上 下
277 / 352
第十章 扉が閉じて別の扉が開く

276 人生のロールプレイング ③

しおりを挟む
 私はたくさんのことをいっぺんにできる人間じゃないから、一つずつクリアしていくしかない。研究ももう少し絞り込まないと駄目だ。そう思い、三浦先生に和訳と草稿を見ていただいた後、申し出た。

「三浦先生。私、研究テーマを少し変えたいんです」
「どんな風に変えたいんですか?」
「私が西洋服飾史を研究することにしたのは、三浦先生から勧められたからです。もちろん洋服は好きですが、これまでの積み重ねと学会発表で、私は生活に美しさを取り入れることに興味を持っているのだと気づきました。漠然と服飾について調べるよりも、ウィリアム・モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動に研究対象を絞りたいと思っています」

 服飾だけから生活全般への変更だから一見範囲は広がったようだけど、時代とトピックが絞られた分、掘り下げやすい。学会発表の反省から、そう考えた。

「なるほど。もうすぐ今訳していただいているものが終わるので、次は、学会で緑川先生もふれておられた衣装についての論文を訳していただこうかと思っていました。でも、北村さんがそう決めたのならば、ウィリアム・モリス本人が書いた論文にしましょう」

 少しずつ、少しずつだけど、先が見え始めている。

 ひさしぶりに玲美ちゃんとお昼を一緒に食べることになったので、三浦先生の研究室を出た後、食堂へ向かう。春休みに入ったので相良ゼミはしばらくないし、玲美ちゃんはとにかく忙しくて、なかなか時間が合わなかったのだ。
 玲美ちゃんと一緒にいるとほっとする。気を抜いても大丈夫という安心感がある。

「若葉、就職活動、苦戦してるんだ」
「うん。何が向いているか自分ではよくわからないから、いろいろネット診断しちゃった。お遊びでRPG診断っていうのもしてみたんだけど、『遊び人』って結果が出ちゃって。私、ほんと、役に立たないなあ……」

 ああ、ちょっと、卑屈な言い方になってしまったかな。玲美ちゃんならきっと受け止めてくれるという信頼から、つい、弱音を吐いてしまった。

「若葉、あんまりゲームしてきてない?」
「うん……。小・中学生の頃は、話の合うお友達がなかなかできなくて、少し困ったの……」

 場の空気を読めていないというのは、そういうところでも感じていた。
 玲美ちゃんはゲームが上手らしい。オンラインゲームをいろいろやっているとお兄ちゃんから聞いた。お兄ちゃんと一緒にするものもあれば、他の人とするものもあるらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...