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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

275 人生のロールプレイング ②

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 新くんと向井くんと理奈ちゃんと一緒の授業の前後は、今の私にとって数少ない息抜きの時間。今日で後期の授業もおしまいだから、これからきっとそんな時間を得るのは難しくなる。

「自己分析って難しいね。ネットで適性や適職の診断してみたけど、あんまり参考にならなくて……」
「真剣な診断じゃなくて、お遊びだけど、こんなのはどう?」

 向井くんが教えてくれたRPGのキャラになぞらえた性格診断を、みんなでやってみることにした。

「……私、僧侶になった。確かにゲームする時、後方支援と回復役してたなあ」
「理奈ちゃん、ぴったり!」
「納得しかない」
「藤田さんに合ってるね」
「……お! 俺は魔法使いだった! 意外とポテンシャル高いんだなあ!」
「裕也くんらしい感じする!」
「うん。確かに、向井らしい」
「僧侶と魔法使いって、相性よさそうな気がするよ!」
「そう? だったら嬉しいな!」
「……あ」

 そんなことを言っている間に、私の結果が出た。

「若葉ちゃんは? 何になったん?」
「……遊び人、だって」
「「なるほど……」」

 向井くんと理奈ちゃんは声を揃えてそう言うと、顔を見合わせ、黙ってしまった。
 私はそこまでゲームをせずに育ったから、遊び人というキャラクターがどういうポジションなのか、あまりピンとこない。ピエロの絵だし、道化のイメージなのかな。説明を読み進めると「全く戦闘の役に立たない、予想外のハプニングを起こしてしまうキャラクター」と書いてある。現実とリンクしすぎていて、お遊びのはずなのに少し落ち込んでしまった。

「僕、RPGをする時、遊び人、毎回パーティに入れてたよ」

 さらりと発せられた新くんの言葉に、思わず耳を疑う。

「……役立たずなのに?」
「なんだかわくわくするから。最初の頃は攻撃力と魔力と回復力のバランスがよさそうなメンバーできっちり進めてたんだけど、そうするとゲームが単なる作業になっちゃって、全然つまらなかったんだ。遊び人をパーティに入れると、予想外の出来事がたくさん発生して、楽しかった」
「新くん……」

 なんだかとっても救われた気持ちになる。私にもできることはあるんだって思えて。
 でも。現実では手堅さが重視されるし、新くんみたいに楽しんでくれる人ばかりじゃない。私でも役立てることを、何か見つけなきゃ。

「……あ、僕も結果出た」
「新は何になったん?」

 向井くんの問いに、新くんが不可思議な表情を浮かべる。

「……勇者?」
「おー! 格好いいな!」
「渋沢くん、勇敢なんですね!」
「いや……。僕には似合わなくない?」
「そんなことないよ! ぴったりだよ!」

 思わず声を上げてしまう。だって、私は新くんにいつも守ってもらってる。今だって、新くんは私が落ち込んだのに気づいて、フォローしてくれたもの。
 私の勢いに、新くんは少し困ったように笑った。

 利用できるものは利用した方がいい。お兄ちゃんがそう言っていたので、授業終了後、就職課に相談に行くことにした。お兄ちゃんもたくさんお世話になったって言っていたし。

「就職合宿というものがありますけど、どうですか?」

 私のようにどうしたらいいのかわからない学生のために、就職活動の一般的な手順を説明してくださり、面接の練習やエントリーシートの添削もしていただけるそう。そんなものがあるんだ。
 頼れるものは頼ろう。そう思い、私は二月に実施されるという就職合宿の申し込み手続きをした。
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