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第七章 運命からの逃走 (怜一郎side)

54.恥ずかしい制服☆

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 レストランで雇ってくれるだって? ピアニストとして働けるチャンスかもしれない! 高級レストランならウエイターでもいい。
「住む場所も食事も提供してやる」
 ボブと名乗った黒人男性はアパートメントへ俺を連れて入った。

 リビングルームでは若い男たちが床に寝そべって談笑していた。
「マイク、ちょっと来て」
 金髪のすらりとした美青年を呼び、ボブは何かしゃべった。
 マイクはニコニコと俺を見つめて、握手した。
「ルームメイトだ」
 とボブが説明した。

「ユニフォーム」
 そう言って渡してきた袋があまりに小さくて、俺は聞き間違ったかと思ったが、袋の中には付けカフスと蝶ネクタイ付きの付け襟、そしてショッキンググリーンの極小Tバック下着が入っていた。
「えっ!?」
 ちょっと待って、これが制服って……。
 俺が顔をポッと熱くさせると、部屋にいたみんなが笑った。
 こんな格好で働くなんて……。さすがにプライドが許さない。
 俺の想像していたレストランとは違ったようだ。
 やっぱり出て行こうかと思ったとき、キッチンの方でタイマーが鳴った。

 さっきから何かいい匂いがしていると思ったのだ。
 一人の青年がオーブンを開け、大きなピザを取り出した。
 床でくつろいでいたみんながカウンターキッチンのところへ来て、チーズのとろける熱々のピザを一切れずつ取っていく。
 うわ、美味しそう……。
 空腹の俺がゴクッと喉を鳴らすと、マイクが俺にも食べるようジェスチャーした。
 彼のニコニコとよく笑い人当たりのいいところが龍之介を彷彿とさせ、俺の心はズキンと痛んだ。

 食事が終わると一同は路地裏の地下にある店へ移動した。
 シャワールームもある更衣室でテキパキと服を脱いで裸になり、付けカフスと蝶ネクタイ付きの付け襟、そして色とりどりの極小下着を身につけていく。
 みんな骨盤の上や太ももにタトゥーを入れていたり、乳首やへそにピアスをつけていたりした。
 マイクは心配そうに俺の着替えを見ていたが、俺は局部を見られるのが恥ずかしくて壁を向いて手で隠しながら素早く着替えた。

 龍之介に陰毛を剃られて以来、生えかけてくるとチクチクとかゆいので、俺は自分でも陰毛を剃るようになっていた。
 だから今も陰部には毛がなくて、男性器がどうにかギリギリ納まる小さなサイズの下着からも毛が飛び出さずに済んだ。
 全身鏡の前で俺は一周回り、自分の姿を確認した。
 ショッキンググリーンの薄い布は俺の陰茎と陰嚢の形をふっくらと浮き上がらせていて、ひも状のTバックの背面は俺の尻たぶを隠すことなくむき出しにしている。
 こんな姿で人前へ出るなんて……。考えただけでゾクッとして、乳首がツンと尖ってしまった。
 以前、龍之介とエリカに騙されて乗せられた船で、裸より恥ずかしい格好でランウェイを歩かされたことがあったと思い出した。
 そのときは仮面で顔を隠していたから今回よりマシか。いや、小さくても下着をつけている分、今回の方がマシか。

 それにしても、一流の大学を卒業した大企業の御曹司の俺ならもうちょっといい仕事に就けると思ったのに……。こんなハレンチな格好をさせられて、一体どんな仕事をすることになるのだろうか。
 他のみんなも小さな下着へ性器を詰め込み、そして胸を張って堂々と店内へ進んでいった。
 俺は何かの拍子にポロッと出てしまいやしないかと少し心配で、片手で頼りない下着を押さえながら歩いた。
 人前でポロリするなんて俺には耐えられない。

 そこはラグジュアリーな高級クラブのような店で、やってくるのは男性客ばかりだった。
 どうやら仕事内容はクラブのウエイターのようだった。過激な衣装のわりに、案外普通の業務内容で安心した。
 新人である上に英語も流暢にしゃべれない俺は、股間の前で手を組んで壁際に立っていた。
 先輩スタッフたちの仕事ぶりを見ていると、隣でマイクが簡単な英語とジェスチャーで説明してくれていた。
 しかしいつまでも見ているだけというわけにもいかず、カクテルを一つずつ載せた銀のお盆二枚を両手に持って、10番テーブルと12番テーブルまで運ぶよう言われた。
 一枚のお盆に両方のグラスを載せてくれればいいのに、と思いながらも俺は言われたとおりにそれらを両手に持った。

 両手が塞がっている状態では股間が無防備で心もとなかった。
 客たちは目新しい俺の全身を舐めるように見ている。
 薄い下着の中で嫌でも陰部がピクピクしてしまう。
 変に意識してはだめだ、勃起なんてしたら小さな下着から簡単に飛び出てしまう、と俺は頭の中で繰り返し自分に言い聞かせ、そっと深呼吸していた。

 店の中央まで歩いたとき、危なっかしくお盆を持つ俺に付き添っていたマイクが突然何かを大声で言い、床へかがんだ。
「えっ……?」
 どうしたのだろう、何が始まるのか、と思うと同時に、陰部がひやりとした。
 下を向いた俺は目を疑った。マイクが俺の下着の両サイドを指先で持って、するりと太ももの中央まで擦り下ろしたのだ。
「NO! NO!!」
 と叫んだけれど、皮を被った俺のイチモツはプルンと丸出しになっていた。

 客たちの視線が俺の股間に集まり、ワーオと感嘆の声が上がった。
 マイクは悪びれる様子もなくクスクス笑っている。
 嘘だろっ、なんてことしてくれるんだっ!
 怒りたいのに咄嗟に英語が出てこず、俺は悔しさに下唇を噛んだ。
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