事になるのだが。
「気になるの?」
夕食の席で揶揄うようにライラに言われたミザリーは顔の火照りを感じて熱を手で仰ぐと。
「もうっお母さんったら。なんでもないです」
ミザリーは顔が真っ赤になったのを必至に隠そうとするが、ライラは娘に芽生えた気持ちに気付いていた。というか分かりやすい程上の空になっては頬を染める事があるのだ、誰でも気付くだろう。
あの一件以来、ミザリーもライラと共に村へ買い物や縫物の納品などについて行くようになった。それは半ば助けてくれた恩人の話が聞けないかという期待や、家の中だけではなく外に出る事にも慣れ母の負担を減らしたいという想いに駆られていたからだ。
まだまだ慣れないが、ライラと仲の良い村の女達はミザリーに良くしてくれた。そんな彼女の耳にある噂話が聞えてくる。
それは隣国がこの国に宣戦布告をしたという衝撃的な噂であった。
慌てたように後方から駆けて来たのは、レオンと呼ばれた男と同じく黒のマントに身を包んだ銀髪の女性だった。
散らばる盗賊らしき男たちの死体、木々に付着したおびただしい血の中で、自身の上官の腕に抱かれた一人の緋色の髪の女性。一目で状況を把握した銀髪の部下は直ぐに襲われた商人の馬車の周りで生存者を探した。
未だ恐怖により身体の震えは止まる事はないが、ミザリーが気にかけていたのは家族の事だ。
「お母さん! リズ! どこ!?」
レオンの腕から離れ母と友の名を呼ぶ少女の歩みはふらふらと危なっかしく、レオンはチラッと一瞥した後面倒臭そうに溜息を吐いた。
「セリス」
突如名を呼ばれたセリスは「はっ」と返事を返し直ぐに駆けつけると、彼女はレオンの近くに倒れていたライラの腕を取り、しっかりとした脈動を確認するとレオンに迎って首を縦に振る。その後ろで子供の狼は目を覚ましておりゆっくりと起きあがろうとしていた。
「女。母親もペットも生きている」
レオンの素気ない一言にセリスは頭を抑えて首を横に振るが、ミザリーにはその言葉で十分だった。
「良かった」
そう呟いたミザリーは全身の力が抜けその場で崩れ落ちそうになるのを、一瞬で側に賭けたレオンの腕の中でミザリーは気を失ったのであった。
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「うーん」
ミザリーは目覚め意識がはっきりとしてくると、暗闇の世界に外界の光が瞼の裏に広がり、ミザリーの瞳に灯す事のない光はされど照らされる。
ゆっくり起き上がり触れた感触や匂い、雰囲気からどうやら自身の部屋のベットの上と解る。
ミザリーの額に暖かな手が添えられるとライラの温もりにその手をギュッと掴んで涙を流した。
「ミザリー、心配をかけてごめんね」
「お母さんが無事で良かった」
上半身を起こすと彼女の側にフワフワなリズの毛が寄り添い、ミザリーはリズを抱きしめた。
生の喜びを感じていると、部屋の外から声が聞えた。
「それでは俺達はもう行く」
その声をミザリーは覚えていた。
直ぐにベットから抜け出しライラが拾ってくれていた杖も忘れて廊下に走る。
相手との距離を測りゆっくりと歩み寄ったミザリーは脚を止めると深々と頭を下げた。
「騎士様。本当に有り難う御座いました。良ければお名前を伺ってもいいでしょうか」
「名乗る程の者ではない。不運と思い忘れてしまった方が貴方の為だ」
レオンが振り返り外へと向かおうとするのを感じミザリーは焦った。
「あの! お待ちください!」
咄嗟にミザリーは机にあった出来たばかりのハンカチを握りしめて駆け寄った。
「これを! どうか何も返せない私の僅かばかりの感謝を」
レオンは受け取ったハンカチに困惑し返却しようとしたが、「う゛うん」と背中越しにセリスの非難が聞えたためほぼ反射的に返そうとする手が止まった。
長い緋色の前髪をかき分け、整った美しい顔が露わになるがレオンはただ一言「気にするな」と言って背中をむけた。
「行くぞ」
セリスに声をかけ家を出て行く二人の背中にミザリーとライラは深々と頭を下げ見送った。
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あの日から一月が流れ、ミザリーの生活は元の生活にほぼ戻っていた。
「くぅ~ん」と身を寄せてくるリズの頭を撫でつつも仕事でもある編み物の為せっせと手を動かす。ほぼというのはミザリーの脳裏に顔は見えずとも繰り返されるように響くレオンの低い声が残り続けていたからだ。
「はぁ。もう会えないのかしら」
窓際に腰を下ろし木漏れ日が眩しく目を細める。
(彼の方はどんな顔をしているのかしら)
盲目のミザリーは母ライラや親友であるリズの顔すら知らない。そんな人生で初めて息がかかる程の距離で聞いた男の声は恐怖でしかない盗賊の声だった。
トラウマになりかねない体験が一瞬にして上書きしたのはレオンの温もりに他ならない。
上の空のままに動き続けた裁縫によって作られたハンカチの量にライラは驚かれる事になるのだが。
「気になるの?」
夕食の席で揶揄うようにライラに言われたミザリーは顔の火照りを感じて熱を手で仰ぐと。
「もうっお母さんったら。なんでもないです」
ミザリーは顔が真っ赤になったのを必至に隠そうとするが、ライラは娘に芽生えた気持ちに気付いていた。というか分かりやすい程上の空になっては頬を染める事があるのだ、誰でも気付くだろう。
あの一件以来、ミザリーもライラと共に村へ買い物や縫物の納品などについて行くようになった。それは半ば助けてくれた恩人の話が聞けないかという期待や、家の中だけではなく外に出る事にも慣れ母の負担を減らしたいという想いに駆られていたからだ。
まだまだ慣れないが、ライラと仲の良い村の女達はミザリーに良くしてくれた。そんな彼女の耳にある噂話が聞えてくる。
それは隣国がこの国に宣戦布告をしたという衝撃的な噂であった。
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