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第十章 扉が閉じて別の扉が開く
276 人生のロールプレイング ③
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私はたくさんのことをいっぺんにできる人間じゃないから、一つずつクリアしていくしかない。研究ももう少し絞り込まないと駄目だ。そう思い、三浦先生に和訳と草稿を見ていただいた後、申し出た。
「三浦先生。私、研究テーマを少し変えたいんです」
「どんな風に変えたいんですか?」
「私が西洋服飾史を研究することにしたのは、三浦先生から勧められたからです。もちろん洋服は好きですが、これまでの積み重ねと学会発表で、私は生活に美しさを取り入れることに興味を持っているのだと気づきました。漠然と服飾について調べるよりも、ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動に研究対象を絞りたいと思っています」
服飾だけから生活全般への変更だから一見範囲は広がったようだけど、時代とトピックが絞られた分、掘り下げやすい。学会発表の反省から、そう考えた。
「なるほど。もうすぐ今訳していただいているものが終わるので、次は、学会で緑川先生もふれておられた衣装についての論文を訳していただこうかと思っていました。でも、北村さんがそう決めたのならば、ウィリアム・モリス本人が書いた論文にしましょう」
少しずつ、少しずつだけど、先が見え始めている。
ひさしぶりに玲美ちゃんとお昼を一緒に食べることになったので、三浦先生の研究室を出た後、食堂へ向かう。春休みに入ったので相良ゼミはしばらくないし、玲美ちゃんはとにかく忙しくて、なかなか時間が合わなかったのだ。
玲美ちゃんと一緒にいるとほっとする。気を抜いても大丈夫という安心感がある。
「若葉、就職活動、苦戦してるんだ」
「うん。何が向いているか自分ではよくわからないから、いろいろネット診断しちゃった。お遊びでRPG診断っていうのもしてみたんだけど、『遊び人』って結果が出ちゃって。私、ほんと、役に立たないなあ……」
ああ、ちょっと、卑屈な言い方になってしまったかな。玲美ちゃんならきっと受け止めてくれるという信頼から、つい、弱音を吐いてしまった。
「若葉、あんまりゲームしてきてない?」
「うん……。小・中学生の頃は、話の合うお友達がなかなかできなくて、少し困ったの……」
場の空気を読めていないというのは、そういうところでも感じていた。
玲美ちゃんはゲームが上手らしい。オンラインゲームをいろいろやっているとお兄ちゃんから聞いた。お兄ちゃんと一緒にするものもあれば、他の人とするものもあるらしい。
「三浦先生。私、研究テーマを少し変えたいんです」
「どんな風に変えたいんですか?」
「私が西洋服飾史を研究することにしたのは、三浦先生から勧められたからです。もちろん洋服は好きですが、これまでの積み重ねと学会発表で、私は生活に美しさを取り入れることに興味を持っているのだと気づきました。漠然と服飾について調べるよりも、ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動に研究対象を絞りたいと思っています」
服飾だけから生活全般への変更だから一見範囲は広がったようだけど、時代とトピックが絞られた分、掘り下げやすい。学会発表の反省から、そう考えた。
「なるほど。もうすぐ今訳していただいているものが終わるので、次は、学会で緑川先生もふれておられた衣装についての論文を訳していただこうかと思っていました。でも、北村さんがそう決めたのならば、ウィリアム・モリス本人が書いた論文にしましょう」
少しずつ、少しずつだけど、先が見え始めている。
ひさしぶりに玲美ちゃんとお昼を一緒に食べることになったので、三浦先生の研究室を出た後、食堂へ向かう。春休みに入ったので相良ゼミはしばらくないし、玲美ちゃんはとにかく忙しくて、なかなか時間が合わなかったのだ。
玲美ちゃんと一緒にいるとほっとする。気を抜いても大丈夫という安心感がある。
「若葉、就職活動、苦戦してるんだ」
「うん。何が向いているか自分ではよくわからないから、いろいろネット診断しちゃった。お遊びでRPG診断っていうのもしてみたんだけど、『遊び人』って結果が出ちゃって。私、ほんと、役に立たないなあ……」
ああ、ちょっと、卑屈な言い方になってしまったかな。玲美ちゃんならきっと受け止めてくれるという信頼から、つい、弱音を吐いてしまった。
「若葉、あんまりゲームしてきてない?」
「うん……。小・中学生の頃は、話の合うお友達がなかなかできなくて、少し困ったの……」
場の空気を読めていないというのは、そういうところでも感じていた。
玲美ちゃんはゲームが上手らしい。オンラインゲームをいろいろやっているとお兄ちゃんから聞いた。お兄ちゃんと一緒にするものもあれば、他の人とするものもあるらしい。
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